13 緊急会議
「緊急会議なのです! もう一刻の猶予もないのです。クラリスとバージェスが、アーケンの悲恋歌みたいになるのはダメダメなのです!」
そんなロロイの声が、しんとした深夜の孤児院に響き渡った。
「おいおいロロイ。その件はあまり大きな声で話すなよ」
俺たち3人は、ロロイの呼びかけで、バージェスが寝静まった後に孤児院の食堂へと集合していた。
「ロロイは、バージェスとクラリスが結婚して、幸せになって欲しいのです! だから、今すぐにでもバージェスにクラリスのことをバラして、すぐにでも結婚を申し込むのです! もういっそ今からでも夜這いをかけるのです!」
吟遊詩人、アマランシアの唄う『アーケンの悲恋歌』に触発されてしまい、ロロイはすでに興奮状態だった。
ところでロロイは、夜這いの意味をわかって言っているのだろうか?
クラリスは少し恥ずかしそうに俯いていた。
とはいえ。
この世界での「結婚」の条件は…やることをやることだ。
やることってのはつまり…
まぁ、あれだ。
俺がアルカナと繰り広げたグラウンドファイティングのことだ。
「♂」と「♀」が、ガッシーンてくっつくアレのことだ。
その『やること』をやってしまったら。
その時点でもう、互いに「結婚」に同意したとみなされる。
それを複数の相手としたら、複数の夫や妻を持つということだ。
ちなみに「奴隷」相手にはこれは当てはまらないことになっている。
だからこの国では「奴隷」などという都合のいい身分が重宝されているのだ。
男女問わず。結婚の条件を気にせずに、好きなようにやりたいようにやれるからな…
王都の裏町の娼館などでも、奴隷エルフを扱っている所の方が人気が出るというのは、そういうことなんだろう。
とんでもなく酷い話だけどな。
話を戻すと…
だからまぁ。ロロイの言うようにさっさと夜這いでもして。
さっさと既成事実を作って、さっさと結婚してしまうというのも。ある意味では1番手っ取り早い解決方法でもあるのだ。
「いや、そこはちゃんと順番を守りたい。勢いに任せて関係を持って。それで…っていうのは、なんか違う気がする」
クラリスがそう言い切った。
「……マジでごめんなさい」
「ん?なんでアルバスが謝るんだ?」
俺は今。クラリスからめちゃくちゃに責めたてられているような気がしたぞ。
クラリスはクラリスで、なかなか拗らせてて融通が効かない性格のようだ。
「アルバスは、何かいい案はないのですか?」
「んー…」
「そうだよ。アルバスとロロイの商人ネットワークで、何かいい方法を知ってそうな奴はいないのか?」
「んー…」
確か、媚薬の類を扱ってる商人もいたなぁ。
だが、効果の程は不明だ。
また、たとえ効果があったとして…
そんなものに頼るのは、クラリスの嫌がる「勢いに任せて〜」に他ならない。
ただ、3人でいくら悩んでも良い案が出てこないんだから、他の誰かの力を借りるってのはいいかもしれない。
「アルカナに、手紙で相談してみるかな」
「アルバスの奥さん!? それ、名案なのです!?」
「本当か!? ぜひ頼む!」
というわけで。
俺は倉庫を介して定期的にやり取りしているアルカナへの手紙で、クラリスのことを相談してみることにした。
…返事は翌日の夜にきた。