ランプ
ここは人が溢れそうなほど行きかう賑やかな商業都市。今は人工の明かりが鮮やかに街を彩る夜だ。
魔女はとある露店を開き商売をしていた。
「ねえ、もっと強いものはあるかしら?」
「いら…ああ、あんたか。もちろんあるよ。ちょうどできたばっかさ」
魔女の露店へ一人の銀髪の貴婦人がやってきた。ところどころ包帯を巻いているが、その美貌は損なわれることなく、むしろ怪しい蠱惑的な雰囲気を増していた。
魔女は常連客に笑いかけると、奥から一つのランプを取り出した。
この貴婦人はすぐにより強く光るランプを求めるので、常によくしていかないといけない。だが、魔女にとってはお客様に喜んでもらうための試練としてやりがいのある仕事だ。
「まあ、前よりも?」
「前よりもさ」
貴婦人は上品な笑みを浮かべると、代金を払いそのランプを購入した。
魔女は弾む足取りで人ごみに紛れていく貴婦人を見送った。
「ランプはありますか」
「ああ、あるよ」
また一人の客が来た。魔女はさっきのランプよりも数段劣るランプを取り出した。
貴婦人とのやり取りを見ていた客は気分を悪くしたが、魔女がつけてみると十分な明るさだ。
「あれ、さっきの人はこれで満足できなかったんですか」
「ああ、これは太陽光と同じ効果を持つランプでね。さっきのランプはより効果を強めたやつさ」
「?」
「たまにいるのさ、太陽に焼かれることに快楽を感じる不死者が。さっきの常連客はなかなかに位の高い吸血鬼なんだが、その筆頭さ」
「あ、はい」
客はそれ以上踏み込んではいけないと思い、思考を中断した。ヒクついた口からは鋭い牙が見え隠れする。
さっきの貴婦人は真祖であるから死ぬことは無いので、今頃部屋で楽しく叫んでいることだろう。
あと、そっちの趣味は無い吸血鬼なので、そのランプの購入をやめた。
「普通のランプをください」
「はいよ」
まっとうな趣味の吸血鬼は太陽光と同じではない普通のランプを購入し、走るように立ち去って行った。