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52 余談(ある冒険者達のその後)

余談という名の後日談です。

そしてこれは余談だが……


剣士ルッツと魔槍術士ビビの二人は、あの事件のしばらく後で正式に結婚したらしい。


消されてしまった記憶の間に、本当は何があったのか……

もしくは本当になにもなかったのか……

ルージュが去った今、もはや知る方法はなかった。


だからルッツは、結婚の申し込みから何から何まで、すべてをもう一度やり直した。

そうして、ここにもう一組の夫婦が誕生したのだった。

すでにバージェスの妻となっていたクラリスも、もちろん二人の祝いに駆け付けた。


そして残るノルンとスルトは……

ルッツ達とは袂を分かち、それぞれに別の道を進み始めた。


ノルンは、白魔術師カリーナによってその特殊な才能を見出され、リルコット治療院にて白魔術師の道に進むことになった。

スルトもノルンに続いてパーティーを抜け、冒険者とは違う道を志した。


そうして二人きりになったルッツとビビは、『紅蓮の鉄槌』のパーティー名を名乗ることをやめた。

短期間のうちに三人のメンバーが抜けてしまった『紅蓮の鉄槌』は、こうして事実上の解散となったのだった。



→→→→→



クラリスとバージェスの披露宴会場にて……


「アルバスさん……。俺を弟子にしてください!」


クラリス達への祝辞を述べた後、スルトは俺のところへやってきてそんな申し入れをしてきた。


「劇場の下働きでもなんでもいい。アルバスさんの元で、商売を学ばせて欲しいんです!」


理由を尋ねると「人に頼らず、自分の力でマナを稼げるようになりたい」とのことだった。


罠魔術師というのは、つまりは罠系統の魔術に特化した支援魔術師だ。

冒険者パーティーにおける戦闘では、どうしても補助的な役割に徹することになる。

スルトは、パーティーメンバー全員がルードキマイラに瞬殺された例の一件で『自分には何もできなかった』と嘆いていた。

またやはりノルンに対する気持ちの面でも、紅蓮の鉄槌のサポート役であり続けることに思うところがあったのだろう。


スルトの意思はそれなりに固いようだった。


別に弟子を取るつもりはなかったが、安く使える下働きならば悪くはない。

そのくらいの人を雇う余裕は十分にあった。

そこからどうなるかは、本人次第だ。


ただ、ひとつだけ……

俺にもどうしても譲れない条件があった。


「とりあえず、その『人に頼らずに生きられる』という思い上がりは、今すぐに捨てることだな」


「でも、俺は……」


「『お客』に『従業員』に『仕入れ先』。商人ってのはな、人に頼りまくって生きてる奴のことをいうんだ。人に頼りたくないだなんて思っているやつは、まともな商人にはなれない。と、俺は思う」


「ッ‼︎」


「それがわかったなら、もう一回ノルンと話をしてこい」


「えっ……」


紅蓮の鉄槌の人間関係については、なんとなくクラリスから聞き及んでいた。


あの、ルードキマイラに襲われた日。

突き落とされた洞穴の奥で、スルトはノルンを庇って負傷した。

そして失血して気を失う直前、ノルンへ『エルフの御守り』を差し出したのだった。


ノルンが天賦スキル『マナ感応』の力に目覚めたのは、その直後のことだった。


そんな話なんかも……、一応は聞いていた。


「エルフの御守りの返事、結局まだ曖昧にされてるんだろ? 少なくともノルンの今の気持ちだけでも聞いてこい」


「それが、弟子入りの条件ですか?」


「……まぁな」


「でも、もし断られたら……」


「断られたら……さっさと別の目標を見つけることだな。気持ちの面でも、頼れるものは必要だろう。ただ、お前は商人になりたいんだろ? 商人というのは、欲しいものは交渉して手に入れるものだ」


「……」


そして……

『きちんと白魔術を学びたいから、今はそんな気にはなれない』

と言われ、スルトは見事に玉砕してかえってきた。


ただし『エルフの御守り』の返事はまだ保留(・・・・)だそうだ。


さらには、元パーティーメンバーとして定期的に会って近況報告をする約束を取り付けたスルトは、凄まじいまでの熱量で商売に打ち込み始めたのだった。


傷口をより深くして広げる結果にしてしまったかもしれないとヒヤヒヤしていたら……

この二人は、数年後にめでたく結ばれていた。



→→→→→



そして……

さらに数年の時を経て、『紅蓮の鉄槌』は形を変えて再結成されることとなる。


『冒険者クラン』


それは、数十人の志を共にする冒険者が集い、一部の物資や財産の共有をしながら共に生活を営む組織だ。

中には、冒険者だけでなく商人が加入しているようなクランもある。


そんな『ギルド』と『パーティー』の中間のような存在である『クラン』は、商人アルバスが作り出した『アルバスの借家』システムによって誕生した。


具体的には、商人アルバスがキルケット西部の門外地区に建造した物件の居住者たちが、いつの間にかそこの管理者をリーダーとした共同体を形成し、やがては物資の貸し借りや共同管理を行うようになり、そこから派生して生まれたのが『クラン』という組織だった。


ルッツとビビは一時セントバールへと拠点を移し、冒険者として名を上げた後、再びキルケットへと舞い戻った。

そして、紆余曲折の後にバージェスから物件の管理者たる権限を譲り受け、駆け出し冒険者を支援するクラン『紅蓮の鉄槌』を立ち上げたのだった。


『紅蓮の鉄槌』に所属する駆け出し冒険者たちは、リーダーたちの指導を受けながら次々に力をつけ、次々に名を上げていった。

そうして『紅蓮の鉄槌』は、やがてはキルケットでも有数の有力クランとなっていったのだった。


そんな大規模クラン『紅蓮の鉄槌』には。

どんな傷でもたちどころに治してしまう『最高の技術を持った白魔術師』と、大商人アルバスの一番弟子であり、アルバスのキルケットでの商売の半分を任されているという『銀等級の腕利き商人』がいたという。


その二人はリーダー夫妻の古くからの盟友であり、クランの裏方として末長く強力に『紅蓮の鉄槌』をサポートし続けたのだった。

『第8章 暗躍する翼編』はこれにて完結となります。


元々は『第7章 新たなる商売編』にバトル要素を付与するためのネタとして、7章のごくごく一部だったお話が……

まさか過去最大に話数が多く、こんなに長い話になるとは思ってもみませんでした。


きっと紅蓮の鉄槌関連のエピソードを加筆しまくったり、勇者の回想シーンを加筆しまくったり、予定を早めてアマランシアを再登場させたり、アルミラとのバトルシーンをめちゃくちゃに引き延ばしたりと、筆者がいろいろしてしまったからでしょうね(^^;

特に後悔はなく、途中若干だれたもののなんとかちゃんとまとめられたかなぁと思います。


さて次回は……

トレジャーハンター編とオークション編で登場した『旅の皇女リオラ』

北の村編でアルバスから海竜の素材を買っていった『大商人皇女シャルシャーナ』

トトイ遺跡の調査に訪れる『白魔術師ギルド所属の新キャラ皇女』

の三人の皇女がアルバスと絡む『ノスタルシアの三皇女編』を予定しています。


全く持って書き進められていないため、ちょっと時間が空くかもしれないし……

三章くらいに分けて一章目は15話くらいですぐに投稿できるかもしれません。


いつも通り、やってみないことには作者にもどうなるかはわかりませんwww

もしお時間がございましたら、またまたお付き合いいただけますと幸いです。


『書籍版』の方も、どうぞよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 勇者のその後とアルバスの関係が気になる。和解してほしいかな
[良い点] 伏線の回収が割ときれい [気になる点] 勢いだけで書いてましたよねw [一言] 次の章、のんびりとお待ちしています。
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