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06 素材商人アルバス

翌日は、アマランシアたちを引き連れて魔獣素材の販売を行うことにしていた。


そのために俺は今日、あらかじめ予約料を払って荷馬車行商広場の区画を4区画ほど予約していた。


亡骸は基本的にまるまるの状態で『倉庫』の中に入っているため、商談を進めながらその場で解体していくことになる。

だからそれなりに広いまとまった範囲を占領しておかなくてはならない。


荷馬車行商広場には本来、予約などというシステムはないのだが……

まぁ『マナに物を言わせた抜け道』というやつだ。

商人である以上、行商広場の衛兵たちとは色々な手を使って仲良くしておいて損はない。


俺は確実に場所が取れるし時間が有効に使える。

そして彼らは懐が温まる。

これぞお互いに利のある『Win-Win』という奴だろう。


もちろん、広場の開始時間前からきちんと並んでいるような他の商人が狙う『入口付近』や『ど真ん中の一等地』ではなく、隅っこの方にまとめて確保しておいてもらうというだけだ。

俺に必要なのは続きのまとまった区画というだけだからな。


「さて、始めるか……」


行商広場の客商売が解禁される時間となり、早速俺は数体の上級魔獣の亡骸を『倉庫』から取り出して並べた。


事前告知をしてあったため、広場には俺の到着よりも早い時間からキルケット各地の素材屋の店主達が集まって来ていた。


「これはドルマイトか。中央大陸の北側に生息する上級魔獣だな」


開店早々に早速、目の肥えていそうなどこかの店の店主が声をかけてきた。


「ああ、背中にある三つの殻状骨格の素材価値が高い。土と水の属性を宿していて、加工により関連した防御系のスキルがつきやすいとされている」


「では、そのドルマイトの殻状骨格をいただきたい」


「他の部分はいらないか?皮はそこそこの強度があるし、肉は一応、現地では食用だぞ」


「そうだな、殻状骨格だけ取り外してもらうことはできるか?」


「はいよ」


価格の交渉後、俺はすぐに解体に入った。


「アルバスさん、こちらのウルルフェスみたいなモンスターはなんですか?」


「ああ、そっちは……」


「ウルトリスです。顔つきはウルルフェスに似ていますが、見ての通り全身が羽毛で覆われています」


なかなか手が回りきらない俺に代わり、アマランシアがモンスターの説明を行ってくれた。


「亡骸になると分かりづらいですが、この部分に四枚の羽があって、断崖から滑空するように空を飛びます。この羽が素材としての価値が高くて……」


吟遊詩人や冒険者として各地を回っていただけあって、アマランシアのモンスターについての知識はかなり豊富なようだ。


「う、うむ……、ちなみに現地ではどのような加工をしているんだ?」


「『風属性』に関わる強化スキルがつきやすいので、風の魔杖や装飾品の飾りつけに使われることが多いですね」


「なるほど、それならば……」


アマランシアに応対された商人は、エルフのアマランシアを見て一瞬固まったものの、その後は普通に会話を続けていた。


「アルバスさん。ルードキマイラはまだ残ってるかい?」


更に別の商人が、まだドルマイトの解体をしている俺に話しかけてきた。


「あー、今は場所がないからな。一旦この辺のスペースを開ける。ただ、こっちのドルマイトの解体が終わるまで少しだけ待ってくれるか?」


「では、解体は私が代わりますよ。昔、同系統のドマイトの解体をよくやっていましたので」


そう言って、シオンが腰からナイフを取り出してドルマイトの解体を代わってくれた。


以前も少し任せたことがあったが、シオンの解体の腕はそれなりのものだった。


「そこの刃はもう少しだけ角度を付けたほうがいいな」


「こうですか?……確かに刃の通り方が変わりましたね」


よくやっていたというだけあって、シオンはなかなかに解体に関する飲み込みが早かった。

任せてしまって問題ないと判断し、俺は先ほどのルードキマイラを求める客の対応をすることにした。


すぐに買い手のつかなかった二体の魔獣の亡骸をしまいこみ、開いたスペースに向けてルードキマイラの亡骸を取り出した。


倉庫取出(デロス)


橙色の立て髪に、ねじれ角。

全身を覆う黄色い鱗。

そして、その巨大な体躯。


このキルケットにおいて数々の冒険者を屠ってきたそのモンスターの姿を見た見物人からは、一斉に息を呑む音が聞こえた。


「ルードキマイラだ。知っての通り、加工することによって非常に珍しい『雷電』属性のスキルが付く可能性がある。ちなみに、残りはこれを入れて2体だ。もし購入希望者が多いようであればオークション形式にしようと思うが……」


前回ここで素材商店を開いた時には、そのうちの一体が最高額の20万マナで売れていった。

単独行動を好むが故に、ルードキマイラは元々からしてかなり希少価値の高いモンスターだ。

その上に、西大陸には生息していないということもあって相当な高値がついた形だった。



「ではアルバス。その残り二体は、私が合わせて20万マナで買い取ってやろう」


そんな時。

突然に、明後日の方角からそんな声がした。



その声がした方から進み出て来た男は……


「クドドリン卿?」


「見ればわかるだろう。さっさと準備をするがいい。貴族である私がお前の商品を買ってやろうというのだぞ」


相変わらず横柄で高飛車な態度で、キルケット第三位の貴族であるクドドリン卿が、屈強そうな護衛を引き連れてそこに立っていた。


「先にお声掛けいただいたお客様がいますので……」


そう言って、俺が先ほど『ルードキマイラはまだ残ってるかい?』と尋ねてきた男を見やると……

そいつは慌てて首を横に振った。


有力貴族であるクドドリン卿と、余計なトラブルは起こしたくないということだろう。


思わずため息が漏れた。


「クドドリン卿。ではせめて、一体につき15万マナになりませんか?ルードキマイラの素材としての価値を考えると……」


「うるさい!どうせ元手はゼロなんだろう?それで(マナ)をとろうという根性自体が気に食わん。そんなものに20万マナも出してやるだけでもありがたいと思え」


「ルードキマイラは、この西大陸には生息していないモンスターだ。運搬コストのことを考えると当然その価格は……」


「別に、お前が手配して運んできたわけでもないだろう?」


「……」


本来、売り手と買い手は対等だ。

こうなった場合、俺には『売らない』という選択肢もある。


ただ、俺の個人的な感情はさておき、クドドリン卿の言うことも一理あった。

正直言って、あまりその方向性で騒ぎ立てられると困るというのも事実だった。


ただ、元手がかかっていないだなんてことは決してない。

命懸けでルードキマイラを討伐しようとした冒険者がいる以上、そこにかかっている元手は彼らの命そのものと言ってもいいはずだ。


だが、有力貴族であるクドドリン卿の言葉は、一般的にはよく広がってしまう。

あまりあることないことべらべらとしゃべられたくはない。


「わかりました。では、ここはクドドリン卿の顔を立てて、その額で売ることにいたしましょう」


本当はこいつにさっさといなくなって欲しいだけなのだが……

そういうことにしておくほうが、俺にとっても何かと都合がよかった。


クドドリン卿を喜ばせるのは癪だが、以前に高値で買って行った他の客の手前としても『大貴族様相手に仕方なくこの価格で売った』という体裁を取りつつ、波風を立てずにさっさとお引き取り願うのが得策だった。


クドドリン卿は「わかれば良いのだ」とか言いながら、付き人にマナを支払わせた。

そして、引き連れていた荷馬車の荷台にルードキマイラの亡骸を積み込んで満足そうに去って行ったのだった。


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