01 無尽の器
とりあえず、第9章1〜41話まで書き上げました。
アルバスがある法律の制定を目指す話の、前後編のうちの前編です。
前編の位置付けとはなりますが、内容的にはしっかりと区切りがつきました。
またまた間が開きましたが、暇つぶしにでもぜひお付き合いいただければ幸いです。
そして、実はまだ色々と内容に肉付け中なのです(汗)
【5/16追記】現在44話になっていますが、途中部分をかなり書き換えている最中なので最終的にどうなるか……
「では、始めてくださいアルバス様」
しんと静まり返った洞窟内に、アマランシアの声が響いた。
この場所は地下だが、周囲はエルフ達の照明点灯によって外と変わらぬほどに明るく照らされていた。
「ああ、わかった」
アマランシアにそう答え、俺は二回ほど深く深呼吸をした。
周囲にはずらりと並んだ白い牙のエルフ達。
そしてすぐ近くではロロイとクラリスが心配そうに俺のことを見つめていた。
時刻は夕暮れ時。
場所はアース遺跡群の地下第二階層だ。
袋小路になったおあつらえ向きの大広間を探し出し、入り口に見張りを立てている。
だから、この場所は絶対に人目に付かない。
俺達はここで、『無尽時空』についての実験をしていた。
「倉庫取出」
ゆっくりとそのスキル発動の呪文を唱える。
それと同時に、前へと突き出した俺の腕の先がゆらゆらと揺らめき始めた。
そして……
白と黒のうねりが混じり合った灰色の球体『無尽時空』がこの世界に顕現した。
エルフたちが小さくざわめき、クラリスがあんぐりと口を開けた。
「マジで……、アルバスの『倉庫』の中に、アーティファクトが入ってんのか……」
クラリスはアルミラとの戦闘の後半戦にはいなかった。
だから実際に俺の『倉庫』スキルからアーティファクトが取り出されるところを見るのは初めてだ。
話には聞いていても、実際に見るまでは到底信じられるようなことではないだろう。
ましてやクラリスは『無尽太陽』や『無尽水源』と言った
アーティファクトの影を間近で見ていて、本当にそれがどうにもならない不可思議な存在であることを知っている。
だから、その驚きは尚更のことだろう。
「ここまでは、問題ないな」
倉庫から取り出すことができるのは当然だ。
ここまでならば、無尽時空も安定した状態であり、問題が起きないであろうことは予測の範疇だった。
無尽時空は、遺跡内の空洞に静かに浮かんでいる。
「ロロイ……頼む」
アマランシアをはじめとしたエルフたちに目配せをしながら、俺はロロイに声をかけた。
実験は、ここから予定していた第二段階に移る。
「わかったのです」
俺の指示を受けて、ロロイが魔宝珠を『無尽時空』に向かって掲げた。
そして、目を閉じた。
要領は無尽水源と同じだ。
……そのはずだ。
元が同じものである以上、同じ方法で制御することが可能であると俺たちは考えていた。
無尽時空から取り出した魔法力を、ロロイが自在に操る。
それができれば、実験の第二段階は成功だ。
「あっ……、ヤバいのです」
突然、ロロイが声を上げた。
それと同時に、ロロイの身体が指先からハラハラと崩れ始めた。
崩れたロロイの身体の破片は、重力を無視して洞窟内に舞い散って行く。
「なっ!」
ロロイの身体が、指先から凄まじい勢いで消滅していった。
ロロイの手の支えを失い、魔法珠がゴトンと土の上に落ちた。
ロロイの腕はそのまま一気に二の腕の辺りまで崩れ去っていった。
「ロロイっ‼」
俺は反射的に手を伸ばし、無尽時空を倉庫に収納しようとした。
だが、そんな俺の手を、ロロイが残った方の手で制す。
「待ってアルバス。落ち着いて……。先に魔宝珠を頂戴……」
異様なほどに落ち着いているロロイにより、俺も少し落ち着きを取り戻した。
すぐに魔宝珠を拾い上げ、ロロイの残った方の腕に握らせた。
「アルバスに代わり、ロロイが命じる」
呼吸を整えながらロロイがゆっくりと言葉を紡いだ。
その身体はすでに右肩までが消滅している。
「我々に……従え」
その瞬間、無尽時空がブルブルと震え始めた。
それとほぼ同時に、空中に散って行ったロロイの腕が空中からの光の粒で再形成され始めた。
そして、まるで時間が逆行するようにハラハラと元通りになっていく。
ゆっくりと……
消えていった時の倍くらいの時間をかけて、消えていたロロイの腕は元通りになった。
「アルバス……後はお願いなのです」
「ああ。……倉庫収納」
俺の言葉とともに、無尽時空は俺の倉庫内へと戻って行った。
「ふぅ……」
それと同時に、ロロイが俺の方へと倒れ込んできて、慌ててその小柄な身体を抱きとめた。
「大丈夫……な訳ないな」
「あ……危うく死にかけたのです。こんなの初めてなのです。今のは、かなりやばかったのですよ……」
へたり込んだロロイの肩が、小刻みに震えていた。




