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29 オメガ・サン

俺たちは、念のため一旦後退して距離を取り…

安全そうな小部屋でさらに丸一日待機してからの出発とした。


「人間同士での殺し合いは、なるべくなら避けたい」

という、バージェスの言葉に従った形でもある。



そして、再び遺跡の迷宮を進み始めた。


時間を置いたこともあり、逃げ去っていったノッポイ達とはそのまま再び遭遇せずにすんでいた。


迷宮は広大だ。

丸一日も動けば、もうそう簡単に同じパーティと遭遇することもないだろう。


これまで俺たちは度々回復のための時間をとっていた。

だがそれでも、先行しているはずのノッポイ達に追いついたということは…

迷宮の攻略速度は、ノッポイ達よりも俺たちの方が確実に早いということだ。


まぁ、ゴールまでのルートとそのルート上にある罠の位置を把握しているのだから、当然といえば当然だ。


そして、ノッポイ達との遭遇から、休息を含めて3日ののち。


俺たちはついにその場所に辿り着いていた。



→→→→→



「この、縦穴を降りるのか?」


バージェスの顔がひきつっている。


「どう見てもこれ。落下罠だろ?」


崩れた足場と、ポッカリと口を開けた大穴。

確かに、発動した後の落下罠にしか見えない。


「ここで間違いない。元々は落下罠なんだろうが…今はここが地下5階層への唯一の入り口だ。そこの岩に鉄杭を打ち込んで、そこからロープを降ろそう」


そう。

ここで間違いない。


身の回りに潜む危険が黒いもやとなって見えるというフィーナの天賦スキル。

光精霊ラティウスの加護」


その天賦スキルにより、この場所が危険な罠ではなく道であると判断されたことから、ライアン達はこの落下罠の下を調査した。


縦穴を30mほど降りると地面に到着する。

そして、そこから伸びる何者かが掘り進めた小さな横穴を30分ほど進む。


すると…


「これは…」


「すっごい…のです!!!」


もちろん正式なルートでないはずなのだが…

ここからアース遺跡群の地下第5層。


アース遺跡、地下都市群へと到達できる。



薄暗い横穴を這い出た先には巨大な地下空洞が広がっており、そこには古代の大都市の跡地があった。


洞窟の最深部にも関わらず。

そこは外の昼間と同じくらいの光に包まれている。


「ふおぉおおぉーーーーっっっ!!!! 大! 大! 大! ロマン!! なのです!」


ロロイが見上げる先には、アーティファクト「無尽太陽オメガ・サン


それは、地下都市の一際高い塔のような建物の屋上で、白く輝いていた。


その光によって。

地下都市群は、外のように明かるく照らされているのだ。


「なんだありゃあ…」

その太陽のような輝きを見上げ、バージェスが言葉を失う。


「あれが、無尽太陽オメガ・サンだ。ライアンが手に入れた青紋剣サミラスやその他の特級の遺物は、主にあの下の建物内に眠っていた」


「探すです! トレジャーハントです!! すっごいお宝が、きっとまだまだ眠っているのです!!!  でも、その前に…、無尽太陽オメガ・サンを手に入れるのです!」


ロロイが無茶なことを言い始めた。


無尽太陽オメガ・サン」をはじめとする、アーティファクトと呼ばれる神々の遺物達は、ただその場にあるだけだ。


ライアン達も、かつてあの手この手で手に入れようと躍起になっていたことがあったが。

結局どんな手を使っても、それはできなかった。


あれだけの眩い光を放つ巨大な光の球体でありながら、俺たちはそれに触れることすらできない。

また、近づいても、中に入ってさえも、熱を感じることもない。


おそらくは、この世界のある次元とは別の次元に存在しているのだろう。


ライアンたちはそういう結論に達し、アーティファクトそのものを手に入れることはとうに諦めていた。


ロロイは、俺の話を全く聞かずに無尽太陽オメガ・サンのある塔へ向かって走り出していた。


「待て待て! モンスターがいるかもしれないから、下手に単独で動くな!」


俺たちは、ロロイを追いかけた。


地下都市は、はるかな昔に打ち捨てられているのだが。

地上部分のように崩れてはおらず、今でも使用出来そうな石造りの建物が整然と並んでいた。


2年前。ライアンたちと訪れた時から何も変わっていなかった。

まるで、2000年前から時が止まってしまっているかのようだ。


リオラとアークも、度々フィーナの名前を大声で呼びながら俺たちについてきた。



→→→→→



ロロイは…無尽太陽オメガ・サンを目の前にしてたたずんでいた。


不思議なことに、これだけ近づいても無尽太陽オメガ・サンは離れた場所と同じような強さの光を放っている。


松明の光のように近づくほど強くなったり、遠くなる程弱まるということがないのだ。


その代わり、一定以上の距離が離れると…、例えば地下都市のはずれまで行くと突然光が途切れる。

実に、不思議な照明だった。


そのため、地下都市全体を照らし出すその無尽太陽オメガ・サンを、俺たちは目の前で眺めることができた。


「ロロイ。さっきも言ったけど、この無尽太陽オメガ・サンは手に入れられるような類のものじゃないんだよ」


「嫌です! ロロイは無尽太陽オメガ・サンを手に入れるためにここまできたのです! じい様から、そうするようにと言われているのです!」


「いや、気持ちはわかるけど…」


倉庫取出デロス

そう言って、ロロイが手の平の中に収まるような大きさの、水晶玉のような球体を出した。


そして、無尽太陽オメガ・サンに向かってその水晶玉をかざした。


「だからロロイ、本当に何をやってもダメなんだって…」


俺がそう言って諌めている時。

無尽太陽オメガ・サンがパチパチと音を立て始めた。


「ん?」


「さぁ! 無尽太陽オメガ・サンよ!ロロイの元へ!」


そして、無尽太陽オメガ・サンから、ぽんっと2つの光の粒が弾け飛び、ロロイの持つ水晶玉と、ロロイ自身の中へと吸い込まれた。


「は…はぁっ!?」


一同が目を丸くする中…

ロロイの身体と水晶球が光り輝き。


やがてその光が収まった。


そして…


「アルバスと、バージェスとクリス。みんなのおかげで、ロロイは無尽太陽オメガ・サンを手に入れられたのです! 最高のトレジャーハントなのです!」


そう言って、ロロイは。

中に無尽太陽オメガ・サンの欠片が入った水晶玉をかざして、満面の笑みで笑うのだった。

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