32 帰還
アース遺跡の地下都市からの帰り道は、非常に順調だった。
懸念していたように。ノッポイの部隊と出くわすようなこともなかった。
代わりに、何体かの迷宮の魔物と遭遇したが。その度にバージェスとアークの、大剣と長剣のコンビが近くの大部屋まで誘い出して、危なげなく撃退した。
アークは、元々はバージェスの教え子だったらしく。息もぴったりだった。
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地下2階層の。
3階層への入り口の亀裂がある大広間にも。ノッポイの部隊はいなかった。
代わりに、めちゃくちゃにされた荷馬車と荷物の残骸が転がっていた。
「あーあ、もったいない」
地面に散らかっている荷物は、ほとんどが食料や水だった。
つまり、大したものは残っていなかった。
回復薬なんかの、多少値の張るものは、探索部隊の「倉庫」の中に入れていたのだろう。
何はともあれ。
帰り道は大した危険もなく。収穫もなく。
予定通り、地下都市を出発してから7日目に、地上へと帰還した。
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俺たちが外に出た時。
太陽は。
ちょうど沈んでいくところだった。
長期の遺跡探索を終えて。
実に、1ヶ月ぶりの太陽だ。
沈みかけというのが残念だが。
これはこれで風情がある。
「綺麗だな…。遺跡に潜る直前にアルバスが言ってたこと。今なら身にしみてわかる気がするよ」
クラリスが、ポツリとそう呟いた。
『太陽をよく目に焼き付けておきな。しばらく……、下手すりゃもう2度と拝めないぞ』
確か、そんなことを言った気がする。
アーク、リオラ、バージェスの3人も。
皆それぞれに感慨深い思いで、沈みゆく太陽を見つめていた。
「ロロイも…、なんかわかる気がしてきたのです」
『もう焼き付けたから、もう行くのです!』とか言って。真っ先に太陽に背を向けて遺跡に入っていったロロイも。
流石にひと月ぶりにみる太陽には、感傷的になっているようだ。
だが。突然「倉庫取出」と唱えて。
無尽太陽の欠片を封じ込めた水晶玉を取り出した。
途端に、あたりが昼間のような明るさに包まれる。
「でも! ロロイは太陽を手に入れたのです! これでまた地下に入った時でも、いつでも太陽に会えるのです!」
超得意げなロロイ。
「しまえしまえ! そんなもんここで見せびらかすな!」
貴重すぎる。周り中のトレジャーハンターから一斉に狙われでもしたら、たまったもんじゃない。
まぁ。普通は閃光玉か光源魔術の類だと勘違いしてくれると思うけど。
「遺跡の中で試し忘れてたから、ついつい」
てへっ、という感じで舌を出しながら。ロロイは無尽太陽の欠片を再び自分の倉庫にしまった。
それから、その晩は遺跡群のど真ん中で夜を明かした。
そして次の日の昼前に、俺たちはキルケットへと帰還した。
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リオラとアークは、再びフィーナの行方を追って今度は南の町へ行ってみるとのことだった。
そんなリオラに、俺はフィーナのマナがこもったキズナ石を手渡した。
「俺よりも。リオラ様が持っていた方がいいと思います」
俺がそういうと。
リオラは涙ながらに、俺に感謝の言葉を述べた。
「『様』などと付けないでください。命を救っていただいたことも含め。あなた方には、感謝しかありません。今すぐにはお返しできるものが何もありませんが。いずれ、必ず」
そう言って深々とお辞儀をした。
そのままキルケットの西門で別れ、2人は雑踏の中へと消えていった。
それから俺たち4人は。ミトラの孤児院へと帰りつき、その日はしっかりと体を休ませた。
そして翌日からは、待ちに待ったお宝の鑑定だ!