美容水
ここは自然あふれる街。森の中にあり、家は大胆に樹木をそのまま使うように作られている。木々の隙間から木漏れ日が優しく差し込み、まさしくファンタジーな街だ。
「安いよー、安いよー。今なら美容水が安いよー」
そんな街で、一人の老婆が行商をしていた。黒いフードを深くかぶっており、見える部分はしわくちゃである。
「まあ、おいくらなの?」
そんな老婆に目を輝かせて声をかける女性が一人。十人中十人が美人と答えるほどの美貌を持った夫人だ。
「金貨20枚」
「高いわ」
円に換算すると20万円である。高くてもせいぜい金貨一枚の世界からしてみれば、あまりにも跳ね上がった金額だ。
「けれど効果に対してこれは安い」
「まあ、どんな効果なの?」
夫人は興味を取り戻したのか、再度聞いてくる。もちろん、目は輝いていた。
「100歳ほど若返る」
「若返りすぎよ」
夫人は老婆といくらかやり取りをした後、ため息をついて去って行った。
「あの…」
老婆はまた同じ町で行商をしていた。
「安いよー、安いよー。今なら…」
「どういうことなの!?」
老婆の掛け声を、突如甲高い大声がさえぎった。
「…ほえ?」
「あんたの美容水、全く効果が無いわ!?」
声のもとはこれまたすごい美貌を持った女性だ。
「ああ…」
この女性は、夫人が去った後に老婆から美容水を買った客だ。怒り狂った様子から、どうやら前に売った美容水に対してクレームをつけに来たらしい。
「鏡を見てもちっとも変っていないわ! どういうことなの!?」
わめきたてる女性に対し、老婆は
「そりゃ、エルフにとっての100年はそんな変化する歳月ではないからだよ」
無言になった女性の耳は細長くとがっていた。