11 みんなの手持ち
その夜。
ミトラも交えて、俺たちは作戦会議を開始していた。
ジミーがどれほどの資金を用意してくるかわからない以上。残りの2ヶ月で1マナでも多くのマナを稼ぎ出す必要がある。
そしてそのためにも…
まずは、現状把握だ。
「これが、今の私の手持ちのマナだ」
そう言ってクラリスが出してきたマナは、約65万マナだ。
これまでに売った遺物の取り分を、ほとんど丸々取っておいてあったようだ。
「俺からは、さっきの通り100万マナだ」
バージェスが、先ほどのマナ袋を再び差し出してきた。
「悪いバージェス。私は…」
それを見ながらクラリスが何か、バージェスに向かって呟いていた。
「お前が始めからマナ目当てなんかじゃないってことくらい、ちゃんとわかっているよ。それとこれとは、別の話だ」
それを聞いて、クラリスはちょっと涙ぐんでいた。
クラリスって、意外とよく泣くな。
出会ってこの方、しょっちゅう泣き顔を見てる気がする。
「ごめんなさい。ロロイは、マナは全く持ってないのです」
ロロイがとても申し訳なさそうにそう言った。
「ロロイの分は、俺が全部預かる形になってる。本当ならロロイの分は、クラリスと同じく65万マナくらいはあるよ」
「なぬぅ! ロロイはそんなに大金持ちだったのですかぁっ!?」
ロロイはロロイで、本当にマナに頓着がない。
遺跡探索と遺物売りができれば良いというスタンスで。
普通の冒険者にとってはそれらの最終的な目的であるはずの『マナを稼ぐ』ということに関して、全く興味がないのだ。
どこか、通貨という概念が存在しない国から来たんじゃないかと思うくらいだった。
「そのロロイの分と合わせて、俺の手持ちは今160万マナだ。だから4人のマナを合計すると、今俺たちのパーティの手持ちは325万マナだな」
普通に考えれば。
ベテラン冒険者のパーティだって、ここまでの額のマナを溜め込んでいることは稀だろう。
トレジャーハント成功の賜物だった。
だが…
「まだまだ全然足りないな。わかってはいたけど…」
クラリスが呟いた。
そう。俺たちの目標とする額には、まだまだ全然足りない。
「ここから、どうするかだな」
しばしの沈黙が流れた。
必要なのは、最低でも600万マナ。
実際のところ900万マナから1200万マナは欲しいところだが…
現実はこんな状態だ。
どこぞの貴族様や、チート冒険者のように、相場の100倍とかの金額をポンと出して無双するようなことはできない。
現実的に考えて。
平民出の一商人が、貴族の買いたいものを掠め取ろうとするのは相当難易度が高い。
唯一のアドバンテージとしては、ジミーがこちらの動きに気づいていないという点だ。
あちらが、通常相場の600万マナ程度の資金しか用意してこなかったのならば、それを上回れば勝てる可能性もある。
それならば、十分に可能性はある。
だが、競り合いになる可能性の方が高い。
だから相手が競り合ってきた場合を想定して、今のここからどれだけのマナを積めるかは。今からの俺の商売。…つまりは商人としての腕っぷしや立ち回りにかかっているというわけだ。
…俺にやれるか?
貴族に、勝てるのか?
大商人としての道からは逸れるかもしれないが。
目の前に確かな目標ができて、俺の胸は静かに高鳴っていた。