30 商人アルバスの専属護衛
その後、俺たちは地下都市の探索を開始した。
ゴブリンをはじめとするモンスターは、この地下都市までは進入していなかったらしい。
地下都市への本来の入り口だったと思われる巨大な登り階段がある横穴は、2年前と同様に巨大な岩盤で埋まっていた。
俺たちは。
俺たちの来た出入り口にリオラの感知罠魔術を仕掛け。
もし何者かがそこから侵入してきてもすぐに伝わるようにした上で、しばらくは警戒しながら地下都市を巡回していた。
だが。
2日の探索期間を経てもモンスターその他との遭遇はなかった。
そのため、俺たちは無尽太陽のある建物の2階をベースキャンプとして定め、あとは各々自由に街を探索して回ることにした。
つまり、見つけた遺物のネコババは早い者勝ちだ。
腕がなるぜ!!
「………」
ごめんなさい。
一応、見つけた遺物はパーティで共有して、後で山分けってことになってます。
そして、パーティの荷物持ちで雇われている俺にも、一応1/4の権利があるみたいです。
バージェスから「荷物持ち」の報酬も受け取る予定なのに…
出発前。
「本当にもらっていいのか?」と何度も尋ねたのだが、やっぱり本当にそれでいいらしい。
…なんていい奴らなんだ。
→→→→→
その地下都市は、人の気配もモンスターの気配も皆無だった。
だが、リオラはそれでも諦めきれず街中を回ってフィーナの痕跡を探し続けていた。
俺たちのトレジャーハントの方はというと…
目ぼしい建物の内部はすでにライアン達が探索したあとだったが、それでもさまざまな遺物を発見することができた。
「すっごいものを見つけたのです!!」
そう言って、ロロイが錆び錆びの鉄屑を拾ってきた。
「なんだこれ?」
「ふふん。アルバスには特別に教えてあげるのです! さぁ、これをアルバスの倉庫に入れるのです!」
そう言われたので、その鉄屑を倉庫にしまい込んでみた。
「倉庫収納」
だが、倉庫インベントリーの項目として頭に浮かんだものは『錆びた鉄屑』だった。
当たり前だ。
どこからどう見ても『錆びた鉄屑』だ。
「ただの錆びた鉄屑だろ? 戻してこいよこんなん」
いつもの、ロロイが大事に集めてるガラクタと同じだ。
再び倉庫から取り出して、ロロイに投げ返した。
ロロイは頭に「?」マークを浮かべている。
こっちが「?」だ。
「これをロロイの倉庫に入れると『錆びた聖拳アルミナス』って名前が、ロロイには浮かぶのですが…」
「えっ…」
「アルバスが戻してこいって言うなら…」
「待て待て! まてまてまてっ!」
まさかとは思ったが。
よくよく確かめてみると…
ロロイには「鑑定」の天賦スキルが備わっているようだった。
それも、倉庫に収納することで発動するという、本来のものとは異なるかなり特殊な形式で…
俺の倉庫でも、アイテムを入れるとその名称がインベントリーの項目として頭に浮かぶのだが。
あくまで俺が認識している名前で浮かぶだけ。
要は自分でメモしたのと変わりない。
俺が「錆びた鉄屑」だと認識していれば、錆びた鉄屑にしかならない。
だが、ロロイの場合はそこで「鑑定」の天賦スキルに基づく名前で認識されるらしい。
他の倉庫スキル持ちとそこまで深く関わる機会もなかったが故に、ロロイは今の今までそれが普通だと思っていたらしい。
「もしかして、孤児院に置いてきたガラクタ達って…?」
「だから。あれはガラクタではなく『お宝』なのです! ロロイがトレジャーハントで集めた『お宝』なのです!」
マジか…。
マジなのか…。
『剛力』『倉庫』そして『鑑定』
ロロイは武闘家としてだけでなく、トレジャーハンターとしても最高級の天賦スキルを備えていた。
天は、二物も三物もを、この娘に与えていた。
その上、アーティファクトの欠片を封じ込めると言う理解を超えた力まで持っている。
こんなやつは、この世のどこを探しても絶対に他にいない。
それが、あまりにも衝撃的すぎて…
「ロロイ!」
「なんですか? アルバス?」
「この遺跡を出たら、俺と正式にパーティを組まないか?」
気づけば俺は、衝動的にロロイそう言っていた。
「え…?」
「今みたいな遺跡探索の間だけの(仮)じゃなくて、長期的に。ずっと…」
言った後にハッとして。
「いや…。俺は戦闘では全く役に立たないし。俺の頼みの綱の倉庫スキルだって、ロロイは自分で持ってる。だから、俺とパーティを組む意味なんて、ロロイの方には全くないかもしれないが…」
そうして。
ちょっと言い訳じみたことを口にした。
「もちろん! アルバスとパーティを組むのです。ロロイは初めからそうお願いしていたのです! 一緒に、もっともっとトレジャーハントをするのです!」
あ…。
ロロイは、そうだった。
生粋のトレジャーハント好き。
「トレジャーハントは…まぁ、ぼちぼち…な」
「アルバスの『商売』でたくさんマナを稼いで準備して。そして、一緒にまたでっかいトレジャーハントに行くのです! アルバスは、ロロイの『荷物持ち』と『ガイド』と『料理人』で。ロロイは、アルバスの『護衛』なのです! これはアルバスの大好きなWIN-WINなのです! バージェスとクリスも、2人が暇なら連れていくのです!」
曇りのない期待に満ちた目で見つめられて。
それならそれでもいいか、と言う気持ちになってしまった。
行商で各地を回りながら、遺跡のトレジャーハントをする。
確かに「あり」かもしれない。
遺物が残っている可能性がある遺跡には、それを狙ったトレジャーハンターや商人、そして冒険者達が集まる。
商売をする場所としては悪くはない。
それに、トレジャーハントでロロイのスキルを駆使して売り物になる遺物を見つけられれば。
それもまた1つの商売のネタだ。
「よし! そうしよう」
「じゃあ、決まりなのです!」
勢いで押し切ってしまった感もあったが。
そういうことに決まった。
その晩、ロロイはご丁寧にも。
バージェスたちに、遺跡を出たらバージェスのパーティを抜けて、俺とパーティを組むと伝えた。
なんか、バージェスから凄まじく怨念のこもった視線が飛んできて。
ちょっと…いやかなり怖かった。
普通に闇討ちでもされるんじゃないかと思ったが、その晩はなんとかこらえてくれたようだ。
聖騎士というより。あれじゃ完全に暗黒騎士だ。
いやさ。
出し抜くような真似しちゃった、俺も悪いんだけどさ…
→→→→→
そしてその翌日。
「アルバス。ちょっと話がある。…顔貸せ」
俺は、少年剣士クリスに呼び出されていた。
しまった、そっちか!
キューピッド・バージェス効果のことを、すっかり忘れていた!
ロロイとのパーティの一件で。
今からクリスに『勝手なことしてんじゃねえ』って、ブチギレられたり、決闘とか申し込まれたらどうしよう。
俺は内心ビクビクしながら、クリスに指定された建物へと赴いた。
だが。
そこで俺は…
クリスから、思ってもいなかった衝撃の告白を受けることになるのだった。