08 鑑定屋④
ちなみに自警団の2人の男女は、男の方がガンツで、女の方がオレットというらしかった。
ガンツは鑑定士ガンドラの実の息子。
そして、オレットはガンツの妻だとのことだ。
2人はキルケット西部地区自警団の団長と副団長で、最近バージェスに盗賊団絡みでいろいろと依頼を出していたらしい。
そして、以前バージェスとパーティを組んでいたことがあり、その縁で結婚した2人なのだそうだ。
「息子の大恩人であるバージェスの旦那のお仲間とは知らず。本当にご迷惑をお掛けしやした!?」
思い込みの激しい頑固親父ガンドラと、そんな父親を嫌っていたガンツとの間の親子仲を取り持ったのも、実はバージェスなんだとか…
『キューピッド・バージェス』
はじめは色々と馬鹿にしてたけど、結構普通に慕われてるっぽかった。
「でかい割引の約束をしてもらったんだ。もう、これ以上頭を下げるのはなしだぜ。ガンドラさん」
さらに頭を下げ続けようとするガンドラを、そう言ってなだめ…
今日のところは予定通りに『大商人グリルの手紙』を鑑定してもらうことになった。
そして十数分後。
俺たちは、ガンドラのサイン付きの『大商人グリルの手紙』の鑑定証を受け取った。
この店の「アイテム鑑定」の定価は100マナだが、俺は8割引きだから20マナだ。
儲け!
ガンドラは、キルケットオークションの関係者などにも顔が効くらしく。そこ向けの商品の鑑定を請け負うこともあるらしかった。
つまり、ガンドラのサイン付きのアイテム鑑定証は、キルケット貴族たちのお墨付きを得ているようなもんだ。
鑑定屋ガンドラの鑑定証付きの『大商人グリルの手紙』
あくまでも俺の予想に過ぎないが、5万マナくらいの値はつきそうだった。
「とんでもねぇ! あっしの見立てでは、10万マナは軽くいきまっせ!? 50点を越えるグリルの妻の宝飾品類とセットにすりゃあ、100万マナ超えも夢じゃねぇですよ!」
本当にそうなら、大儲けだ。
他の遺物については、後日正式に鑑定や研磨を依頼すると言って。俺たちは一旦引き上げることにした。
鑑定代金の割引に加え。
鑑定屋のガンドラを味方にできたのはこの上ない収穫だ。
中央オークションへ俺たちの遺物を出品するための足掛かりにもなる。
準備は徐々に整いつつあった。
俺は年甲斐もなく、ワクワクが止まらなかった。
→→→→→
数日後。
俺とロロイが、いつものように荷馬車広場で遺物売りをしていると…
「キューピッド・バージェスのパーティが。勇者パーティに続いて、アース遺跡群の攻略を成し遂げたらしい」
「無名だが『元勇者パーティだ』という男と、手を組んだって話だ」
なんていう言う話が聞こえてきた。
周りの商人達が、そんな噂をしているのだ。
「鑑定屋のガンドラ爺さんの鑑定で『大商人グリルの手紙』が鑑定されたらしい」
そんな話までが、既に噂で出回りはじめているようだった。
「本物のトレジャーハンターが出てきちゃ。あんたらももう、商売あがったりだな」
「ロロイちゃんと会えなくなるのは寂しいけど、早いうちに店を畳んだ方が賢明なんじゃねーのか?」
荷馬車を並べていた商売仲間達が、そんなことを言って俺とロロイをからかった。
そこまで悪意もないからかいなので聞き流していたのだが…
そいつらは、数時間後には血相を変えて俺に詰め寄ってきた。
「あんたが! 元勇者パーティのアルバスなのか!?」
ロロイは普通に俺の名前をそう呼んでいたし。
以前は『アルバスのモーモー焼き』なんていう看板を出して商売をしていた時期もあった。
俺の名前自体は、商売仲間達に既に知れ渡っていたのだ。
そしてどうやら噂話のなかで『元勇者パーティのアルバス』と言う名前が出てきて、俺と名前がつながったらしい。
商売仲間達は、目を白黒されながら俺とロロイから事の次第を聞いていた。
「あのキューピッド・バージェスが、ロロイちゃんを『人生の相棒』と言っていたって、それも本当の話かっ!?」
「万年キューピッド役のバージェスにも。ついに春が来たのかっ!?」
「…それは嘘だな」
もしくは、バージェスが勝手に思い込んでいるだけだ。
「…? ……ロロイの相棒は。ここにいるアルバスなのですよ?」
と、現在俺と2人きりのパーティを組んでいるロロイが応じた。
「……」
「……」
ちょっとだけ。
商売仲間達の視線が痛かった。
それは誤解だぞ。
ちょっと話は逸れるけど…
バージェスに春が来つつあるってのは、一応本当の話なんだけどな。
→→→→→
そんなこんなで。
俺たちが売り出している遺物には、『本物だ』と言う確かな箔がついた。
『アース遺跡群の攻略を成し遂げたトレジャーハンター』が売る遺物を見たり買ったりしようと、俺の荷馬車商店の前には、連日人だかりができるようになった。
「俺はただの商人だよ。トレジャーハンターは、こっちのロロイだ」
俺がそう言うと、毎度様々な反応が返ってきた。
「こんな小柄な女の子が!? 冗談よせよ」
「だが、ガタイが5倍もある大男の鑑定屋を、この細腕でぶちのめしたって話だ」
そんな噂が回って、ロロイ見たさにやってくる客まで現れ始めた。
「あれが、地下迷宮の崩落現場の岩盤を素手で打ち砕き、迷宮の魔物を4体同時に殴り殺したというトレジャーハンターの女の子か!?」
「商人アルバスは、とんでもない怪物を護衛として連れてるって話だ」
「……」
噂というのは、いつの間にか尾鰭がつくものだった。
とにかく。いままで1日に数点売れるか売れないかだった遺物が、最低でも10点は売れていくようになった。
そして…
「もっと貴重なものは無いのか? 是非、見せてくれ」
そんなことを言ってくる客までが現れ始めた。
「多くはまだ正式な鑑定待ちだ。あと、申し訳ないが上級〜特級に分類できそうな遺物は。オークションに出品するつもりだ」
荷馬車広場の他の商人たちの視線は、もはや数日前までとは全く違うものになっていた。
俺たちの遺物売りは色々と良い方向に進み始めているようだった。
「ロロイの遺物が! 世界中を席巻していくのですぅぅーーっっ!!!」
ちなみに、この流れにはロロイも大興奮だった。




