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12 エルフの行商人②

そうして『白い牙』の大部分のメンバー達は各種のアイテム作成に入ることになった。


そしてその間、俺は各商隊のリーダーとなるメンバーと、行商をする場所の見極めなどに関する少し具体的な話を進めていくことにした。


キルケットには東西南北に一つずつの行商広場と複数の露店広場がある。

そのため、当面は商隊を最大四つに分けての商売を行うことにするつもりだ

まずは俺が全体を把握しやすい数の少数精鋭での販売を行う。


そしてゆくゆくは白い牙の五十名近いメンバー全員でそれぞれに役割を分担しながら、散り散りになって行商に取り掛かる。


そこまで行けばもう、知名度もそれなりに上がっている頃だろうから、売り歩くアイテムはなにもエルフに関連したものでなくても良くなるかもしれない。


俺が元締めとして、その時々の『売れるアイテム』を選定し、仕入れも含めてエルフ達に指示を出す。

一番初めは、俺の顔見知りが多いポッポ村なんかとの交易を始めるのがいいだろう。

そして、徐々に大きな利益を上げる体制を整えていく。


なんとなくだが、これが俺の描いている『エルフの行商人』の最終着地点だった。


「では、はじめに作る四つの商隊のリーダーは、シンリィ、フウリ、シオン、そして私が受け持ちましょう」


「本当にその四人でいいのか?」


アマランシア、フウリ、シオンは順当だろう。

だが、メンバー全体の中でも年齢が低めなシンリィにそういった役回りが務まるのかと少し心配だった。


だが、アマランシアによると……


「大丈夫ですよ。シンリィは、西の隠れ里の里長の血縁ですので……」


とのことだった。


つまり、西大陸の隠れ里から白い牙に参加しているエルフ達にとっては、シンリィはその血筋だけでリーダーの一角たりうる存在だとのことだ。


逆に、こういった場面でシンリィを立てないと西大陸由来のメンバーから不満が出る可能性もあるのだと、シオンが小声で教えてくれた。


「……なるほど」


そういえば、俺にこの商売についての申し入れをする際、シンリィはアマランシアの真隣にいた。

一見すると、その時のシンリィの立ち位置は白い牙の第二位と取れるものだ。


俺は、そんなシンリィの配置に少し違和感があったのでよく覚えていたのだが……

あれは、そういった層への配慮の意味があったらしい。


ちなみに、シンリィ自身は「私のことはお気になさらずに!」などと言いつつも、そんな自分の立場をきちんと理解しているためその扱いを甘んじて受け入れているのだそうだ。


エルフ族の慣習におけるその辺りのことには詳しくないが……、人間の世界における貴族の特権階級なんかと似たような考え方なのだろう。


これからエルフ族とより深く付き合っていくにあたり、そういった慣習についても徐々に情報を仕入れて頭に叩き込んでいかなければならない。


今の俺の発言も、聞かれる相手によっては火種となる可能性もあっただろう。


知らず知らずのうちにミスをして、エルフ達の不満や反感を買ってしまわないように、商売仲間のことをより深く知るのは重要なことだった。



→→→→→



そうして今日も、俺とロロイ、そしてアマランシア、シンリィ、フウリ、シオンの六人で、キルケットの街中を歩いていた。


俺がアマランシアたちと並んで歩くこの光景は、お屋敷のある西部地区ではかなりよくある光景になりつつある。


だが、現在俺たちが歩いているのは北部地区の大通りだ。


ここでは、いまでもすれ違う街人達がギョッとして足を止めるような場面が散見された。

中には、あからさまに嫌な目つきで睨め付けながら武器に手をかけているような輩までがいる。


「やめとけ。あれが例の銀等級商人のアルバスだ。連れてるエルフも、もう一人の赤い髪の護衛も相当な手練れだって話だぜ」


そんな声も、風に乗って聞こえてきていた。


「やっぱり、西部地区(恩人さんの本拠地)を離れるとまだまだこんな感じか……。めんどくさいなぁ」


「……ですね。噂が広まっているおかげで、さすがにいきなり襲い掛かってくるようなお馬鹿さんはいないようですが」


そんな会話をかわしつつも、シオンとフウリは周囲に目を光らせて警戒態勢を敷いている。


アマランシアが頭目である以上、同行している際の周囲への警戒は部下である彼らの仕事というわけだ。


ただ、一人だけ例外がいる様だけど……


「あ、あっちのお店から美味しそうな匂いがします!」


そう言って、シンリィが鼻をクンクンさせていた。


シンリィは、周りから他のエルフがいなくなると、とたんに子供っぽくなる。

そんなシンリィを、アマランシア達は保護者の様な感覚で見ているようだった。


「本当なのです!行ってみるのです!」


そういってロロイが同調し、二人して一緒に走っていってしまった。


「あいつら……」


ただ、年齢を考えるとむしろこっちの方がシンリィ本来の性格なのだろう。

俺たちから多少離れたところで、ロロイが一緒ならば問題はない。


それにシンリィ自身も、実は相当に腕が立つのだと思われる。

アマランシアが、魔龍化したロロイとの戦闘の最前線に出す程度には……


無尽腐毒(オメガ・フラン)をどうにかすることに夢中になり過ぎて、あの時はシンリィの動きまで追えていなかったが……

実際のところ、シンリィの戦闘力はかなり高い部類なのだろう。


「アルバース!あれ買ってー!」


「アルバスさん。シンリィの分もお願いします!是非是非お願いします!シンリィもあれ食べてみたいです!」


こうしてみると、二人ともただの子供にしか見えないんだけどな……


「はいよ」


俺がマナを渡すと、二人はニコニコしながらまた走って行った。

そして、なんだかよくわからないふわふわした食べ物を買ってきて食べ始めた。


「んまーい、のです!」


「本当だ!美味しー!」


ロロイとシンリィは、二人して満面の笑みでそれを頬張っている。


ってか、ロロイは自分でマナを持ってるだろ⁉︎

その辺の冒険者の稼ぎよりか遥かにいい額の雇い賃を出してるはずだぞ?


そう指摘しても、ロロイはあっけらかんとしていた。


「アルバスに買ってもらった方が、なんか美味しいのです」


「そんなもんか?」


「うん!」


雇い賃を減らしてやろうか……?

まぁ、一個20マナだから別にいいけどさ。


「サクサクしててホロホロしてて、最高なのです!」


「ほんとにおいしーです。アルバスさん、ありがとうございます!」


この二人分の笑顔には、40マナ分くらいの価値はあるだろうから……まぁいいか。


「人間の街には、本当に色々なものがあるんだね」


はしゃぎ回るロロイとシンリィを見ながら、フウリが感心したようにそう言った。


「そうだな。各地から商人が集まって、それぞれに工夫を凝らした商売をしている。最近は俺も、行商広場に行くたびに見たことのない新しいものを発見するよ」


その中での流行りや廃れがある。

そして、定番化していつまでも変わらずに売れ続けるものもある。

さらには俺のモーモー焼きのように、一周回ってかつての流行りが再燃するというパターンもある。


次々と入れ替わる商品群のその全てを把握することなどは、誰にもできないことだろう。


ちなみに最近は、食べ物に関する新商品が増えてきているように思う。


「つまりはその中で、今から僕達が売るものをどうやって目立たせて、より多くの人に受け入れてもらうかって話だよね」


「よくわかってるな……つまりはそういうことだ。ただ、実際のところ『エルフである』というだけですでに目立っている。これからここで商売をするにあたり、立ち回り次第でそれは有利にもなってくるだろうな」


『目立っている』ということは、それだけ多くの客の意識に上るということだ。

そうなれば当然、話題にものぼりやすい。


ただし一番の課題は、そこからどうやって実際に客を呼び込み、実際の商品の購買に結びつけるのかという部分だった。


話題に上って興味を引けたとしても、未だ異物として認識されているであろう『エルフ』の店に、足を運ばせるための『さらなる動機づけ』が必要だ。


そこには、選定した商材自体の価値が効いてくるはずだった。

そして実際に客が来た後は、接客などの能力がモロに反映されるだろう。


俺の力で、それらをどれだけ高められるのかが、この商売の成功と失敗を分ける一番の重要なポイントとなってくるだろう。


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