11 商売繁盛と一抹の不安
それから1週間ほどが経ち。
俺の焼肉露店は、なかなかに繁盛していた。
俺は場所を変えずに。
元々薬草売りをしていたキルケット西側の外門近くの路面店広場で、商売を続けた。
モーモーの焼肉は飛ぶように売れ。商品が薬草だけだった頃とは違い、店の前には行列ができた。
クエストへの出発前や、帰還後に。ちょっとしたスナック感覚で買っていくやつが多いようだ。
さらには…
「あんた、薬草売りのアルバスか?」
「ん? どこかで会ったか?」
「吟遊詩人の女が唄ってたんだよ。傷によく効く塗り薬を売ってる、アルバスっていう名前の行商人の話をさ」
「ああ。それは俺のことだな」
うおお!
アマランシア! ありがとう!!
『アルバスのモーモー焼き』なんて書いた看板を出してたお陰で。多少は俺の名前が売れて、それとアマランシアの宣伝の名前とがつながったらしい。
ただの薬草よりも。
当然、手間がかかっているペーストの方が値段は高い。
その男は「意外と高いな」と言いつつも。
アマランシアから実際にひと塗りもらって使ってみて「かなり効きが良かった」とも言っていた。
そして、200マナで「血止め&痛み止めの薬草ペースト(中効果)」の小瓶を買って行った。
焼肉露店に並んだ客たちの前でそれのやりとりをしたおかげで…
「この店、薬草も売ってたのか」
「吟遊詩人が唄うくらいだから、それなりに効果のある薬なんだろう」
などと少し話題になり。
その日から、ぼちぼち薬草や薬も売れるようになっていった。
だが、今のところ焼肉屋の方が断然繁盛している。
もはや、俺は『焼肉売りのアルバス』になっていた。
少年剣士クリスを連れたバージェスが来て。
2人分の焼肉串を買っていくこともあった。
「やるじゃねぇか。やっぱりお前はすげぇ商人だな」
バージェスはそう言って。クリスを伴ってクエストに出発していった。
俺の焼肉露店では。
10マナの串が1日に300本以上売れて、1日で3,000マナ以上もの売上が立つ日もあった。
今俺が売っているモーモー肉は。元はと言えば、モルト町でくれくれ乞食をして手に入れたものが大半だから、元手はほぼゼロだ。
「うはは…。儲かってるぜ!」
そしてひと月もその商売を続けると…
元々の手持ちのマナと合わせて、荷馬車を買うための目標金額。10万マナを超えるマナが手に入っていた。
一応、目標の第一段階は達成だ。
だが。
俺はこのマナを荷馬車にしてしまうのが不安で仕方なかった。
他に、何か商売になりそうなネタがあれば、そっちの原資にしたいと思っていた。
なぜなら、今軌道に乗っているこの焼肉売りの商売は。俺の倉庫にあるモーモーとブビィの肉の在庫が尽きれば終わりだからだ。
それなりの量の蓄えがあるとはいえ。そもそも、これらの肉は俺が自分で食べるために蓄えていたものだ。
ここで手持ちのほぼ全額を注ぎ込んで荷馬車を買ったところで。
荷馬車用の行商広場で永遠にモーモー肉を売り続けられるわけではない。
在庫が尽きれば終わりだし。儲かるとわかれば、すぐに他の行商人たちが参入してくることも考えられた。
すでに。
モルト町方面から来た冒険者に「モーモーかブビィの肉を持ってないか? 良い値で買い取るぞ」と持ちかけている商人が出てきているそうだ。
自分でモルト町まで移動して。モーモー肉の買い付けを進めている商人もいるらしい。
競合が増えれば。キルケットでのモーモー肉の価格は下落して。これまでと同じような稼ぎは期待できなくなる。
このままだと。俺は再び薬草メインで勝負することになるだろう。
それで、キルケットで生活できるほどの商売ができるのだろうか?
俺はどんどん増える手持ちのマナを見ながらも。
心の片隅に一抹の不安を抱えていた。
だから、次の商売のネタを必死になって探していた。