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38 ある勘違い

その日の晩。

シュメリアを除く普段屋敷に泊まり込んでいる吟遊詩人たちには、屋敷の外の宿屋で外泊をしてもらうことにした。


表向きは、昨日から魚人の子供達の様子がおかしかったから念のため。という事にしていたが……

実際のところは、アマランシア達との打ち合わせや今後の奴隷闘技場への対応について、いろいろと見聞きされると困ることが発生する可能性が高かったからだ。


そのため今この場にいるのは、俺の他にはミトラにシュメリア。それにロロイとクラリスとアマランシアの五人だけだ。

また後ほど、シオン、フウリ、シンリィの三人がやってくることになっている。


今はは、このお屋敷に残っている五人だけで食事をとろうとしていた。


ちなみに 

バージェスは自警団の仕事で夜廻りに出ていて、カルロはここ最近は毎晩ウォーレン家の敷地内にある自宅へと帰っていた。


「日々の糧に感謝を」


いつもより人数が少ないけど、まぁ問題はない。


「日々の糧に感謝を」

「日々の糧に感謝なのです」


他の者たちも口々に食事前の感謝の言葉を述べ、本日の夕食が始まった。


ロロイは、昼間の一件でしばらく拗ねていたのだが、俺と一緒に戻ったクラリスに謝られて徐々に機嫌が戻ってきている。


ちなみにクラリスは、今夜はこのまま泊まっていくつもりのようだ。


「バージェスが、今夜は一晩中自警団で詰所待機とか夜廻とからしいからさ」


「お互い、なかなか家に帰らない夫を持つと苦労しますね」


そんな冗談(?)を飛ばしているミトラは、クラリスが来ていることもあってか久しぶりに食堂へ顔を見せていた。


「最近はずっといるだろう?」


「冗談ですよ。いつもお仕事お疲れ様です」


そんなねぎらいの言葉を普通の調子で口にしたミトラに、クラリスが驚いた顔をしていた。


「姉さん……、なんか変わったな」


「そうかしら?」


「うん、なんかすっごい明るくなった感じがする」


「いろいろなことが、変わりましたからね」


ミトラが少し顔を上げて微笑み、クラリスが再び面食らった顔をしていた。


そんなミトラの食事は、シュメリアがミトラのために食べやすい果物などをメインにチョイスした専用のものだ。

最近はいつも部屋で食べているので、あまり見かける機会がなかったのだが……

なかなかに美味そうなので、ミトラに一声かけてから俺も少しつまませてもらった。


「あ! アルバスズルいのです! ロロイもそれ欲しいのです!」


「ん? ミトラに聞いてみろ」


「ええと、構わないですよ」


「あ、でもそれだとミトラ様の分がなくなってしまいます。ロロイさんはちょっと待っていてください。すぐにもう一個切ってきます!」


そんなことを言って、シュメリアが早足で台所に向かっていった。

そして、言った通りにすぐにロロイの分の果物を切って戻ってきた。


「おいしそうなのです! シュメリア、ありがとうなのです!」


そう言って、ロロイは一瞬にして果物を平らげてしまった。


人数はいつもより少なかったが、なんだかんだと賑やかな食卓だった。



→→→→→



食事の後。

俺達はこのまま食堂に残り、クドドリン卿の奴隷闘技場への対応について打ち合わせることになっていた。


「悪いな二人とも。これから仕事の打ち合わせだ」


場合によっては、かなりグレーな話が出ることもありうる。

内容が内容だけに、ミトラとシュメリアには下がっていてもらうことにした。


「例の、闘技場の件ですか?」


去り際、珍しくシュメリアがそんなことを聞いてきた。

ここ最近ずっと魚人の子供たちの世話をしていたこともあってか、いろいろと気になっているのだろう。


「まぁな」


「その、闘技場の魚人のことなんですが……、あの子達の親だったりするんでしょうか?」


シュメリアは、なんとなくあたりをキョロキョロとしながらそんなことを言い出した。


子供たちの昨晩の騒ぎ様からしてみても、現在闘技場に捕らえられている魚人の男が子供たちの親である可能性は高そうだと感じていた。


魚人の唄声というのが、陸上でどの程度まで届くものなのかは不明だが……

海中であれば、闘技場とこのお屋敷程度の距離ならば簡単に会話が出来てしまうらしかった。


子供達を探して陸にあがった魚人の親が、何かの拍子に自らも捕えられてしまうというのは確かにあり得そうな話だ。


ただ、今の俺達にその真偽を確かめる術はなかった。

闘技場の魚人は、クラリスが何かを問いかける間もなく自分から闘技場のバックヤードに歩き去っていっていた。


「そうかもしれないけど、実際のところは分からないことだな」


「その闘技場の魚人が、もしあの子たちのお母さんだったら……」


シュメリアが、若干俯き加減で言葉を詰まらせた。

シュメリアの母親は、今もリルコット治療院で病床に伏している。

その辺りからも、色々と思うところがあるのだろう。


「少なくとも、『母親』ではないだろうな」


「えっ……?」


「どちらかというと『父親』だ。俺達が闘技場で見た魚人の戦士は、男性だった」


俺がそう言うと。

なぜか驚いたような顔をしながら、シュメリアはフラフラと二階へと上がって行った。



→→→→→



シュメリアとミトラが二階に上がって行った後。


キルケットの外からフウリ、シオン、シンリィの三人がやってくるまでの間。

ここにいるメンバーだけで大雑把な状況の整理と情報交換を行うことにした。


今は、アマランシアがクラリスから闘技場の魚人の様子を詳しく聞き取っている最中だ。


「シュメリア、なんか変な感じだったのです」


その横で、クラリスの話にはあまり興味がなさそうなロロイがそんなことを言い出した。


「そうだな……。闘技場の奴隷魚人のことを、完全にあの子らの『母親』だって思ってたみたいだな」


バージェスから聞いた話では、魚人の子供への執着は、父親よりも母親の方がはるかに強いという話だった。

サウスミリア出身のシュメリアも、そのあたりのことをどこかで聞いて知っていたせいで、『子供達を助けに来たのは母親だ』と思い込んで勘違いしてしまっていたのかもしれない。


「ただそれはそれとして、あの子供たちの母親はどうしているんだろうな?」


子供達の行方を追って今もどこかの海をさまよっているのか……

もしくは何らかの原因……例えば子供達が捕らえられる時に抵抗するなどして死んでしまっているのか……


「一緒にあの闘技場に捕まってるかもしれないのです」


「その可能性もあるな……」


「助けてあげたいのです」


「そうは言ってもなぁ……」


やはり現状では情報が少なすぎてどうにもならなかった。

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