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10 武闘家トレジャーハンター④

「ほら、焼けたぞ」


俺は、その場で「倉庫」から調理器具を取り出し。ぶつ切りにしたモーモーの肉を、肉を削いだウルフェスのあばら骨に突き刺して火で炙った。


簡単にできて。すぐに食えそうなもの。

そのメニューを選択した理由は、そのくらいのことだった。


そこはそれなりに人通りのある通りだったが。


俺が悪党に絡まれてても、みんな知らんぷりするくらいだ。

道の端で肉を焼くくらいなら、誰も文句など言わないだろう。

文句を言われたら、文句を言い返してやる。


肉を焼くいい匂いが漂ってきて。

ぐったりしていたロロイの口からよだれが垂れた。


「さっきはロロイに助けられたからな。代金とかはいらないぞ。好きなだけ食え」


そして、ロロイの目がキュピーンと光る。


一応、俺の倉庫にはかなりの量の肉類がストックしてある。

基本的には、自分で食うためのものだ。


食料と水のストックさえあれば。

最悪、マナが尽きて寝床を失った後でも、そこから何日でも暮らせる。


目覚めたロロイが、肉に齧り付いた。


「なんですかこれ? コドリスじゃない!? 口の中でとろける濃厚な旨味!臭み! こんなの初めてなのです!?」


「モーモーだよ。西のガラド山脈にいるモンスターだ」


「モーモー! 凄い!最高!」


ロロイは凄い勢いで肉を食っていく。


あっという間に食い終わり。

「もうないの?」

と、瞳で訴えかけてきた。


「うっ…」


好きなだけ食え。と言った手前、止めるのも格好悪い。


しばらくの間。

ロロイの食欲と格闘しながら、俺は必死になってモーモー肉を焼き続けた。



そして。

気づけばその匂いに釣られた冒険者や街の住民たちが、俺の周りに集まってきていた。


「モーモー? 聞いたことはあるけど、、食ったことはないな」


「昔、流行ったことがあるって聞いたぞ?」


「コドリスよりも旨いのか?」


「少なくとも、あの娘はめちゃめちゃ旨そうに食ってるぞ」


「匂いは…かなり良いな」


「ああ、旨そうな匂いだ」


「……」


「……」


ざわめく群衆たち。


俺は、結果的に新しい商売のネタを見つけていた。



→→→→→



「西のガラド山脈の特有モンスター。モーモーのぶつ切り焼肉。ひと串に3つ付いて10マナだよ」


モルト町だったら絶対に売れるはずのない値段だが。

そのモーモーの焼き肉は飛ぶように売れた。



キルケットでは、コドリスという飛べない翼を持った白色のモンスターを家畜化している。


なので、キルケットの住民たちは。

肉としてはそのコドリスを食べることが多いようなのだ。

と言うか、ほぼ、コドリスしか食べないらしい。


付近にいるモンスターは、ウルフェスやゴブリンやスライムと言った。食用にならないモンスターばかり。


モーモーやブビィといった。

食用にできる中型モンスターの肉は、キルケットでは比較的珍しいのだそうだ。


前にもいったことがあるかもしれないが。

倉庫スキル持ちは肉類をあまり運びたがらない。

かさの割に、値段が付きずらい傾向にあるからだ。


だから、キルケットから徒歩3日の距離にあるモルト町では一般的だった、モーモーやブビィの肉が、ここでは比較的流通量の少ない珍品となっていた。


また、淡白なコドリスの肉と違い。モーモーやブビィの肉は、焼くと脂が滴ってクセになる独特の香りがある。


昔、それがキルケットでブームになったこともあったらしいが。

今はもう安価なコドリス肉によって駆逐されていた。


それが、一周回って再びブームを巻き起こしているという事らしい。


ベテラン冒険者達は懐かしそうに。

若い冒険者達は興味深そうに。


皆、俺の店でモーモーの焼肉を買っていった。



「モーモーのぶつ切り焼き肉。いっちょうあがり!」


「次は、ブビィの串を3本頼む」


「はいよー」


俺は、モーモーだけでなくブビィも売り出していた。


「こっちは、モーモー、ブビィ、コドリスの三点盛り串を10本頼む!」


「はいはい、順番ねー」


3点食べ比べセットも、飛ぶように売れた。



ロロイのお陰で。

俺は意外なところから商売のネタを得ることができた。


機会を与えてくれたロロイには。

マージンとして、たまにモーモーの骨つき肉をあげることにした。


するとロロイはめちゃめちゃ喜んで、それを貪り食った。


「モーモー最高! なのです!」


満面の笑みでそう言われるので。

なんとなくいつも大きめの塊肉をサービスしてしまう。

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