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25 迷宮の休息所

駆けつけたロロイとクリスによって、生き残った10数体のゴブリン達は一掃された。


少し遅れて、俺もその広間へと走り込む。


「そこの壁、罠だから触るな!…って、もう発動後か」


時間がたってまたエネルギーを蓄えれば再起動するが。

迷宮の魔物を出現させる類の罠は、発動後数日間は停止する。


「って…なんだこれ」


部屋の中は血の海だ。

おびただしい数の、ゴブリンの死骸。


ゆうに100体は超えている。


これ…。この短時間で、全部バージェスがやったのか?


「ゴブリンがまだ出てくるかもしれない…。退くならさっさと退け…」


俺とクリスに担ぎあげられながら。

バージェスがそれだけ言って再び気を失った。


「ふっざけんな!? あんた、1人で死ぬ気だったのかよ!!」


クリスがキレて怒鳴り散らすが、バージェスは既に気絶している。


「くっそ! ふざけんなよ!!」



そのまま俺たちは瀕死のアークとバージェスを担ぎ、なんとか昨晩休んだ罠のない小部屋まで後退した。


途中。何体かのゴブリンに遭遇したが、クリスとロロイでなんとか撃退した。


少し見ない間に、この迷宮はゴブリン共の寝ぐらになってしまっていたらしい。



→→→→→



「とりあえず、落ち着いたな」


瓦礫で入り口を完全に塞ぎ。


俺たちは、その小部屋の中で、アークとバージェスの治療にあたった。


重傷と毒により瀕死だった剣士のアークは。

アルカナの薬草と混合解毒薬、それと体力回復薬によりなんとか快方に向かい始めていた。


バージェスは。

おそらくは限界を超える規模の魔法剣を放ったのだろう。

肉体の傷はたいしたことがなかったが、体力と魔法力と精神力を激しく消耗して一時的な昏睡状態に陥っていた。


だが、安静にしていればじきに目が覚めるだろう。



魔法力と闘気を練り合わせて放つ魔法剣は、心技体一体となった超必殺技だ。

だが身体にかかる負担も激しく、それ故に使い手も少ない。


さらには、属性攻撃が必要になるようなモンスターは、基本的には超上級クラスだ。

なので、魔法剣はその辺のモンスターとの戦闘で使用するするような技ではない。


実際俺は、バージェスがまともに魔法剣を使うところをこれまで一度も見たことがなかった。


よくモルト町の酒場で、酔った勢いで炎の剣をぶん回していたが。戦闘でそれが、ウルルフェスなどのモンスターに対して、通常攻撃よりも意味のある攻撃になるとは思えなかった。


ただの辺境冒険者のおっさんが。

名乗りのためになんちゃってで身につけた大道芸の一種。

そんなくらいにしか思っていなかったのだが…


バージェスがミノタウロスを倒す際に放ったのは、上級の火炎魔法をベースとした魔法剣「大火炎魔術テラフレア斬撃ソード」だ。


生半可な人間が、身につけられる技じゃない。

大火炎魔術テラフレアを扱えるという時点で、すでに黒魔術師としても上級クラスだ。


さらには、ゴブリンの大群を一瞬で殲滅したらしい先程の強力な光を放つ大技といい。

バージェスの戦闘力は、全く底が知れなかった。



「酷いのです! そんなのは人間のすることじゃないのです!」


リオラから話を聞いていたロロイが、何やら怒り出している。


「そんな悪い商人は。仲間も一緒に全員ボコボコにしてやるのです!」


どうやら。

大商人ノッポイが、アークとリオラをゴブリンの巣に置き去りにしたことについて怒っているらしい。


だが、俺の意見は少々冷ややかだった。


ロロイの怒りも一理あるが。

そもそもその原因を作ったのは、アークとリオラだ。


「命を預けるパーティのリーダーの度量を見抜き、雇い主を見極めるのは雇われる本人だ。迷宮探索なんていう最高難度の仕事を受けるのに、見極めが甘いままそういうやつのパーティに入っちまったっていうのがそもそもの原因だな」


そう。

2人には、その資質が欠けていたに過ぎない。


俺がライアン達のパーティを追放されてからと言うもの、そう言う局面に何度も出くわした。


自分自身に戦う力が全くないため。

ついて行くパーティとそのリーダーがどんなやつかと言うことは、最も見極めるべきポイントだった。



俺の言葉で、リオラが目を伏せた。


「アルバス。あまり、その娘を困らせるな。それなりの事情がある」


いつの間にか目覚めていたバージェスがそう言って俺を咎めた。


「事情?」


俺はリオラを見返したが、彼女は微動だにしなかった。


「それは簡単にはあなたには明かせません。明かしてよいかどうか、あなたを見極める必要がありますので」


そう言って、アークの看病に戻っていった。


「お、おう…」


見事なブーメランを食らったな。


リオラは、ぱっと見の物腰柔らかな雰囲気とは違って、意外にもかなり気が強いようだ。



→→→→→



薬草や魔力回復薬、食事や水など。

リオラは俺たちから必要物資を受け取ると、決まってその代金をマナで支払った。


元々は別々のパーティだ。

そして、今でもそうだ。


迷宮地下こんなところだが、俺はリオラ達に対して火事場商店を開店していた。


とはいえ、以前はクエストに同行させてもらったり、素材を恵んでもらったり、護衛のクエストを受けてもらったりしている。

それもあって、上乗せ分は最小限にとどめているつもりだ。

つまりそこまで法外なふっかけはしていない。


だからこれは、普通にWIN-WINの取引だ。


こんな迷宮の奥深くで、食糧やら、水やら、薬草やら、回復薬やらを買えるんだから。出張料くらいはとっても問題はあるまい。



そんな感じで3日ほどその場所に留まって、俺たちはアークの回復を待った。


ちなみにバージェスは。

ゴブリンの巣での戦闘の翌日には、普通に復活していた。


タフなおっさんだ。



→→→→→



アーク達の救出から3日後。


魔法時計の残量から見て、今は夕方だ。


一週間も地下に潜っているので、朝昼晩の感覚が麻痺していたが。一応、俺たちは日中の時間に行動して、夜は休むと言うサイクルをとっていた。


「アークも回復したところで、俺達は明日の朝ここを出る」


バージェスが、アークとリオラを前にしてそう言った。


俺たちのパーティのリーダーはバージェスだ。

だからまぁ、バージェスがこの2人を連れて行くと言うのなら、それはそれで問題なく受け入れるつもりだった。


「お前たちが。このアルバスを含む俺の仲間に、お前たちの事情を話せるならば。このまま俺たちのパーティに同行させて、遺跡の最深部を目指してもいい」


だがバージェスは、何やら変な条件をつけ始めた。


「別に俺は他人の事情なんてどうでもいい。このパーティのリーダーはあんたなんだから、連れて行くかどうかはあんたが決めればいいことだ」


俺はそう言ったのだが。

バージェスはこの条件を譲らなかった。


「わかりました。正直、彼らが信じるに足る人物かどうかはわかりませんが…。私は、なんとしても妹を見つけ出したい」


そう言って、リオラが強く拳を握りしめた。


「妹を…。フィーナを…必ず見つけ出す。そのためであれば…、全てお話しいたします」


そしてリオラが話し始めた『事情』というのは。

なかなかに想定外な話だった。

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