22 アークとリオラの絶望
剣士アークは絶望していた。
その場所は、アース遺跡群。
地下3階層の迷宮のど真ん中。
その中の、ゴブリンの巣穴と化した一部屋に。
彼は、リオラと共に取り残されていた。
支援魔術師のリオラ。
彼の、命よりも大切な人。
もう2日間。
飲まず食わずでここで助けを待っている。
大商人ノッポイの遺跡探索部隊に加わって、この遺跡に潜ったのだが。探索隊がゴブリンの巣穴を突いてしまい戦闘になってしまった。
こちらの人員も多かったので、ゴブリンだけならばどうと言うことのない相手だった。
そのはずだったのだが…
戦闘中にノッポイの側近が誤って発動させた罠で、4体の迷宮の魔物が出現した。
そして、状況が不利だと見たノッポイ達は。アークとリオラに魔物達の足止めを指示し、そのまま先に行ってしまった。
モンスターの中に取り残され、逃げることもできないその戦いでアークは深手と毒を負い、すでに身動きが取れない状態になっていた。
最後の力を振り絞り、迷宮の魔物を全て撃退したが。
まだゴブリンが残っていた。
その時には。
流血と、全身に回った毒とで彼はもう戦えなくなっていた。
アークが力尽きてしまっては、支援魔術師であるリオラにはゴブリンを撃退する力はない。
それから、2日間。
彼らはリオラの魔障壁の中で籠城していた。
「申し訳…ございません」
「喋らないでアーク。傷が……」
手持ちの回復薬は。ここまでの工程と、2日前の迷宮の魔物との戦闘で使い果たしてしまっていた。
「戦闘員は、戦闘員らしく身軽でいなさいっポイ!」
と言われ。
手持ちの資材のほとんどをノッポイの管理物とされてしまった。
そのため、ろくな資材を持ち歩けていなかった。
リオラの張った魔障壁の外側では、ゴブリン達が下卑た顔をしながら今か今かとその時を待っている。
リオラは。
魔力回復薬の最後のひと瓶を飲み干した。
迷宮の探索を終えるか、もしくは補給の必要が出たならば…
ノッポイ達はまたここを通るかもしれない。
そんな低い可能性に一縷の望みをかけて。
リオラとアークは、ここで籠城していた。
籠城が可能な期間は、リオラの魔法力が尽きて魔障壁が消えるまで。
「魔力回復薬を飲んだから……あと、2時間くらいは持つわ」
「今のが……最後のひと瓶……ですか……」
「ええ、そうです」
もし、リオラの魔法力が尽きて魔障壁が消えれば。
その時には2日間お預けを食らっていたゴブリンたちが、一斉に飛びかかってくるだろう。
その時、リオラは…
「アーク……最後の力は残っていますか?」
「……ええ」
「もし、本当に。私の魔法力が尽きる時がきたら。その前に、私の首を刎ねてください」
「う……」
「このような、低級モンスターたちの慰み者になって僅かばかりの時を生き延びるくらいなら、私は純潔なままの死を選びます」
「うっ……俺には……そんなことは……」
「お願いします。あなたにしか頼めないことです。それとも、私にゴブリンの慰み者になれと言うのですか?」
「うう……」
アークが。
使い慣れたロングソードを握りしめた。
刻一刻と、静かに、その時が近づきつつあった。
その時。
「ああああーー!!! ゴブリンの巣穴ーーー!! 怖いーーー!?」
死の迷宮に似つかわしくない。
異様に元気な声が響き渡った。




