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33 お宝鑑定と、念願の荷馬車

クラリスの姉、ミトラが用意してくれた朝飯を食べ終えて。

俺は戦利品の山を見てニヤついていた。


「これ、全部お宝か!?」


「そうなのです! 全部が全部、お宝なのです!」


ない胸を張って威張るロロイ。


よだれが垂れそうだ。


ロロイにじゃなくて。お宝にだぞ!

…念のため。


とにかくもう我慢できないので、早速鑑定を始めてもらうことにした。


「これは『キルケの壁画の断片』、これは『エミレットの薬箱の蓋』、これは『斬鉄剣ユグドラの刀身の破片』、こっちは『斬鉄剣ユグドラの柄』、これは『大商人グリルの手紙』『ウルフェス猟の壁画の断片』これは『ドルトレッド海峡の通行手形が刻まれた石』こっちは『錆びたガロン卿の胸当て』これは……」


ロロイの「鑑定」によって、次々と本来の名前を明らかにされていくガラクタ達。

俺たちは、その一つ一つに。ロロイから聞いた名前を書いた紙を貼り付けていった。


「大商人グリル…、吟遊詩人の物語で何度か聞いたことがあるぜ。確か、世界各地にいる何人もの妻に。死ぬまで手紙を送り続けていたとか……。クソ羨ましい野郎だな」


バージェスが恨めしそうにそういった。


「それなら、他にも同じのがたくさんありそうなのです。じゃあこれは、あまり貴重なものではないのです」


そう言ってロロイは『大商人グリルの手紙』を、初級遺物の仕分け場所に持って行こうとした。


…ちょっと待て!


「とんでもないぞ! 大商人グリルの行商行脚は、ほぼ伝説だ。さらには本人が実際に存在したかどうかも疑問視されてるほどだ。…そんな奴が書いた本物の手紙が出てきたって話になれば、これは凄まじい値が付くぞ」


その布切れに書かれた、かすれた古代文字の羅列を見ながら。俺は、流石に興奮が隠しきれなかった。


やはり、古代遺物の価値鑑定には。ある程度の知識も重要になるようだが。

あとは、それをどうやって証明するか、だ。

俺たちがそう言ってこれを高値で売ろうとしても、まず誰も本物だとは信じないだろう。


だが、下手なアイテム鑑定士のところに持って行けば。

嘘で「安物だ」と言って二束三文で買い取ろうとしてきたり、下手をすればすり替えられたり、盗まれたりもしかねない。


まずは、名前が売れていてそれでいて信頼のできる鑑定士を見つける必要があった。


そしてゆくゆくは。

俺たちが、勇者パーティに続きアース遺跡群の地下都市での遺跡探索トレジャーハントを成功させた二つ目のパーティであることや。

俺が元勇者パーティであったことなども、大っぴらにしても良い。

そうすれば話の信憑性が増し、俺たちの出す遺物には当然のように高値がつきやすくなる。


だが、それはしっかりとした下準備を終えてからだ。

いきなりそう名乗り出ても、ただのペテン師だと言われて終わるのがオチだ。


また刀剣をはじめとした骨董武具の類も、磨き直すなどして復活させる必要がある。


骨董武具のまま、骨董品としての価値を売りにするという手もあるが。それにはやはり先ほどの、信頼のおける鑑定士が必要になる。


ただの錆びた鎧だと思われるのと。

アース遺跡の最下層からの出土品で、伝承に名を残す古代の公爵「ガロン卿」が使用した胸当てだと認識されるのとでは、値段に天と地ほどの差が出るだろう。


しばらくは、孤児院ここを拠点にして。

この戦利品達を高値で売り捌くための下準備を進める必要があるようだった。



ノッポイのやり方は、ムカつくが理に適っていた。

マナに物を言わせて、派手にメンバーを集めれば当然大きな噂になる。


その上で遺跡探索トレジャーハントを成功させて、アース遺跡の地下5階層からの出土品だと言って遺物を売りに出せば。それだけで一つのストーリーが出来上がり、話の信憑性とともに彼の出す遺物は「本物」だと認識される。

それに、もともとの本人の知名度も高かった。


まさにヌルゲーだ。

…ノッポイが、そこまでちゃんと考えてたかどうかは知らんが。


勇者パーティにいた頃の俺もそうだ。

各地で数々の遺跡を探索し、数多くの魔獣討伐を成し遂げている勇者ライアンのパーティ。

『そのパーティの一員である俺』が、持ち込んだ遺物やモンスター素材だからこそ。瞬時に「本物」だと判断されていた。



だか、今の俺は。


まだ、何者でもない。


だからこそ俺は、これから商人としていちから信頼と実績を築き上げていく必要があった。



その一環としてだが。


バージェスから入った報酬額2万4,800マナと、元々の手持ちを合わせておよそ12万マナになったので…

俺は念願の『荷馬車』と『行商許可証』を買った。


合わせて11万5000マナなり。

残りの手持ちは1200マナ。


「あっぶねぇ…」


ギリギリすぎて笑えてきた。


食料と水と寝床が確保できているので、そこまで問題にはならないが。手持ちはかなりカツカツになってしまった。


だが。

本当に価値のある遺物おたからを売るのならば、荷馬車を構えて荷馬車行商広場でやった方が絶対にいいに決まっている。

信頼と実績を積み上げるためには、それがいいはずだ。


そのための投資であれば。

これは必要経費だ。


ここから…

まだまだここからだ。


目指す先は、はるかに遠く。

世界を股にかける大商人。


だが、着実に。

俺はその道を一歩ずつ進めている。


今は、確かにそう思えていた。

「キルケットのトレジャーハンター編」メインストーリー終了でございます。

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございます。


今回は嫁は増えませんでしたが、専属の護衛ができましたので…それで勘弁してください(笑)


残るは「余談」と「目録」で、今日の夜と明日の朝に投稿予定です。


余談は、今回マジでどうでも良い話です。

先に謝っておきます! ごめんなさいm(_ _)m

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