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06 キルケットの洗礼

キルケットは、外門と内門の二重の塀で守られている城塞都市だ。


どちらも石造りの塀と鉄の門だが。

内門の方が、高くて頑丈だ。


そして、その内門の中には。主に貴族の金持ちが住んでいる。


内門と外門との間の、内門に近い地域にはキルケットの平民が住み。

外門に近づくにつれて農民や技師などの労働者達の住居や、冒険者や採掘者などの一時滞在者向けの施設が増えていく。


日々何万もの人々が行き交う。西大陸の交易の中心地だ。


そんな、城塞都市キルケットにて。


俺の商売は難航していた。


まず。

モルト町と同じようにして、ギルド内で薬草売りをしようとしたら。

「ここでの商売は禁止です」

と、ギルドの職員に追い出されてしまった。


どうやら。ギルドの規則で本当にダメらしい。

モルト町では、なんとなく大目に見られていたっぽい。


「なんてこった……」


次に。

荷物持ち業で稼ごうとして、パーティ募集を装ってみたが。全くと言っていいほどに需要がなかった。


職業「商人」、扱える武器「なし」、戦闘力「なし」、と聞いた時点で、大抵はお断りされてしまう。

かと言って、ソロでクエストをこなすような力量は俺にはない。


初級のクエストだって無理だぜ。


そしてパーティを組んでクエストに出られなければ。くれくれ乞食も、火事場商人もできなかった。


「なんてこった……」



ところで城塞都市キルケットには、東西南北に4つのギルドが存在する。

つまりは、クエストの数も冒険者の数も。一つのギルドでは捌ききれないくらいに多いということだ。


俺なんかを同行させなくても。

代わりになる「倉庫」スキル持ちや、付近の地理に詳しい冒険者は腐るほどいた。



俺は。キルケットでの商売も、モルト町での商売の延長でなんとかなるだろうと思っていたが。

どうやら完全に考えが甘かったようだ。


「ここは、基本に立ち返って。路上で地道な商売ものうりだな」


そしてその考えさえも。あっけなく打ち砕かれることになるのだった。



→→→→→



人通りが多く。

数々の商店で賑わっている、キルケット西側広場。


俺はそこで行商を開始しようとしたのだが…


「この行商広場は、荷馬車持ちの行商人専用だ」


そんな感じで、監視員らしき男性に呼び止められてしまった。


見ると。その行商広場では全ての商人が荷馬車の前で商売をしていた。


整列した数々の荷馬車達。

その荷馬車の前後左右に商品を陳列して。即興の商店のようなものを作って商売をしているのだ。


そして『行商許可証』と書かれた木の札を。表にデカデカと掲げていた。


「荷馬車も持ってないような貧乏商人が、ここで露店を開くことは認められていない! 他を当たれ」


そうして俺はあっけなく。追い返されてしまった。


「くぅぅ…何たること!」


仕方がないので。

外門の近くまで行って、同じような貧乏商人が路面店を開いている一角で、俺も露店を開いた。


行き来する人々で、それなりの人通りはあるが。

行商広場とは比べものにならないほどに少ない。


それに、基本的にはみんな急いでいるようで。

声をかけても見向きもしてくれないことの方が多かった。


さらに、俺の商品は薬草。

ありふれていたし。基本的には、安価な体力回復薬に取って代わられつつある商品だ。


露店を開いていても、なかなか人は来なかったし。売れもしなかった。

2、3日の間。買ってくれるお客がゼロなんて日もザラだった。


「アルカナ。ごめん」


10日間ほど。貯蓄を食い潰す日々を続け。

なんかもう。

早くも心が折れてヤック村に帰りたくなってきた。


キルケットからモルト町までの護衛を雇う分のマナが残っているうちに、諦めて帰るべきなのだろうか。



周りには、俺と同じように路面店を開く商人がひしめいている。

売れている奴もいれば、全く売れてない奴もいる。


そして、今日隣になったのは。

なんだかよくわからない「がらくた」を売っている女の子。


俺と似たような感じで、朝から全く商品が売れていないようだった。


2人して同時にため息が漏れ。

思わず顔を見合わせて、笑い合ってしまった。



それから何度か路面店広場で顔を合わせてるうち。

自然と自己紹介をしあった。


その娘は「武闘家トレジャーハンターのロロイ」と名乗った。


どう見ても16歳前後の、若い駆け出し冒険者だ。

くりくりとした大きな瞳に加え。背が低いので、余計に幼く見える。

栗色の髪の毛を後ろで束ねて丸めていた。


下手をすると成人(16歳)にもなっていないかもしれない。


ロロイが露店に並べているのは、おそらくはアース遺跡群で採掘してきたであろう遺物。

マジで、何に使うのかもよくわからない、何かのカケラとかそんなもの。

つまりは売れそうもないガラクタばかりだった。


それでも、名乗りだけはしっかり盛大に。武闘家トレジャーハンターなんてのを名乗っていた。


キルケットへの道中で出会った「剣士クリス」と同じ類だ。



とはいえ。


商品の売れなさ加減では。俺もどっこいどっこい。


再びため息が漏れて、ロロイに笑われた。


悪意が全くないので、特にムカついたりはしなかったが。

やはりへこむな。


俺は、商人として。

大都市キルケットの洗礼をモロに受けていた。

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