07 武闘家トレジャーハンター①
俺が城塞都市キルケットに到着してから、1ヶ月が過ぎた。
ロロイと名乗ったトレジャーハンターの女の子は。やはりアース遺跡群で集めたガラクタを売っているらしい。
「なぜか、全然売れないのです」
何度か顔を合わせてから。ロロイがポツリとそんなことを言い出した。
「そりゃ、何に使うのわからない謎の石の塊や金属片……つまりはガラクタを。わざわざマナを出して買うやつはそうそういないだろう」
俺がそう言うと。ロロイは顔を真っ赤にして怒りだした。
「これはガラクタではなくお宝なのです! そして遺物はロマンなのです! 夢が詰まっているのです! ロロイは、それを見ているだけでも幸せなのです!」
そう言って。
怒りの勢いのままにボコーンと俺を殴り飛ばした。
戦闘力ゼロの俺は、当然のようにまともに食らって、当然のようにぶっ倒れる。
「アルバスはいい人だと思ったのに。ロマンがわからないような人は、もう知らないのです!」
そう言って。ロロイは露店を畳んでどこかへ行ってしまった。
「倉庫収納」
ちなみに、ロロイは「倉庫」スキル持ちだったので、露店は一瞬で片付いた。
ロロイのいなくなった、路面店広場で。
俺は1人で物思いに耽っていた。
他人にとって価値のあるものを売って。その対価としてマナを受け取るのが商人だ。
何に使うのかわからない遺物は。当然誰にも売れないだろう。
だが現状。
俺の薬草も。
ロロイの遺物と同じく、まったく売れていない。
それもまた、紛れもない事実だった。
ヤック村にいる妻とは。
キルケットに着いてから、共有倉庫を介して何度か手紙のやり取りをした。
あちらは色々と順調らしい。
俺は、キルケットでなんとか商売を軌道に乗せ。そこそこ頑張っていることになっていた。
「カッコ悪くて。今更帰るだなんて言い出せないからな」
こうなったら、とことん自分を追い込んでやる。
そろそろまた、薬草売り以外の商売を探し始める時期かもしれない。
今までの倉庫スキルを使った商売ではない、何か違う商売を……。
ならば、軌道に乗せられる商売を見つけられるまで。ここからどれだけ粘れるかが勝負の分かれ目だ。
俺は、キルケットでは標準的な1泊150マナの宿を引き払い。安い1泊50マナの宿へと居を移した。
俺の手持ちのマナは。
キルケットに到着して、バージェスたちへ護衛の報酬を払った時点で、残り約6万マナだった。
このひと月はそれなりに切り詰めていたのに、すでに手持ちは5万5,000マナにまで減っている。
商品が売れない以上。
ここから手持ちのマナが底をつくまでが勝負だ。
かかる経費は、安ければ安いほどいい。
薬草の在庫は山ほどあるが、売れなくてはなんにもならない。
→→→→→
50マナの安宿は、ギリギリ雨風が凌げるような掘建小屋の中に、簡素なわらが敷かれているだけだった。
さらには、見知らぬもの同士10人での雑魚寝部屋だ。
皆小汚い格好をしていて、道で出くわせば野盗と間違われても文句の言えないような風態の奴らばかり。
これならば、逆に野宿の方が安全なのではないか。
俺は、ふところにある5万5,000マナという大金を悟られぬようにしながら。
入り口に近い場所に陣取り、壁を背にしながら眠りについた。
幸い眠りは浅い方だ。
何か不穏な気配があれば多分目が覚める。
ただ、戦闘能力がゼロなので。
目覚めたところで逃げる以外の選択肢がないのが、痛いところだけど。
だが。そんなところとは無関係に。
数日後に俺は、危機的な状況に陥ることになるのだった。