03 「初めて売れたのです!」
売れない遺物売りの俺たち。
ほとんどカカシみたいなもんだ。
薬草の方は、西門で売っていた時からの客とかも定期的にきてくれてそこそこに売れるのだが、遺物の方は全く売れない。
なんか…
俺は無性にモーモー肉を焼いてやりたくなってきていた。
そんなある日の昼過ぎになろうかという時間帯。
俺たちの荷馬車商に、旅装の商人らしい男が近づいてきた。
2人の屈強そうな護衛を連れていて、それなりに稼いでいる商人のようだった。
「これから王都に帰るのだが。なにかキルケットに来た記念で手土産にできるようなものを探している」
その商人はそう言って、俺たちの店を物色し始めた。
しばらくふらふらと悩んでいるようだったので、俺は声をかけることにした。
「それなら、これなんかはどうだ?」
俺が差し出したのは『壁画の断片』だ。
ちなみに、元々ロロイが遺跡の表層で拾い集めてきていた遺物だ。
「アース遺跡群で発見された、古代人の壁画の一部だ。ここに描かれている線が3頭のウルフェスで、こちらが古代人だな」
「1頭に槍のようなものが刺さっているな」
「ああ、おそらくは古代人の狩猟を描いた壁画なのだろう」
そう。ロロイの「鑑定」によると…
この遺物は『ウルフェス猟の壁画の断片』だった。
「ちなみに。ご存知だとは思うが、ウルフェスはこの西大陸の特有モンスターだ」
「なるほど。西大陸の特有モンスターを狩猟する場面が描かれた、アース遺跡の古代壁画の一部か。西大陸の手土産としては悪くないかもしれないな。…いくらだ?」
「200マナだ」
「よし、買おう」
そうして、遺物が売れた。
「遺物はなかなか売れないんでな。これは俺からのサービスだ」
そう言って、俺がその壁画の断片をウルフェスの毛皮で包んでやると。その商人はたいそう喜んだ。
折りたたんで下に敷けば、そのまま飾り付けにも使えるなどと説明した。
「ありがとう」
「こちらこそ」
→→→→→
客が去った後。
「やったなアルバス! ロロイ!」
ちょっと興奮気味にクラリスがそう言った。
ロロイは、俯きながらしばらくプルプル震えていた。
そして突然…
「うほぉぉーーー!!! ロロイの遺物が、初めて売れたのです!!! しかも200マナ!? アルバスのモーモー焼きが20本も買えるのです!」
と、我慢しきれなくなって大声を張り上げ始めた。
「初めてだったのかよっ!?」
たしかに、西門でロロイの遺物が売れてるところは一度も見たことなかったけど…
周りの商人や客たちにジロジロと見られたが、もはやお構いなし。
ロロイはもう大興奮だった。
とりあえず、買っていったお客がいるうちは我慢してたからよしとするか。
「ロロイの『鑑定』のおかげだよ」
「アルバスの『商売』が凄かったのです。ロロイはあんな風には話せないのです」
砂岩の断片に、ただのヒョロヒョロした線が数本描いてあるだけなのだが。
『ウルフェス猟の壁画の断片』
と言われれば、確かにそう見える。
というか『鑑定』の結果がそうなのだから、実際にそうなのだろう。
それをうまく伝えてやれば。
知らなければ、ただの『模様のような線がついた石ころ』で終わる遺物が、キルケットの手土産になる『古代の壁画の一部』としての価値を持つ。
凄いぜ! ロロイの鑑定!
うまく使えば、マジで大儲けできるぜ!
そもそも、普通は鑑定を依頼するだけでもそれなりのマナがかかる。
「もっともっと売るのです!? ロロイの遺物を、世界中に広げるのです!」
ロロイはご満悦で。
俺まで嬉しくなってきた。
だがまぁ、そんな奇跡は何度も続かず。
その日売れた遺物はその一つだけだった。
それでもその晩、ロロイは嬉しそうに、バージェスとミトラに何度も何度もその話をしていた。