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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第5章 キルケットオークション編(後編)〜キルケットの錬金術師編〜
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16 襲撃①

俺の劇場の案について。

アマランシアと打ち合わせをして、気付けばかなり遅い時間になってしまった。


だがあとは、帰ってミトラとクラリスの了解が得られれば、明日からでも本格的に動き出せるだろう。


「ふぁぁ…」


アマランシアと別れてから、ミトラのお屋敷への道を歩いていたら。隣でロロイが少し眠そうにあくびをした。


「悪いな、かなり遅くなった。帰ったら早めに寝よう」


明日から、またさらに忙しくなる。


「それよりも、ロロイはお腹が空いたのです」


「そうだなぁ」

 

ロロイの「倉庫」にはコドリスの香草焼きが何本も入っているから、俺がアマランシアと打ち合わせをしてる最中に、こっそり取り出して食べていればよかったのに…


俺がそういうと、ロロイは「その手があったのです!」と衝撃を受けていた。


そして、香草焼きを取り出して、歩きながら食べ始めた。


「歩きながら食べるなんて、行儀が悪いぞ。まぁ、別にいいけど」


だが俺がそう言った瞬間に、ロロイはピタリと立ち止まってしまった。


「悪い悪い。そのまま歩きながら食べてていいぞ」


そんな俺の言葉に対するロロイの答えは…


「そこに、人がいるのです」


だった。


ロロイが示す先。

薄暗くなった路地の先に、4つの人影が見えた。


「ロロイ?」


「あそこの4人、少し…嫌な感じがするのです」


「嫌な感じ? …って、どんな?」


俺がそう問いかけた瞬間。

俺はロロイによって突き飛ばされていた。


そして、直前まで俺がいた場所を。

風切り音を立てながら一本のナイフが通り過ぎ。後ろの壁に突き刺さった。


ナイフを…投げつけられた!?


「なっ…」


そして、4人の人影が一斉に走り寄ってくる。


「なんなのですかっ!? お前達は、何者なのですかっ!?」


ロロイが叫ぶ。


明らかに盗賊の類だ。

『何者だ?』と聞かれて簡単に正体を答える盗賊などいないだろう。


「ふははははは! 私はシルクレット!」


「……」


嘘だろ。

いきなり名乗りやがった。


「ただし! 『史上最高のイケメン冒険者・シルクレット』とは世を偲ぶ仮の姿! その真の姿は……盗賊団『黒い翼』の一員『シルクレットと怪盗三姉妹』のシルクレットなのだ!」


「答えるのかよ!」


しかも、この一瞬の間に4回も自分の名前を言ったぞ。


そして、その名前には聞き覚えがあり、顔には聞見覚えがあった。

確か以前、俺の遺物を買って行った男だ。


「商人アルバス君。君の持つ遺物と…マナを全て頂こう!」


無茶苦茶なことを言い出すこの男がシルクレット。

そして後ろにいる3人が、その妻だ。


遺物の売買をする時。

聞いてもいないのにペラペラと話してくれていた。


4人は、身体に密着した黒い衣装に身を包み、お揃いの赤いスカーフを巻いていた。

きっとそれが、盗賊団のトレードマークなのだろう。


そして、俺とロロイを取り囲むような陣形を取り始める。


無料ただでか?」


恐る恐る、確認してみた。


「もちろん」


「黒い翼…?」


「あぁ。君も名前を聞いたことくらいはあるだろう?」


「さぁな」


ロロイは、俺とシルクレットの間に立ち塞がって身構えている。


小声で「こいつら強いか?」と聞くと「たぶん、かなり」との答えが返ってきた。


本当にこいつらが、勇者ライアンのパーティからアイテムを盗み出して逃げおおせたという盗賊団(黒い翼)なら…


普通に絶体絶命の状況だ。

恐れていた最悪の状況だった。


薄暗くて人通りのない道で、自警団に通報してくれそうな街人もいない。


付近の家々に閉じこもっている人々は、自分に矛先が向かぬようにと息を潜めているに違いない。


「そこの3人が妻っていうのは、設定か?」


「いや、それは本当だ。我々は夫婦4人で1つのチームなのさ」


「黒い翼には、そんなチームがいくつもあるのか?」


「流石にそれには答えられないな」


「…ふざけた奴らだ」


そんなふうに俺と会話をしながらも。

シルクレットとその妻達は、ロロイと俺を取り囲む輪をジリジリと狭めてきた。


そして、シルクレットはナイフを取り出し。

それをいきなりロロイに投げつけてきた。


ロロイはそのナイフを、拳のカイザーナックルではたき落とす。

が、次の瞬間には2本目のナイフがロロイの肩を掠めていた。


「ロロイ!」


「アルバスはさっさと逃げるのです!!」


凄まじい剣幕でロロイにそう言われ。

俺は相手がロロイに気を取られている隙をついて、妻達の間をすり抜けて駆け出した。


「待ちたまえ!」


そう言って俺を追おうとしたシルクレットは、後ろからロロイの蹴りを喰らってずっこけていた。


すぐに体勢を立て直し、ナイフの二刀流でロロイに向かっていって、素早い連撃を繰り出すシルクレット。

そしてそれを後方から魔術で援護する3人の妻達。


それら全てを、ロロイが1人で捌いている。


1人で4人の盗賊団をまともに相手する、ロロイの底知れない戦闘力には驚いたが…

どう考えても分が悪い。


押し負けるのは時間の問題だ。


ふざけた野郎だが『黒い翼』を名乗るだけあって、やはり腕は相当に立つようだ。


こんな時。

俺自身が全く戦えないということが、もどかしくて仕方がなかった。



「うっ…」


ロロイが小さく悲鳴を上げた。

また、身体のどこかを切られたようだ。


「ロロイ!」


そう叫んだ俺に向かって、妻の1人から魔術が放たれる。


小火炎魔術フレアマル!」


発生した拳大の火球が、俺に向かってまっすぐに向かってきた。


「アルバス!」


ロロイが走り寄ってきて、その火球を殴りつけてかき消した。

火は消えたが、ロロイの手は火傷を負っていた。


「今、火傷取り薬草を…」


「後でいいのです。なんとか…アルバスだけでも逃げるのです」


「そんなこと…」


できるか! と言おうとしてやめた。


ロロイ1人なら、その気になれば戦線を離脱して逃れることもできるが。

俺がいるせいでロロイは真正面から4対1の不利な戦闘をしなくてはならなくなっているのだ。


俺が先に逃げてしまえば…

ロロイも逃げられる。


「ロロイ、これを使え」


そう言って俺は、倉庫から取出デロスした武器をロロイに手渡した。


『聖拳アルミナス(遠隔攻撃・風/打)』だ。


オークション出品予定の特級遺物だが、ここで手持ちのマナと遺物を奪われるくらいなら、多少傷がつくくらいはどうってことない。


そもそもが、手に入れた時すでに錆まみれだったのだしな。


「使い方は、わかるな?」


ガンドラから研磨済みのアルミナスを受け取ったあと。ロロイは一度だけ、ミトラのお屋敷の庭でその遠隔攻撃スキルの試し打ちをしていた。


使用経験はそれくらいだが。

最低限、スキルの発動方法くらいは確認してある。


「大丈夫なのです! アルバスは早くバージェス達のところまで逃げるのです」


そう言って、ロロイは聖拳アルミナスを装備した。


そして、再びシルクレット達の方に向かって走り出し…そのままシルクレットとの近接戦闘に突入していた。


「ちょっとまてい!?」


アホなのか!?


遠隔攻撃スキル付きの武器を装備して、近接戦闘をするなよ。


それ、意味ないだろ!?


思わず呆気に取られたのだが…


小火炎魔フレ…ぎゃっ!」

小水流魔術ウラル…痛ったぁっ!」


ロロイは聖拳アルミナスの遠隔攻撃スキルを巧みに使い。

シルクレットとの近接戦闘を繰り広げながら、離れた場所にいる妻達の魔術攻撃を封殺しているのだった。


小火炎…ぐぶぅっ! ぜ、全然魔術が使えないー!」


「ぎゃぁっ! 痛いー! シルクレット様…助けてぇ」



「ロロイ…めちゃくちゃ強いな」


思わず。逃げるのも忘れて見惚れてしまっていた。


ロロイは普段はトボケているようしか見えないが、戦闘に関しては異常なほどに感覚が優れている。


今のように新しい武器を持った時でさえ、それをどう使えば良いのか。それを使ってどう立ち回れば良いのかを。おそらくは本能的なもので完全に理解しているようだった。


ロロイは、すでに聖拳アルミナスを完璧に使いこなしていた。



そしてついに、妻の1人が膝をついた。


「アニール!? 大丈……うぎゃぁっ!」


膝をつく妻に駆け寄ろうとしたシルクレットは、後頭部にロロイの遠隔打撃を受けて地面に転がった。


「聖拳アルミナス…、なんか物凄いのですね」


自分で使いこなしておきながら、ロロイは驚きの声を上げていた。


聖拳アルミナスが凄いのは、当たり前だ。


それは、全世界で数えるほどしか存在しない最高級のレアスキルがついた武器だ。

使いこなせれば、確実に、最強の武器と呼べる代物になる。


「くっ!」


シルクレットが、よろめきながら立ち上がった。


「我が妻たちよ。こうなれば我らの最強魔術を使うぞ!」


シルクレットがそう言うが否や、妻たちが互いに頷き合って、一斉に魔術を発動した。


中火炎魔術ミルフレア二線デオライル


中水流魔術ミルウラル二線デオライル


中旋風魔術ミルヴィラド二線デオライル



反射的に放たれたロロイの遠隔打撃については、シルクレットが身を挺してその全てを受けとめていた。


「ぐふぅっ!」


彼女らの手から放たれた3種の魔術は、放たれた直後に二股に分かれる。


「「「六線ヘクサライル!」」」


そして6つの線となって、凄まじい速度で一直線に俺へと向かってきた。


「ヤバイ…」


これは…死んだかも。


ロロイの戦闘に見惚れてないで、さっさと逃げておけばよかった。


放たれ。

すでに目前に迫っている魔術に…


俺は逃げることもできずに立ち尽くしていた。

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