08 武闘家トレジャーハンター②
その日。
俺は荷馬車持ち用の行商広場をうろうろしていた。
商人としてではなく。
客としてだ。
買うつもりのない冷やかしなので、正確には客じゃないかもしれないけど。
つまりは敵情視察。
どんなものが売られていて、どんなものが売れているのか。
それを見極めるのだ。
ここ数日。
薬草売りは、外門近くの人通りが多い朝と夕方の時間帯だけにして、日中は毎日のようにその巡回を行っていた。
肉や野菜、果物などの食品を扱う商人がいた。
客のふりして、世間話を装って話を聞いてみると。
彼は、この辺りの出身で。自分で毎朝付近の農家を回って仕入れた食材を、ここで売っているらしい。
もう5年もその商売を続けて。付近の農家や牧場主とは、かなり親密な関係を築いているようだった。
豊作で値が崩れているような時に買い叩かない代わりに。不作で値が上がっている時に、他よりも安値で買わせてもらったりしているとか。
俺が、妻の作った薬草を扱うようなものだ。
簡単に真似して稼げるような商売でもない。
他には、アクセサリーを扱う店や。冒険者向けの武具を扱う店。モンスター素材を扱う店。トレジャーハンター用の縄や杭などの道具を扱うお店。宝石を扱う店。書物を扱う店。
また、扱う物としては統一感に欠けているが「北の果て、ポッポ村で仕入れた。西大陸最北の村の、伝統技術で作った品々」などと言う謳い文句で、衣類や宝石、果ては武器までの幅広い品目を扱うような店もあった。
皆、独自色のある商品を扱い。工夫を凝らした仕入れのルートを確保しているようだった。
俺はしばらく荷馬車行商広場を歩き回って。
『やはり薬草一本での商売は難しい』
と、新しい商売のネタを見つける必要性を感じていた。
ふと思いついたのが。
①ギルドに素材収集クエストの依頼を出して。
②素材を加工屋に持ち込んで。
③出来た品を売る。
そんな商売だが。
何一つ自分では行っていないがために。
ざっくりと試算しても到底割に合う商売にはならなそうだった。
よほど良いデザインなどを、自分で設計できればまた違うのかも知れないが。俺にはそんな技術はない。
せめて自分でモンスター素材が集められれば。
また違った世界も見えてくるのだろうが。
他に。
行商人として遠方から物を仕入れて売るような、オーソドックスな商売も考えたが。
護衛を雇わなくては移動ができない俺にとってはコストが高すぎた。
なかなかに、八方塞がりな状況だ。
荷馬車広場を後にして。
そんな考え事をしながら道を歩いていたら。
ゴンッと、誰かにぶつかった。
「ああん? てめぇ何処に目ぇつけて歩いていやがる!?」
そして、運の悪いことに。
ぶつかったのはとても怖そうなお兄さん達だった。
→→→→→
「てめえは商人か?」
「たくさんマナ持ってそうだな?」
背が高く、ガタイのいい男達が。
上から俺に凄んだ。
「いいえ、違います」
「嘘コケこら!? 前にてめぇが外門の近くで商売してんの見たぞ?」
「……」
3人の怖そうな冒険者に絡まれて、俺は道の端の壁際に追いやられていた。
どうやら。この3人はこの辺で有名なゴロツキらしい。
道ゆく人々は、なるべく関わらないようにと。
目を伏せながら通り過ぎていく。
マジかよ。
そりゃないぜ。
「商人だったら。当然それなりのマナを持ってんだろ?」
「今、お前にぶつかって骨折れた」
「こいつ、今から白魔術師の治療を受けに行くから、その治療費として1万マナよこせや!」
勘弁してくれよ。
治療費がそんなにかかるかドアホ!
とは、言えない。
普通のチート系主人公だったら、ここで…
「なんとかかんとかー!」とか叫んで、必殺技とか繰り出して全員返り討ちにしてやるところなんだろうけど。
あいにく、俺にはそんなことはできない。
なぜなら…弱いから!
抵抗したところで返り討ちに会うのがオチだ。
かと言って。このままミスミス1万マナを奪われるなんて、馬鹿馬鹿しすぎて吐き気がする。
それだけの額を稼ぐのに、俺がどれだけ苦労したかわかってんのかこいつら?
怒りが湧いてきたが、どうしようもない。
なぜなら…俺は弱いから。
隙を見て逃げ出すくらいしか。
この場を切り抜ける方法は考え付かなかった。
そんな時。
通行人の1人と目が会った。
見知った顔の、背の低い女の子。
俺に気づいて、
その娘が近づいてきた。
「あれ。やっぱり薬草屋さんだ。そんなところで、何してるのですか?」
その女の子は、自称『武闘家トレジャーハンター』の、ロロイだった。




