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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第4章 キルケットオークション編(前編)〜キルケットの女剣士編〜
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10 エルフのお客様②

遠巻きにしていた商人や街人たちから、感嘆の声がもれた。


エルフに対してだ。


このエルフは、今俺たちの目の前で火と水の2つの魔法属性を扱った。


それは、相当に珍しいことだ。


実は、それはエルフが人里に降りてくること以上に珍しい。


基礎属性と呼ばれる、基本となる魔術属性には、

「火、土、水、風」の4つがある。

この基礎属性は4大魔法属性と呼ばれている。


そして1人の人間が自らの力で発動することができる魔術属性は通常、この基礎属性のうちから1つのみだ。


その主たる属性はもはや生まれ持った天賦の才能なので、天賦スキル同様に後からはどうすることもできないとされている。


さらには、俺みたいに「主属性なし」で。

どれだけ修練を積もうが、1つの魔術属性すらも扱えないという者が世の中の大半だ。


ゆえに、1つでも主属性を所持し、修練によりその系統の属性魔術を発動することができるようになれば、それでもう『魔術師』を名乗れる。


また余談だが、応用属性と呼ばれる「光、闇」の、精霊の力を借りて発動する特殊な魔法属性も存在する。


これらは基礎属性の魔術を習得した者が、さらに厳しい修練を積むことで初めて発動可能になる。そしてその境地に至れば、それはもはや『大魔術師』を名乗って良いレベルだ。


大火炎魔術テラフレアを扱う、魔法剣士バージェスの主属性は間違いなく「火」だろう。


そしてさらには、光の精霊の力を借りる「光」の応用属性魔術をも使用することができると思われる。

それはもはや、バージェスが魔術師として大魔術師級の実力者だということを意味していた。



このエルフに話を戻す。


このエルフは先程、魔術書も用いずに火と水の2つの基礎属性魔術を発動した。

それは、本来はあり得ないことだ。


だからそれが、周りの商人たちの驚きを誘っているのだった。


ちなみに俺は過去に1人だけ、このエルフの他にも2つの属性を操る人物に会ったことがある。


というかそいつと15年も一緒に旅をしていた。


勇者パーティの黒魔術師であったルシュフェルド。

彼女は「火」と「土」の2つの主属性を持った魔術師だった。



→→→→→



そのエルフは、うめき声を上げるごろつきたちを一瞥した後、俺の店の前まで進んできて立ち止まった。


さっき口を出したことについて、何か文句を言われるのだろうか?


もしかして、俺も今からあのごろつき達みたいに焼かれるんだろうか…


ロロイは。

エルフのすぐ脇で、すでにカイザーナックルを装備して身構えている。


「アルバスにさっきのをやろうとしたら、ロロイが許さないのです!」


このエルフが魔術を使用するそぶりを見せれば、その瞬間にロロイが殴りかかるだろう。


俺の命は、護衛のロロイの実力にかかっていた。


「可愛い護衛さんだこと。…でも、先程火だるまにした方々よりは、よほど腕がたちそうですね」


「やるのなら…」


「護衛さん、拳を納めてください。私は争うためにここまで来たのではありませんから」


そしてエルフは、俺の方に向き直った。


「遺物売りのアルバス様。なにか、良いものはございませんか?」


このエルフは、なぜか俺の名前を知っていた。


ガンドラとの一件以来、そこそこ名前が売れているのは確かだが…

エルフの隠れ里とか、そういったところにまで話が及んでいるとは、流石に驚いた。


「良いもの…とは?」


「あなた方がアース遺跡の最深部から発掘したという、古代の遺物…」


つまりこのエルフは。

俺たちのトレジャーハント成功の噂を聞きつけて、始めから俺の店が目当てでこの広場へ来たということらしい。


「具体的に、どんなものを探している?」


とりあえず、有無を言わさず焼かれることはなそうだったので。俺は少し強気に出ることにした。


「魔法系統の属性スキルのついた武具。もしくは、失われた魔法属性の…古代の魔導書などを」


「そんな貴重なものを、ここで出す気はない」


「今ここに、50万マナがございます」


そう言って、エルフの女が腰の袋から、いくつかの封霊石を取り出した。


確かに、50万マナ分程度はあるようだった。


「いかがでしょうか?」


そう言って、翡翠色の瞳がすぅっと細められた。


たしかに50万マナもあれば、十分に特級遺物の相場に手が届く。


実は…

俺は特級遺物は全てオークションに出品する気でいたのだが、それは無理らしかった。


ガンドラによると「出品枠」というものがあるらしい。


そのため、初参加で貴族でもない俺が、手持ちの全ての特級遺物をオークションに出すのは、まず無理だろうとのことだった。

どんなにうまくいっても2〜3枠程度の出品枠を確保できるかできないかというところらしい。


セット売りという手もなくはないが。

寄せ集めのようなセット品となると、おそらくは値段が付きづらい。


で、あれば。


相手が本気で買う気があって、それなりの金額を提示してくるのであれば、ここで特級遺物を売ってしまうのも有りだ。


「なるほど…。本気なのはわかった」


ならば、こちらも本気で相手をしよう。

殺し合いではなく商談であれば、それは商人おれの領分だ。


「今、鑑定が済んでいるもので、それに当てはまりそうなのはこの辺りだな」


そう言って俺は、4つの武具と2つの魔導書を女に見せた。


『アルフレッドの懐刀(属性魔術強化・火)』

『キュレルの短剣(水属性付与)』

『アルコギラの腕輪(属性防御・風/闇)』

『ガトラントの魔法の脛当て(属性防御・闇) 』

『古代の魔導書(失われた氷雪魔術)』×2枚

『古代の魔導書(失われた雷電魔術)』×2枚


武具は全て、鑑定士ガンドラによるアイテム鑑定に加え、スキル鑑定まで済ませた物だ。


周りの商人たちが、ざわざわとざわめいた。


魔法系統の属性スキル付きの武器は、間違いなく特級に分類されるだろう。

そして、基礎属性でも応用属性でもない古代魔法属性の魔術書も。相当に貴重なものだ。


今俺が出したものを全て合わせれば、どこで売ったとしても間違いなく50万マナは超えるだろう。


そのエルフは「ここまできた甲斐がありました」とそう言って…


『アルフレッドの懐刀(火属性魔術強化)』

『アルコギラの腕輪(属性防御・風/闇)』

『古代の魔導書(失われた氷雪魔術)』

『古代の魔導書(失われた雷電魔術)』


を選んだ。


「この4つで、おいくらになりますか?」


「そうだな。49万マナ…だな」


俺は、懐刀は20万マナ。2属性防御スキルの腕輪は25万マナ。そして魔導書は各2万マナだと、女に説明した。


懐刀は相場で考えると15万マナ程度だろうが。

火の属性魔法を扱う目の前の女にとって、多少高くても手を出したい代物だろう。


「少々高くはありませんか?」


「俺が魔導書類の価値を高く見積もっているのだろう。これは、使い方によっては化けるはずだ」


わざと、懐刀とは違うところについての話を振ってみると、女が食いついてきた。


「ですが、雷電と氷雪の魔導書は、他の遺跡からも度々発見されているものではないですか?」


「なら、他の遺物商人から買えば良いだろう」


そのエルフは「ふっ」と少し笑った。


「初めに手持ちを見せたのが間違いでしたね」


「何の話だ?」


俺は平静を装ってそう答えたが、

確かに女の言う通りだ。


あれで俺は『この女は50万マナまでなら出す気がある』とわかった上での値決めができた。


本当なら、さらに上をふっかけて様子を見たかったところだが…


「では、全て合わせて45万マナでいかがでしょうか?」


そこで、女がいきなり4万マナも値切ってきた。


魔導書分まるまるじゃねーか!


「あんたな…」


流石にそんなには引けないぞ?


そう言いかけて、やめた。


エルフの女の、翡翠色の瞳が真っ直ぐに俺を見据えている。


最初に5万マナほどふっかけていたので、実は45万マナでもまだ、俺の考える相場よりは高い。


この女は…

おそらくは俺のふっかけた金額まで全部承知の上で、4万マナを値切ってきている。


そう感じた。


その上で、つまりは『1万マナ分は花を持たせてやる』と、そういう事だろう。


言われるがままの話に乗るのは非常に癪ではあったのだが。

俺の5万マナのふっかけを、ここであまり大声で話されるのも具合が悪い。


これで、お互いに気持ち良く欲しいものが手に入るならば、まぁそれも良いだろう。


「わかった、商談成立だ」


俺は、そこの金額で折れることにした。


「ありがとうございます。良い買い物ができました」


そう言って。

口元を隠したエルフは、翡翠色の目を細めてにっこりと微笑んだ。



そうしてその日。

俺はスキル付きの武具2点、魔導書2点と引き換えに、45万マナを手に入れた。


そのエルフは、購入した武具と魔導書を一通り検品した後、代金分のマナを置いて去ろうとしていた。


「未鑑定の遺物はまだまだある。そちらにまだマナがあるなら…また日を改めてくれればそれらも紹介できるかもしれない」


去り際のエルフに、俺はそう声をかけた。


俺がエルフの値引き交渉を受け入れた1番の目的はここだ。

出品数に制限のあるオークションで、全ての遺物を売り捌ける訳ではない。


そうなれば。

50万マナをポンと出せるような客は、エルフだろうと何だろうと、貴重な上客に違いない。

ここでマナにこだわって決裂するより、次に繋げる方が何倍も価値がある。


エルフはそれには答えず。

小さく一礼をして去っていった。


何人かのごろつきが後を追いかけようとしていたが…

エルフに睨まれて引き下がっていた。



→→→→→



「ふぉぉぉぉおおおおーーーっっ!!!!」


そして、ロロイ大興奮だ。


「よくわからなかったけど、すっごく高く売れたのです!?」


「よくわからなかったのかよ!?」


思わず声に出して突っ込んでしまった…



「属性スキル付きの武器なんて、初めて見たぜ」

「くそぉっ! 俺も今からアース遺跡に挑戦するかぁっ!?」


周りの客達も大興奮だった。


人里に現れたエルフの話と共に。

俺の遺物の販売金額がかなり大きな話題となっていた。


俺は勇者パーティにいる時に、中央大陸で何度も特級の遺物売りを経験していたので。

大体の相場観は持っていたのだが…


キルケットの商人たちからすると、その金額はかなりの高額に思えたようだった。



→→→→→



その夜。


「マジ…か」


本日の遺物売りの金額である45万マナの1/3である。15万マナ分の封霊石を手渡すと、クラリスの受け取る手が震えていた。


「600万マナを貯めるんだろ? 15万マナくらいでビビっててどうするよ」


「あ、あぁ…」


ロロイは、バージェスとクラリスに向かって。

何度も何度も俺とエルフの娘とのやり取りについて話していた。


はなしながら思い出して、また興奮度が高まっている様だった。

ロロイ大興奮再び、だ。


だが今日の一件では、実は俺もかなりの手応えを感じていた。


スキル未鑑定の遺物はまだまだある。

ガンドラの鑑定と共にスキルの鑑定が進めば、まだまだ価値のあるものが見つかるはずだ。


そうすれば…

ここで稼いだマナを元手にして、さらにでかい商売を始められる。


稼ぎ出せるマナの額によっては、キルケットで土地や建物を買って自分の家や店を持つことだってできるかもしれない。


そんなことを考えていて、その夜はなかなか寝付けなかった。

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