34 ざまぁな余談(ノッポイ編)
そしてこれは余談だが。
魔法剣士バージェスの魔法剣に怯え、迷宮の奥へと逃げ出したノッポイは…
当然のようにとてつもなく酷い目にあっていた。
「ふざけるっぽいな! 貴様らそれでもポイの護衛っぽいか!」
主人を置いて慌てて逃げ出した上。
結局相手の攻撃は不発。
今度こそはリオラを我が物にしようと例の広間に戻ったが、当然のようにリオラ達は撤退したあとだった。
「ポイを謀りおったなーーー!! 何が聖騎士だ! あのペテン師どもがぁぁーー!」
超絶にご立腹なノッポイ。
地団駄を踏みながら壁を蹴飛ばしたら、罠が発動して迷宮の魔物が出現した。
「うぴぃぃぁぃ! ポイを守れぇ!」
その場にうずくまって泣き叫ぶノッポイ。
そう…彼自身はとてつもなく弱かった。
本来、迷宮の底で踏ん反り返っていられるようなスキルも、魔法も、技も、体力も…
そして度胸すらもない。
彼が唯一頼れるのは、マナ。
「金蔓様! 今行きます!」
「金蔓様! 早くこちらへ」
「金蔓様! お守りいたします」
そして、頼りになる護衛達は。
見事に迷宮の魔獣を討伐した。
「よくやった! よくやったっぽいぞ我が護衛隊!」
そして、無言でノッポイを見つめる6人の護衛と、8人の雇われ冒険者。
「……。よし。特別報酬だ。今のモンスターの討伐により、1人5,000マナをやるっぽい!」
その場で、懐から封霊石を出して。
護衛達にマナを配るノッポイ。
「ありがとうございます。金蔓様!」
彼らは、確かな絆でつながっていた。
だが、ノッポイは焦っていた。
なぜなら、もう手持ちのマナが残り少なかったからだ。
1,000万マナは持ってきていたはずだが。
食料や支援アイテムを、マナに糸目をつけずに大人買いしたり。
事あるごとに護衛達に特別ボーナスを出していたせいで、かなりもうカツカツだった。
特に、迷宮に入ってからは酷かった。
事あるごとに迷宮の魔物が出現し。その度に部下達が特別ボーナスを要求してきた。
はじめは1人2万マナだったのが。
なんだかんだ言って1万マナに減らし。今や5,000マナまで減らしたのだが。
それでももうキツい。
手持ちは100万マナを切っていた。
カッコつけて、リオラの周りにいた奴らを1人10万マナで買収しようとしたが…
実は手持ちはこんな感じ。
しかも今の討伐でまた、護衛達に5000×14=7万マナを支払っていた。
実は、アルバス達を買収するような余裕はもうノッポイにはなかったのだ。
そろそろマジでやばい。
「ポイは、モーモーの肉が食いたいっぽいぞ。誰ぞ持っておらんか? 誰も持っておらんっぽければ、一旦地上に戻って…」
「金蔓様、こちらに!」
冒険者の1人が、倉庫からホカホカのモーモー焼き肉串出して、ノッポイに差し出してきた。
実はアルバスのやつだった。
「う…うむ。っぽい」
受け取ろうとすると…
「5,000マナになります」
「は?」
「いや、だからこのモーモー肉は俺が個人的に食おうとして買っておいたやつなんで…。いくら雇い主様でも、ただじゃ渡せねぇですよ。それとも、もうマナ…ないんですか?」
「あるっぽいぞ! ナメるな下等な冒険者が!」
そう言って、5,000マナを冒険者に支払った。
ちょろすぎるノッポイ。
そんなこんなで搾り取るだけ搾り取られ。
恐る恐る「もう手持ちが無くなったっぽい」と宣言。
これでついに地上に帰れるかと思ったのも束の間。
今度は借用書へのサインをもって。
それに代わることになった。
「金蔓様! 迷宮の魔物を討伐いたしました!」
「うむ、よくやったっぽいぞ!」
「金蔓様! 体力回復薬(小)、1万マナでございます!」
「う…うむ。買おうっぽい」
「金蔓様! モーモー肉にございます! 先ほどより塊が大きいので、6,000マナにございます」
「今は、腹がいっぱいっぽいので…」
「金蔓様!」
「う…買おう!」
もはや、彼らは迷宮を攻略する気などなかった。
だって、歩いても歩いてもキリがないんだもの。
というか、入り口っぽいところが、岩盤で完全に塞がれてて進めなくなっていた。
多分これ、地下5階層とかもう崩れて埋まってるってことじゃね?
そんな気がしてから、もう。
みんなの目的が変わった。
ギリギリまで粘って。
ノッポイから絞れるだけ搾り取って。
生かさず殺さずの状態で王都のお屋敷まで送り届ける。
そしてこの借用書をもってして。ノッポイの父である本物の大商人チッポイから、さらなる金をせしめる。
今や、それが目的になっていた。
→→→→→
だが…
ノッポイにも。
実は大いなる野望と目的があった。
それは、王都で聞いたある噂話。
「第十王女のリオラ様が『西の太陽』をご所望だとのことだ」
西の太陽。
それは、西の大陸で消息を断った。リオラにとってかけがえのない存在である、妹のフィーナのことを言っていた。
「あの子は、私にとってかけがえのない太陽のような存在なのです」
それを、ノッポイは「西大陸の無尽太陽」だと解釈した。
そして…
「第十王女のリオラ様は、それを手するまではご結婚する気はないそうだ」
そんな噂話も聞こえてきた。
勇者の妻になり、その決死の旅に同行する王女の候補として。第六王妃はフィーナとリオラを勇者の前に差し出した。
勇者は、いったんは支援魔術師として優秀なリオラを選んだが、心優しいフィーナはリオラの身代わりになることを選んだ。
母にすら明かしていなかった天賦スキル「光精霊の加護」の所持を手土産にして自ら勇者に擦り寄り、その夜のうちに関係を持って結婚の契りを交わすことで、リオラの身代わりになってその旅に同行して行った。
勇者といえども、底の知れない魔界ダンジョンの攻略などとうてい不可能。
そう思われていたため、それは死にに行くのに等しい行為だった。
だから。
魔界ダンジョンの消滅が確認され、勇者パーティが全員無事でそれを攻略したらしいと言う知らせを受けた時。
リオラは涙を流して、妹の無事を喜んだ。
だが、そのフィーナが今は行方不明。
だから、フィーナが無事に戻るまで…
リオラは自分だけが平和な結婚をする気などなかった。
つまり…その言葉の意味は、そういうことだった。
だが、ノッポイは。
「つまり、西大陸のアース遺跡群にて無尽太陽を手に入れた者を、夫として迎えるつもりだということっぽいな!」
と、解釈した。
そして、貯金の全額を手に。
金を積んで買収した父の護衛隊の隊員を連れて。
意気揚々と西大陸に出発したのだった。
思い人の第十王女と同じ名前の。
美しい人妻女性が、自分の一行に加わりたいと申し出てきた時には、神がこの旅の成功を保証してくれているようにさえ感じた。
だが、その女性はまったくもってノッポイの思い通りにはならなかった。
その辺りから、ケチがつき始めたように感じる。
そしてそのリオラは。
最後には、迷宮のど真ん中でノッポイのパーティを抜けると言い出した。
怒りで頭に血が昇ったが…
結果は知っての通り。
結局、どうにもならなかった。
そして…
ノッポイの旅の結末は…
「うう…、死ぬ……もうダメっぽい…」
「大丈夫です! 金蔓様! 棍棒がかすっただけじゃ、死にません」
「だが、めちゃめちゃ痛いっぽいぞ。かすったところが腫れて、じんじんしてるっぽい」
「大丈夫です! かねづる様! 我々がなんとしてでも王都のお屋敷までお連れいたします」
「うう…ダメだ。無尽太陽を…、ポイはそれを手に入れねば…」
「そもそもアーティファクトは、入手することができないからアーティファクトなのです。古代の超技術を用いて、この世界とは異なる世界から力を引き出していると言われています。なので、どんな手を使っても手に入れるようなことはできません」
「そそそ…、そーなの…、っぽい?」
「えっ? 知らなかったんですか?」
「……。もう帰る。……っぽい」
その後も事あるごとに約束手形は増え続け。
ノッポイが王都に帰り着く頃には、調子に乗った護衛達はポイ家の全財産並の約束手形を抱えていた。
どうなるノッポイ。
そしてチッポイ!?
どら息子に食い潰される、豪商一族ポイ家の運命やいかに!?
というのは。
マジでどうでもいい余談でした。
今回こんなんで。
本当にごめんなさい。