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【書籍1,2巻発売中】戦闘力ゼロの商人 ~元勇者パーティーの荷物持ちは地道に大商人の夢を追う~  作者: 3人目のどっぺる
第4章 キルケットオークション編(前編)〜キルケットの女剣士編〜
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07 鑑定屋③

「バージェス」


「バージェスさん!?」


俺と自警団のトップらしき男が、ほぼ同時に叫んだ。


「何やってんだ? こんなところで」


バージェスが、自警団と店主達に取り囲まれる俺たちの元へ歩み寄ってきた。


「盗賊団『黒い翼』の関係者らしい2人を捕らえました。これから本部にて尋問を行った後、はりつけの刑に処す予定です」


バージェスと顔見知りらしい自警団の男が、事情を話し始めた。


「盗賊団だぁ? んなわけねーだろ! こいつらは、俺の仲間だぞ…」


「えっ、いや…しかし…」


自警団の男は、しどろもどろしながら。

俺たちが、勇者パーティか黒い翼しか持っていないはずの。アース遺跡のものと思われる特級遺物を持っていたことなどを、バージェスに説明した。


バージェスは、それを眉間に皺を寄せながら聞いていた。


「当たり前だろ?」


そう、バージェスが口を開く。


「そこのアルバスとロロイ、そして俺とこのクリスでパーティを組んで。俺たちはアース遺跡の最深部まで潜ってきたんだ。その遺物は、その時に手に入れたものだ」


「へっ…?」


自警団の男は、変な声を上げたまま固まってしまった。


「そんな馬鹿な!?」

「あの、大商人ノッポイの部隊ですら、最深部には到達できずに戻ってきたと言うのに…」

「最下層は、すでに岩盤で埋まっていたと言う話なのでは…?」


周りの店主達からも、驚きの声が漏れた。


「信じる信じねぇは各人の自由だが、これは事実だぜ。アルバスがその特級遺物とやらを持っていることが、逆に何よりの証拠だろう」


バージェスがそう言い切った。


「ほ…本当に…?」

「いや、しかし…」

「だが、バージェスさんが言うんだったら…」


ざわめきが大きくなり…


ガンドラと自警団の2人は青ざめていた。


どうやら。

俺とロロイは、裸ではりつけにされずに済みそうだった。



→→→→→



「ほんっっっっっとうに、済まねぇっっっ!?」


初めに俺に掴みかかってきた骨董屋のガンドラが、地面に頭を擦り付けて俺たちに謝っていた。


場所は骨董屋の奥の部屋だ。


ガンドラ、俺、ロロイ。

そしてバージェス、クラリスに加え…


自警団のトップらしい男女の2人もいて。

ガンドラの隣でかしこまっていた。


ロロイは俺の隣で、体力回復薬をドリンク代わりにして焼き肉を貪り食っている。


「そうならそうと。きちんとそう言ってくださればよかったのに」

自警団のトップの片割れ。女の方がそう言った。


「アース遺跡を攻略しただなんて。あの状況で俺が言ったって誰も信じなかっただろ? 下手な事を言えば余計疑われたのが目に見えてる」


「うっ…」


女は、それ以上何も言えなくなったようだ。



「バージェスの旦那。本当に…、あの遺跡を攻略したんですかい!? 勇者様のパーティの後、何組ものトレジャーハンター達が挑んでますが、未だに勇者様達に続くパーティは現れてねぇんですよ?」


恐る恐る。ガンドラがバージェスにそう尋ねた。


「あぁ…」


そしてバージェスは。

俺が元勇者パーティであることに始まり、俺が以前遺跡を攻略した時の道を、今でも完全に記憶していることなどを話した。


「まさかっ! 『勇者パーティしか持っていないはずの遺物』を持っていたのは、その勇者パーティの方でしたかっ!」


自警団の男の方が、畏まりつつも思わず声を上げていた。


「『元』だよ。俺はもう追放されてる。それに勇者パーティっていっても、俺はただの荷物持ちだ」


とりあえず、そう答えておいた。


「いずれにしろ。アルバスのおかげで、俺たちはアース遺跡を攻略できた。いわば今回の立役者だ」


「いやはやなるほど…それならば。この話も全て納得がいきます。……アルバスの旦那には、早とちりでとんだご迷惑をおかけしやした」


そう言って。ガンドラは改めて地に頭を擦り付けた。


そのあまりの平伏っぷりに、俺は流石にそろそろなんらかのケリをつけたくなってきていた。


「頭なんざ下げられたって、1マナにもなりゃしないんだけどなぁ?」


「いや…本当にすまねぇ…。すみませんでした」


責められていると思ったのか、ガンドラはさらに頭を下げた。


だが、俺が言いたいのはそういうことじゃない。


「俺たちはお互いに商売人だ。ならば…この貸しは商売で返してくれ」


「え…ええ! もちろんですとも。鑑定でしたかね!? いくらでも承りますぜ」


「もちろん。半額くらいには、まけてくれるんだろ?」


思いっきり吹っかけてみたがつもりだが。

ガンドラから返ってきたのは意外な言葉だった。


「とんでもない! 迷惑かけた詫びに、旦那の鑑定は全て無料ただで承りまっせ!」


マジかよ!? 大儲けじゃねぇかっ!?


俺の頭の中で。

鑑定にかかる予定だった経費が、カシャカシャ…チーン! と音を立てて0マナになった。


「……」


…だが。


それじゃあ一方的すぎる。

相当な迷惑をかけられたのは事実だが、商売仲間として長く付き合っていくに当たっては、それに付け込みすぎるのは良くない。


「ガンドラさん、あんたも商売だろう? 流石に無料ただはいけねぇよ。……8割引きでいいか?」


それで『経費分+ちょっと』くらいは出るかな。


「へ…? へいっ!?」

ガンドラの目が見開かれ、少し涙ぐんだ。


「お気遣い感謝しやすっ! アルバスの旦那ぁ!」


初めに言ったのより値引き率を大きくして、それで感謝されるとは…

なんとも妙な気分だ。


「うぅっ…。あっしは、こんな自分が恥ずかしい。…アルバスの旦那は間違いなく大商人の器だ」


ガンドラはさらに涙ぐみながらそんなことを言っていた。


怒ったり、落ち込んだり、泣いたり…

感情の赴くままに忙しいおっさんだな。


こういう思い込みの激しいタイプは。

敵にすると厄介だが、うまく味方につけるといろいろと手助けをしてくれるはずだ。


無料ただにはならなかったが…

鑑定を依頼したい遺物の総数を考えると、この割引率はかなりデカい。


「アルバス…『儲け!』なのですか!?」


俺の代わりに、ロロイがそんなことを言ってニコニコしていた。



なんだかんだで。


色々と丸くおさまったようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 磔にされて殺されそうになったのに情けを掛ける理由あんの?
[気になる点] これまでにいったい何人の無実の人が磔になっていたのだろうか。
[一言] 無駄に人脈のある駄目人間…
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