06 退職金
そうこうしているうちに、俺は勇者達のコレクションの全てを俺の倉庫から取り出した。
その後は、薬草などの薬関係から、魔導書などの戦闘支援物資や、最後には食糧や水の類に至るまで。『倉庫』内に保管していたものの全てを吐き出した。
「これで全部だろうな? ネコババしたらただじゃおかねーぞ?」
「ああ…、間違いない」
俺はそう言って、几帳面につけていた全アイテムの目録を差し出した。
冊子一面にびっしりと書き込まれたアイテム帳簿を一瞥し、ライアンはそれを俺に突き返してきた。
「読めるかこんなもん」
街道を完全に塞いだ勇者達の持ち物の数々。
俺はアイテムの目録に片っ端から「×」をつけていく。
残ったのは、わずかな、、水筒とか、そんな生活必需品だけだった。
そういえば。俺の『倉庫』のなかに、自分の持ち物ってほとんどなかったんだな。
「おっと、これはお前のだったな…」
そう言ってライアンは、錆びた鉄の棒を俺に差し出してきた。
「懐かしいな…」
俺は思わずそうつぶやいていた。
まだパーティを組んだばかりの頃。
金がなくてまともな武器を買えなかった頃の、俺の武器だ。
その後、ライアンはどんどん武功を積み上げて金を稼ぎ、次々と新しい武器を手に入れていったが、
俺は、結局どんな武器を使っても弱いままだったので、途中で全部売っ払ってしまった。
ただ、なんとなくこの最初の武器だけは、思い出としてとっておいていた。
これから1人になってしまうにあたり、丸腰よりは少し気持ちが楽だった。
これがあれば…、ゴブリンくらいなら倒せる。
「ほら、退職金だ」
そう言ってライアンが差し出してきたのは、、封霊石に入った50,000マナ。
これだけあれば、二つ先の町くらいまでは護衛を雇えるだろう。
破格の…安さだ。
「はぁ…」
俺はため息をついて、歩き出した。
ライアン達は、すでに俺のことなんか眼中になく、各々のコレクションを自慢して悦に入っていた。
なんとなく、ライアンのパーティに入って、
なんとなく、15年も過ごしてしまった。
俺のこのパーティでの15年分の働きが、50,000マナだ、と言われれば…
ひょっとしたらそうかもしれない。
その15年で、ライアンは「勇者」と呼ばれるようになり、仲間達もそれぞれに素晴らしい2つ名を持つに至っていた。
変わってないのは俺だけ。
今でも、荷物を持つ以外のことはほとんどできない。
手の中の封霊石に入った50,000マナを見て、
再び、ため息が出た。




