03 街の遠景
アース遺跡の地下から地上に出ると、すでに辺りは薄暗くなっていた。
そのまま遺跡群のど真ん中を移動してアース街道まで出ると、そこにはちらほらと冒険者達の姿が見え始めた。
白い牙のエルフ達ともに小走りでアース街道を抜け、スザン丘陵を駆け上る。
すると、丘の上から見下ろす城塞都市キルケットの西側が見えてくる。
俺が引きつれたエルフの一団の姿は、大半がフードで顔を隠しながらである事もあり、誰からも見とがめられるようなことはなかった。
スザン丘陵を登り切ると、まず初めに目に飛び込んでくるのはキルケット西側の門外地区だ。
門外地区の中央を走る大通りではすでにちらほらと明かりが焚かれはじめ、遠目にキラキラとした光を放っている。
奥の方に見えるひと際大きな明かりが『リルコット治療院』そして、その斜め手間の大きな借家が『バージェスとクラリスの愛の巣』だ。
さらにその周りにも大小無数の借家があり、今は暗くなっている少し離れた広場には生活に必要な品を売るちょっとした商店街なんかもある。
それは、四カ月ほど前に俺が土地を買い取り、今なお区画の整備を進めている『キルケット西部門外地区』の、丘の上から見る遠景だった。
こうしてみると、我ながら随分とまぁ巨大なものを作ったもんだと思う。
「すごいよなぁ。あの辺りって、土地も建物も全部が全部アルバスの物なんだよな。こうしてみると、アルバスってとんでもない商人だよな」
丘の上からその光景を眺めながら、クラリスが一人あっけにとられていた。
「ほんの二年前にここを通った時には、まさに裸一貫。身体ひとつの状態だったんだけどな」
そんな俺が、いつの間にやらずいぶんと多くの物を手に入れられたものだ。
それもこれも、俺の商売に協力してくれた皆のおかげだろう。
「そういえばあの辺って……、確か初めて会った時のクラリスがウルフェスに追い回されていた辺りじゃないか?」
そう言って、俺は街道から少し外れた林の方を指さした。
「全然覚えてないな。なにしろ、あの時は本気で必死だったから……」
クラリスが、若干ふてくされたように言った。
これは……本当は覚えているやつだろう。
「確かにあの辺りでしたねぇ」
そこで、アマランシアが会話に入ってきた。
「あの時は確か、アルバス様が『あそこは俺の通り道だ』と言って……、それで私たちがクラリスさんの助けに入ったんでしたよね」
アマランシアが魔術によって人の姿に変化できることについて、屋敷の者達にはすでにバラしていた。
だから、クラリスもあの時の『吟遊詩人アマランシア』と今ここにいる『エルフのアマランシア』が同一人物だという事はすでに知っている。
「他人のクエストの邪魔をするのはご法度とされていますから、普通であれば関わらないという選択肢もあったはずなんですけどね」
「そっか……、そうだったんだ」
あの時に俺がクラリス救出を指示したという話は、クラリスにとっては初耳だったんだろう。
「今私が生きてるのも、あそこでバージェスと会えたのも……全部アルバスのおかげだったんだな」
クラリスは、どこか感慨深そうに天を仰ぎながらそんなことを言っていた。
わざとらしく顔を背けているあたり、じんときて泣いてるのかもしれない。
相変わらず涙もろい奴だ。
「それを言ったら、俺が今生きてることなんかも、全部みんなのおかげだろ?」
黒い翼との激戦は、護衛の誰か一人でも欠けていたら、ああいう結果にはなっていなかったかもしれない。
あれ程の相手に狙われて、石を一つ奪われただけで済んだのは幸運という他なかった。
そう、石一つで済んだのは本当に幸運だ。
手助けをしてくれたアマランシア達にも、しばらくは足を向けて寝れないな。




