03 盗賊団の脅威
「アルバスさん、お久しぶりです」
ある日。
俺がロロイと2人で、研磨を依頼していた遺物を受け取りにガンドラの店を訪れていた時のこと。
「かなり景気がいいみたいですね」
帰り際にガンドラ息子のガンツと、その妻のオレットに話しかけられた。
「こんなところで油売ってていいのか?」
2人はキルケット西地区の自警団の団長と副長だ。
そしてガンツは、本職の大工業をこなしながら、その合間を縫って自警団として活動しているので、相当に忙しいはず。
「実は、今日我々がここに来たのは自警団として…アルバスさんに会うのが目的なんです」
「?」
「黒い翼という盗賊団を…ご存じですか?」
「名前だけならな…」
ご存じも何も、ほんの1ヶ月ほど前にその盗賊団と間違われて磔にされるところだった。
……自警団の手によって。
夫妻は「その節は、大変申し訳ありませんでした」と恐縮しながら、話を続けた。
「その、黒い翼の活動が再び活発になってきています」
黒い翼というのは、毎年キルケット中央オークションが開催される時期に活動が活発になる盗賊団で、盗みを働くのに殺しも厭わない凶悪な奴らなのだそうだ。
本拠地はおそらくは遥か遠く、中央大陸のどこかにあるのだろうとのことだが。
キルケットのオークションに集まる金品珍品を狙って、1年のこの時期だけキルケット周辺に流れてきているのだと考えられているらしい。
「そうか。俺がライアンのパーティを抜けてから、もう1年になるのか…」
約1年前。
魔王ダンジョンの攻略を終えたライアンたちは、たまたまこのキルケットオークションの時期にヤック村周辺に居合わせた。
そしてキルケットでの活動に備えて待機していた黒い翼のメンバーと鉢合わせてしまったがために、アイテムの大半を奪われてしまったということらしかった。
「こんな言い方は良くないのですが…、昨年は勇者様のパーティがアイテムを奪われたおかげで、キルケットオークションでの黒い翼による被害がほとんどありませんでした」
1年前。黒い翼の面々はライアンたちからアイテムを盗み出し。昨年はそれで満足してどこかにあるアジトへと帰っていったのだろうとされていた。
ちなみにライアンたちが最後に目撃されたというこのキルケットでは。彼らは荷馬車を押して残ったコレクションアイテムや食料などを運んでいたのだそうだ。
もし…
俺の代わりに荷物持ちとして加入した踊り子のミリリの倉庫スキルが、ロロイと同じ程度の容量しかなかったのであれば。
どう考えてもあの量のコレクションは入り切らなかっただろう。
おそらくライアン達は、そこに付け込まれたに違いない。
つまり、俺があのまま勇者パーティにいれば、そんなことにならなかったということなのだろう。
「つまりは俺が抜けたせい…か」
まぁ、あっちから追放すると言ってきたのだから。今更後悔もクソもないんだけどな。
「あいつら、無事なんだろうな…」
流石に15年も一緒にいた奴らなので、どこかで変な死に方をされたりすると寝覚めが悪い。
ライアンとルシュフェルドのキズナ石は、いまだに薄ぼんやりとした光を放っていたが…
やはり彼らは未だに行方不明のままらしかった。
→→→→→
昨年は勇者ライアンの流れでほとんど被害がなかったのだが、一昨年の被害は甚大だったらしい。
オークションに出品予定だった、店の命運をかけた品物の数々を盗まれた商店の若旦那が、追い込まれて自殺をしたり。
盗賊団に襲われ戦闘の末に命を落とした護衛や商人も、何人もいたらしい。
そして、今年もまた。
黒い翼によるものと思われる被害がキルケット全域ですでに何件も起きているとのことだ。
つまり、ガンツとオレットが俺に会いに来た理由は、自警団として『黒い翼に警戒したほうがいい』という忠告をするためだったらしい。
「アース遺跡群の攻略の話に始まり、エルフへの高額での遺物販売など、アルバスさんは今かなり話題になっておりますので…」
「忠告ありがとう。ただ、警戒を強化するにしても、すでに黒い翼が暗躍しているというこの状況で、今更下手に護衛を増やすのは得策じゃないんだろうな」
今しがた聞いた話によると、ライアンたちは臨時で加入させたパーティメンバーによってアイテムを盗まれたということらしい。
おそらくは。ミリリの倉庫に入りきらなかったアイテムを、さらに人を増やして運ぼうとしたに違いない。
同じ流れで俺も…
護衛体制の強化のつもりで人を雇って、逆に盗賊団を身内に引き入れるようなハメになったら目も当てられない。
「2人が俺の護衛をしてくれるなら、ありがたいんだけどな」
ガンドラの息子夫妻で、自警団の団長と副団長なら信頼もおける。
「そうしたいのは山々なのですが…」
「申し訳ありません。我々2人は、西地区全体の警護が任務ですので…」
「わかってる。無理言って悪かった」
こういう時。やはり俺自身が全く戦えないというのが痛すぎる。
もしマナや遺物を持って商売をしているのがバージェスやロロイだったのなら、こんなふうに悩むこともなかっただろうに…
「大丈夫なのです! アルバスはロロイが守るのです! 誰がこようが、ロロイがやっつけるのです!」
隣で、頼もしい護衛がそう息巻いていた。
だが、殺しも厭わない盗賊団のメンバーに、数人がかりでかかってこられたら…
いくらロロイでもどうなるかわからない。
すなわち、このままの護衛体制でいることは、ロロイの身を危険に晒すことにもなるのだった。
「なにか、対策を考える必要がありそうだな」
せっかくガンツたちが忠告をしてくれたのだ。
このまま何もせずに窮地に陥るような真似は避けたかった。
 




