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04 少年剣士クリス

翌日。

俺たちはアース遺跡群を抜け、城塞都市キルケットと隣接するスザン丘陵きゅうりょうへと差し掛かっていた。


スザン丘陵は、小さい丘と林が点在する地区で、ウルフェスやスライムをはじめとする小型モンスターの生息地だ。


そして、ここまで来れば、城塞都市キルケットはもう目と鼻の先だった。



その時。


「来るな! このくそやろーっ! 俺にさわるなぁぁ!?」


と叫ぶ声と共に。

前方の林の中から人影が躍り出てきた。

銀色の甲冑で全身を包んだ。小柄な人影だ。


手には、身の丈に合わない大ぶりな剣を持っている。


そしてその後からは、ウルフェス20体程度の群れが追ってきていた。


甲冑の少年は、必死に剣を振り回すが。

剣が大ぶり過ぎてウルフェスにほとんど避けられている。


「筋は悪くねぇが。武器の選択が悪い。ありゃ駆け出しだな。後、あのウルフェス達は、狩り中の群れじゃねー。あのガキ、ウルフェスのねぐらをつついたな」

と、バージェス。


「放っておくと、あの子。ウルフェスのお昼ご飯にされちゃうかもしれませんねぇ」

と、アマランシア。


もしクエストの途中なら、横取りは冒険者の御法度とされている。

だが、放っておくのも後味が悪い。


アマランシアの言う通り。

あの少年剣士に、1人であの状況を切り抜けられるとは思えなかった。


俺は、バージェスたちを見た。


彼らは俺に雇われた護衛としてここにいる。

護衛時は、無駄な危険は避けるのが鉄則だが。


「あそこは俺たちの通り道だな。」


俺の言わんとすることは、4人とも理解したようだった。


リオラが、ホッとしたようにため息をつく。


そして、バージェスたちがウルフェスの群れに向かって飛びかかっていった。



→→→→→



「儲け…だ」


ウルフェスの亡骸、23体。

全て「倉庫」に収めて、俺は思わずそう呟いた。


ウルフェスを直接討伐した、バージェス、アーク、アマランシアの3人が。全員所有権を放棄したので、俺が全部もらった。


後で毛皮を剥いで、ツノをもいで素材屋に売れば、それなりの額になるだろう。



バージェスたちに助け出された少年剣士は「剣士クリス」と名乗った。

まだ成人(16歳)前後のガキンチョのようだが、一端の冒険者を気取っているようだ。


「クリスちゃんは、なぜウルフェスに追われていたのかしら?」

アマランシアが優しくそう聞くが。


「俺のことを『ちゃん』とか呼ぶんじゃねぇっ!」

と、クリスがマジギレ。


「こんの、クソガキィィッ!」

すると、今度はバージェスがキレた。

「アマランシアちゃんに謝れぇぇー!!」


そんなバージェスにビビって、アマランシアの後ろに隠れるクリス。


アマランシアとクリスを交互に見て、デレたり怒ったりしてるバージェス。


もはやカオス。


さらには。

『【初級】ウルフェスの毛皮×10枚の納品』

のクエスト途中だったというクリスに。


俺が。

「こいつらが欲しけりゃ、1体100マナで売ってやってもいいぞ?」

とふっかけたせいで、状況はさらにカオスなものとなった。


素材の価値で考えると。毛皮を売って1枚20マナ、ツノを売って1本30マナくらいだ。ウルフェスの他の部分はあまり使い道がないので。

その2つの素材価値で、1匹50マナ。

だから、俺のふっかけた金額は、素材相場の倍だ。


「ふざけるなぁー!」


当然、クリスが怒り出す。


が、その前にバージェスたちが立ちはだかった。


「俺たちはこいつの護衛で雇われてるんだ。やるってんなら…やるぞ?」


「それに。結果的とはいえ危ないところを助けてもらっておいて、その態度はいただけませんよ」


割としっかりしているリオラにも諭され。

クリスはしゅんとした。


だが。ウルフェスの亡骸を俺から買い取るとは言い出さなかった。

どうやら、普通にマナが無いようだ。


金がないなら、客じゃない。



→→→→→



俺たちは満身創痍のクリスを連れて、そのままキルケットに向かった。

その間、クリスはずっと無言だった。


かなりの時間ウルフェスたちから逃げ回っていたようで。体力的にも限界がきているようだ。

今から再びスザン丘陵に戻って、ウルフェスを10体討伐するような力は残されていないだろう。


受注した納品クエストは『失敗』と言うことになるのだろう。


おそらくは冒険者になりたてのルーキー。

そもそも、1人で10体のウルフェスを討伐できるだけの実力はないのだろう。


俺も。

年齢だけはベテランだが…

1人でウルフェス10体は、確実に無理だ。


正直、1体だって危ういぜ。



そして。

城塞都市キルケットの外門が見えてきた。


重厚な石造りの門で、その内外は多数の人の行き来がある。


「アルバス。さっきお前にやった、俺が討伐した分のウルフェス。やっぱり返してもらえねぇか?」


バージェスはそこで、俺にそんなことを言ってきた。


「ん? 1体50マナだな」


「しゃあねえな」


バージェスは、そう言って腰の小袋からマナを出そうとした。


「冗談だ。もちろん返すよ。あんたにはしょっちゅう素材を恵んでもらってたからな。11体だったよな?」


「お前が言うと、冗談に聞こえねぇんだよな」


バージェスは渋い顔をしながら、出しかけたマナをしまっていた。


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