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55 発覚と逃避

「負傷者は?」


「巻き込まれた街人はいないか!?」


ミストリア劇場とお屋敷、そして周辺の民家を自警団員達があわただしく走り回っていた。

人魚と黒い翼の首領による水の矢の攻撃は、俺のお屋敷のみならず、周辺の民家にも相当な被害をもたらしたようだった。


ちなみに、今のところはシュメリア以外に死者の報告は受けていない。

ただ、負傷者はかなりの数いるようだった。


ちなみに、今このお屋敷に来ているのは自警団の予備隊らしい。

聞くところによると、闘技場に捕らえられていた魔獣達が檻から逃走して中で暴れ回っていたらしい。

それで、バージェスを含むこの地区の自警団の主要メンバーたちは、そちらの対応に行ってしまっているとのことだ。


そちらはそちらですでにだいたい片がついたらしいのだが……

割りと面倒なことにもなっているらしい。


闘技場からは、何体もの腐り切った魔獣の亡骸の他に、なぜか檻の中で気絶しているクドドリン卿が発見されていた。

ただ、事情を聞こうにも、クドドリン卿は訳のわからない事を喚き散らすばかりで話にならない。

とはいえ、相手はキルケット第三位の貴族のため、無碍に扱うわけにもいかない。

ということでガンツ達も困り果てているらしかった。


まぁ、俺にとってはクドドリン卿のこととかはどうでもいいけど……

それに付き合わされているガンツ達が不憫だった。


また、街の外からこのお屋敷に向かおうとしていたシオンやフウリは、やはり黒い翼の他のメンバーによる足止めを食っていたようだった。


そこに現れていたのは、アルミラとシルクレッドとその妻三人衆、そしてジャハルだ。

アルミラは流石に万全ではなかったらしく、後方で魔獣達に指示を出しているだけらしかったが……

全体を見渡せば、まさに俺の知る黒い翼メンバーの総力戦と言ってもいいような状況だった。


とはいえ、とにかく。

俺たちは今回もまた凌ぎ切った。


そして今、このお屋敷では……

『生命の泉』の効果によって息を吹き返したシュメリアが、治療院から駆けつけたカリーナの治療を受けていた。


「カリーナ様……シュメリアの具合は?」


一通りの応急的な治療を終えたカリーナに、ミトラがすがるようにしてそう尋ねていた。


カリーナはそんなミトラを驚いたように見やり、しばらく言葉が出ない様子で固まっていた。

そして、少しだけ間を置いて目の前のハーフエルフがミトラだと認識すると、ゆっくりと話し始めた。


「これだけの傷を負っていながらも、なぜか驚くほどの力に満ち溢れています。おそらくは問題ないかと思います」


「ありがとうございます。なんとお礼を言っていいものか……」


「……」


そこで、いつもの癖でずっと俯いていたミトラは……

改めてカリーナの視線に気が付いたようだった。


そして、顔を上げ……、

「あっ」と小さく声を上げたのだった。



→→→→→



ミトラは立ち上がり、周囲をぐるりと見渡した。


時刻は明け方。

未だ薄暗いとはいえ、周囲には松明の明かりが焚かれ、ミトラの姿を照らし出していた。


そんな中。

眼帯を取り払ったミトラは……

その、翡翠色の瞳をさらけ出していたのだ。


疲労と数々の細かい怪我とで、ミトラもとっくに限界を超えている。


あまりにも憔悴し切っていて、あまりにもシュメリアのことばかりを考えていて……

ミトラは自らが眼帯を外して気づいていたことを、完全に失念していたのだった。


「あ……、ああっ……」


ロロイ、アマランシア、そして自警団員達に、リルコット治療院の面々。

さらには、この騒ぎを聞きつけて外泊先から駆けつけてきたミストリア劇場の吟遊詩人たち。


ミトラを知る幾人もの者たちの視線が……

そこにいるミトラへと集中しているようだった。

少なくとも、ミトラにはそう見えていた。


「あ……、あああっ!!!」


「だ、大丈夫だ。落ち着けミトラ!」


俺がそう声をかけたのとほぼ同時に……

ミトラは廃墟となったお屋敷の方へと走りだした。


あまりにも動揺していたのだろう。

ミトラは、瓦礫に躓いて転んだ。


「大丈夫かっ!!」


駆け寄って手を貸そうとした俺の目の前で、ミトラが錬金術の光に包まれた。


そして、そのまま周辺の瓦礫を一瞬にして作り替え……

箱状の個室を作り出し、その中に潜っていってしまった。


「ミトラ……」


あまりに様々出来事の連続。

そしてトドメの一撃のようなこの出来事に、ミトラの心は耐えきれなかったようだった。


そして……

ミトラと俺の隠し事は、こうして(おおやけ)になってしまったのだった。



→→→→→



その後。

シュメリアは治療院へと運ばれて行き、そこで引き続き治療を受けることになった。


シュメリアの身体は。間違いなく生き返っていた。

だが、シュメリアの意識は未だに戻ってはいなかった。

シャルシャーナの持っていた小瓶が『生命の泉』という名前の物であることは、鑑定スキルの結果から確認されていたが、それがグリルの物語に出てくるものと同じとは限らない。

この後のシュメリアの容体の経過は、注意深く見ていく必要があるだろう。


自警団の方はというと、俺のお屋敷の庭で数名の自警団員がアマランシアから経緯の説明を受けているところだった。

結局のところ、黒い翼が俺たちを襲撃してきた理由は『不明』ということになっていた。


そしてミトラのところから戻ってきた俺をみて、全員がいったん会話を止めた。


「まぁ、そういうわけなんだが……。できれば、これまで通りに接してほしい」


「了解なのですよ」


真っ先に、ロロイがそう答えた。


カリーナは「きっと、おつらかったのでしょうね……」と言って言葉を詰まらせていた。


「エルフ族には、もうだいぶ慣れているだろう?」


ミストリア劇場の吟遊詩人たちに向かって俺がそう言うと、彼らも少し戸惑いながら頷いていた。


アマランシア達は……


「アルバス様。それについては、後でお話があります」


そう言って、含みを持たされた感じになってしまった。



→→→→→



一通りの事後処理を終えた後。

時刻はすでに明け方近くになっていた。


「ミトラ。今からリルコット治療院に、シュメリアの様子を見に行くんだが……、ミトラも来るか?」


俺は、引きこもってしまったミトラにそう言って声をかけた。

対するミトラの答えは「シュメリアのことをお願いいたします」というものだった。


仕方がないので俺はクラリスをミトラのところに残し、ロロイと共にリルコット治療院に向かった。


リルコット治療院のカリーナによると。

シュメリアはあれほどの傷を負っていながらも、なぜか驚くほどの生命力に満ち溢れており……

傷が癒えたわけでもないのに、身体は全く問題ない状態だとのことだった。


ただ、やはりまだ意識は戻らないらしい。


顔を見に行ったが、その時もやはりシュメリアは眠っていた。


「また、顔を出す。カリーナ、よろしく頼む」


「わかりました」


とりあえず、俺はいったんお屋敷へと帰ることにして……

その日はミトラが引きこもってしまった箱の近くに天幕を作り、クラリスと共にミトラに話しかけながら身体を休めた。

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