14 アルカナの提案
「アルカナさんは、なんて言ってる?」
俺たちは、翌日の夜。
再びバージェスが寝静まった頃に食堂に集まっていた。
クラリスとロロイは、緊張の面持ちで俺が手紙を読み上げるのを待っている。
「待て待て、焦るな…」
前半は俺への愛のメッセージだ。
…恥ずかしいから声には出せん。
「どうなのです!?」
「ロロイも焦るなって…」
そして中盤は近況報告。
「マジか! プリンが結婚したのか!?」
思わず声が出てしまった。
プリンは隣の共同浴場の少年と結婚することになったらしい。
というか、実は勢いですでに「済」だということだった。
血はつながっていないが。
一応、父親としては複雑な気分だ。
『僕は、プリンとプリンの生きているこの村を一生を懸けて守り続ける』
という、熱いプロポーズの言葉が決め手だったとかなんとか…
『君は、お父上とアルカナさんが守ってきた、この土地を守るんだ』
アルカナのお世辞かもしれないが。
以前に俺が薬草風呂でプリンに言ったそんな言葉が、プリンの気持ちに大きな影響を与えていたということらしい。
…感慨深いもんだな。
「アルバス…まだなのですか?」
「いつまで1人で読んでるんだよ」
俺が浸っていると、ロロイとクラリスに催促されてしまった。
「待て待て。もうそろそろそれっぽいところが始まるから…」
人がいい気分に浸っている時にコイツらめ。
早く早くと催促してくるロロイ達。
仕方がないので、とりあえずそれっぽい部分に書いてあることを読み上げた。
「なになに『薬草混浴風呂で、裸のお付き合い大作戦を決行すべし』だと? …はぁっ!?」
アルカナの提案する作戦は。
「男同士の裸の付き合い」と見せかけて、「えっ、女の子なの!?」という感じで勢いよくバラすというものだった。
「ダメダメだろ…」
アルカナ…。手紙の前半部分に力を入れすぎて、後半は力尽きてだいぶ適当だろ。
もはや、やる気を無くしているだろ。
口ですら言い出せないようなやつが、そんな方法でバラせるわけないって!
だが、ロロイとクラリスは…
「そんな大胆な方法を思いつくとは。さすがはヒトヅマなのです!?」
「それで行こう! わざわざヤック村まで行くんなら、きっと俺も覚悟が決まる!」
なんかノリノリだった。
コイツらマジで言ってんのか!?
「旅行なのです! ついでにアルバスの行商なのです!? あと、トレジャーハントなのです! アルバス。あっちの方には、どこか古代の遺跡はないのですか?」
「あるにはあるが、ビリオラ大断崖と呼ばれる亀裂の手前だ。難所のガラド大山脈を越える必要があるから、アース遺跡攻略に近いレベルの準備と覚悟が必要になる。行くとしたらついでとかじゃなくてキチンと準備してからだな」
まぁ古代の遺跡と言っても、あそこはアース遺跡よりかはかなり新しい200年ほど前の遺跡だ。
前衛都市ゴリアテ。
かつてのエルフ達との戦争において、最後の前線地帯であったと言われている。今は放棄された西の外れの都市だ。
「じゃ、今は旅行と行商なのです! 英気を養って、マナを貯めて、トレジャーハントの準備なのです!」
「そうだな。ヤック村に行くなら、モーモー肉を仕入れてくるか」
最近はモーモー焼きを出す店がだいぶ増えてきてはいるが、俺がたまにモーモー焼きの店を出してみるとまだまだ売れ行きは悪くない。
『元祖!アルバスのモーモー焼き』
第二次ブームの火付け役という知名度は、まだまだ健在だった。
また、通常の輸送コストを考えると、俺の店の値段設定はかなり安めだったらしい。
「なんでそんな金額で売れるんだ!?」
「うちでやってみたら大赤字だ!」
そんな声が聞こえてきたが…
今更値段を変えるのも変な話なので、俺は元のままの1串10マナでモーモー焼きを売り続けていた。
ちなみに他の店では、同じような量で20マナで売って、それでギリギリ採算が取れるくらいだそうだ。
かなりミスったぜ。
今度から値決めの際にはロロイサイズの倉庫スキルで、輸送コストを計算することにしよう。
「いざヤック村なのです! アルバスの奥さんに会いにいくのです!」
「なんか目的変わってるぞ、ロロイ」
そして、ヤック村行きの計画はあれよあれよという間に練られ、2日後には出発することになってしまった。
アルカナ…
『たまには帰って来い』って。
つまりはそういうことかな?
ヤック村を旅立ってから、実に半年ぶりの帰郷だった。