13 ロロイの生態と、クリスの成長
まったく売れない遺物を売るロロイ。
そのロロイがどうやって暮らしていたのかが、少しずつ明らかになってきた。
まず、食事だが。
ロロイは、ウルフェスの肉と、その辺に自生している草木を主食にしていた。
ソロのトレジャーハントで遺跡群を駆け回り。
襲いかかってきたモンスターを返り討ちにして。
モンスターの身体からマナを回収する。
そしてウルフェスの亡骸を解体して食糧にしていたらしい。一応火は通していたとのことだ。
「マナがたくさん手に入ったら。たまに贅沢してコドリスを買ってたのです。でも、アルバスのモーモーの方が断然うまいのです!」
ちなみに水は、俺たちと同様。主に街の共有井戸で汲んだものを飲んでいたらしい。
たまに川の水も飲んでいたらしいが…
「ウルフェスの肉って。普通は食用にはしないんだぞ? あと、この辺の川の水飲むと、腹こわすぞ?」
「でも、他に食べるものがないので仕方がなかったのです。ゴブリンよりは、美味しかったのです。あと、お腹壊したことないから平気なのです」
「マジかよ!」
ゴブリンも食ってたのかよ!
しかも川の水もオッケーとか…
野生児どころの騒ぎじゃないぜ。
「というか、ロロイ。今まで、一度もクエストを受けなかったのか!?」
「トレジャーハントとは違うから、なんか嫌だったのです。やり方も良くわからないし」
「マジかよ!」
そもそもロロイは、冒険者ギルドへの登録すらしていなかった。
「ところで。ウルフェスを討伐した後の…ツノや皮は?」
恐る恐るそう尋ねてみると…
「食べられないし使い道もないから、捨ててたのです。大体少しするとなくなっていたのです」
「マジかよ!?」
もったいなすぎるぞ!
普通に、素材屋に売れるぞ。
遺物を売るよりよっぽど儲かるぞ。
ってか、誰か盗っていってるぞそれ。
ロロイはあまりにも冒険者としての常識が無さすぎて。
バージェスと共にしばし呆然としてしまった。
よくそれでこの歳まで生きていたもんだ。
路面店広場では、当たり障りのない世間話しかしなかったからなぁ。
「こうなったら、俺がとことん。ロロイちゃんを冒険者として仕込んでやるぜ」
なんか、バージェスがめちゃめちゃ張り切り出した。
「ロロイは、トレジャーハンターなのです! 冒険者にはならないのです!」
だがあっさりと断られていた。
「でも。でっかいトレジャーハントの準備のためなら、冒険者のクエストもどんどん頑張るのです!」
そんなこんなで、4人でパーティを組む事になり。
遺跡に潜るための資金集めで、いくつかのクエストをこなすことになった。
→→→→→
少年剣士クリスは。
2ヶ月前に出会った時と比べると、同じ人物だとは思えないほどの腕前の冒険者になっていた。
まず、装備が違う。
2ヶ月前は見た目重視の「ロングソード」と、これまた見た目重視の全身を覆い隠すガチガチの「フルメイル」を装備していた。
だが…
今は体格にあった、幅が狭い「サーベル」と、胸から腹にかけてや、太ももなどの急所のみ部分的にを保護する「パートメイル」を装備している。
兜も、フルフェイスからハーフタイプへと変更していた。
改めて顔をみると、かなりの美男子だ。
女装とかさせたら似合いそうな感じの、中性的な顔立ちをしている。
『イケメンの男子を連れていると、美少女が釣れやすい』という、バージェス理論とやらに則っているのだろう。
ちょっと……ゾッとした。
ただ。
クリスは装備が軽くなり。見違えるように動きが俊敏になっていた。
ウルフェスの群れを相手にして素早く動き回り。ヒットアンドアウェイで器用に1体ずつ狩っていくその立ち回りは、すでにかなり様になっている。
たぶんもう。
1人でも問題なく10体のウルフェスを狩り切れるだろう。
これが、この2ヶ月でのバージェスの仕込みだと言うなら、バージェスは教官として相当優秀だ。
下心が9割だとしても。
少年剣士クリスにとってバージェスは、恩師以外の何者でもないだろう。
だが。
「うっ…わっ!」
ウルフェスの誘いで、木々を背にした逃げ場のないところに追い込まれるクリス。
まだまだ戦術が甘い。
まぁ、それでももう俺の100倍くらいは強いけどな!
「とぁぁぁーっ!」
そしてクリスは、すんでのところでロロイに助け出されていた。
「クリス! 大丈夫ですか!?」
ウルフェスの群れを撃退し、ロロイがクリスに駆け寄る。
「あ、ああ…」
ロロイに助け起こされたクリス。
そして、しばし見つめ合ったあと…
クリスが恥ずかしそうに目を逸らした。
バージェスは、そんな2人を兄貴ヅラで満足げに見つめている。
バージェスよ。
お前。
本当はお前が、ロロイと親密になりたいんだよなぁ…。
だから、ロロイをパーティに誘ったんだよなぁ…。
あの2人。
放っておくとたぶん、あのまま恋が始まってしまうぞ?
『キューピッド・バージェス』
俺は、その二つ名を再び頭に思い浮かべて少し泣けてきていた。
→→→→→
その後。
俺たちは数日をかけて複数のクエストをこなし、それなりの額のマナを稼いだ。
戦闘に関しては、バージェスとロロイでほとんど危なげなくこなす。この2人は普通に強い。
そんな2人をサポートするクリスの立ち回りも、なかなか様になって来ている。
ちなみに、俺はひたすら亡骸の回収をしているだけだった。
4人のパーティで、俺たちは日々クエストで5,000〜8,000マナ程度を稼ぎ出していた。
このくらいの稼ぎがあれば。数日に一回クエストをこなすだけで、十分にパーティ全員の生活が成り立つレベルだった。
もはや中級〜上級クラスのパーティと言って問題ないレベルだ。
ちなみに俺が抜ければ、間違いなく上級パーティを名乗れるだろう。
普通なら、そんなに頑張ってクエストをこなさなくても問題ないくらいの実力のパーティだ。
だが、俺たちの目的は遺跡探索のための資金集めなので、ひたすらにクエストを繰り返して資金を貯め続けた。
また、同業者が参入してくる前になるべく稼ごうと。俺は朝晩はなるべく、焼肉露店をオープンさせていた。
そっちでの売り上げも、そこそこいい稼ぎになっていた。
「本日はもう店じまいだぜ」
あまりモーモー肉を使いすぎると、遺跡探索中にロロイが食べる分がなくなってしまう。
そのため、開店時間は少し短めに設定していた。
たまに客から不満が漏れた時は、宣伝時だ。
「モーモー肉は、西のモルト町まで行けば腐るほどあるぞ!?」
そして。
「その時の宿は是非、すぐ近くのヤック村のアルカナ銭湯旅館でどうぞ!」
ってな感じ。
パーティ共有のマナはどんどん溜まっていき。
そのマナで、俺たちは遺跡探索の準備を着実に進めていった。




