08 ありふれていなかった天賦スキル
しかしこの時、俺はまだ知らなかった。
俺の持つ天賦スキル『倉庫』が。
実は未だかつて存在しなかった。倉庫スキルの最上位互換『無限倉庫』であったことを。
本来、大きくても荷馬車1〜2台分程度の『倉庫』スキルの容量だが…
実は俺の場合は、無限。
つまり、いくらでも物が入れられた。
そしてそれは行商人として最高のスキルだった。
無限の容量があれば。身体一つを移動させるだけのコストで、いくらでも大規模な交易が出来る。
本来ならば多数の『倉庫』スキルの所持者を雇ったり。
多数の荷馬車を集めて大規模な旅団を組織し、大量の資金と人、労力をかけて運ぶ超規模レベルの交易が。
俺1人が移動すれば全て完結してしまうというわけだ。
だが…
勇者達のコレクションを全て吐き出した俺の『無限倉庫』に、再び大量の物資が入るのはまだまだずーーーっと、ずぅぅぅーーーーーっと先の話。
したがって俺がそのことに気づくのは、まだまだずーーーっとずっと後のことだった。
この後の話は。
剣と魔法とスキルの世界で。
戦闘能力ゼロの俺が。
人より少し容量が大きいだけ(だと思っている)の「倉庫」スキルを駆使して。
時にセコく、時に地道に商売を行ない。
ゆっくりじっくりと金を貯めていく地味〜な話になる予定である。
目指せ、大商人!
「確か…このヤック村は薬草の栽培で有名だったな…」
歩きながら、俺は呟いた。
もしかしたら薬草類が安く買えるかもしれない。
そして、それを持って隣町の冒険者ギルドに行けば、出発直前の冒険者達に、多少高く買ってもらえるかもしれない。
安く仕入れて。
高く売る。
これが商売の基本だ。
30,000マナ分くらい薬草を仕入れて、2割増しの36,000マナで売れば、差額の6,000マナは俺のものだ。
ライアンから渡された5万マナなんか、普通に暮らしてたら半年くらいで底をつく。
「まずは安定して、生活資金を稼がないとな…」
腕に自信があれば、冒険者ギルドでモンスター退治でも請け負うところだが…
残念ながら俺にその道はない。
それは15年前に挫折している。
なぜなら弱いから。
そして、(設定上も)強くなる予定はないから!
だがそれでも、金を稼がなくてはならない。
生きるために。
そして、いつか。
裕福になって妻を娶るために!
そして…
俺は大商人(?)に向けての第一歩を踏み出したのだった。