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50 クラリスの闘技大会③

「この闘技大会の審判員として、今の戦いの一部始終を見届けさせてもらいました」


そう言って一人の女がバージェスとクラリスに近づいてきた。

バージェスの弟子で、黒等級の冒険者であるケイトだ。


そしてそのケイトの後ろからは……


「久々にすげぇ戦いを見たな」


ルードキマイラに襲われて、一時意識不明の重体となっていたシュウが現れた。


あの騒動の後。

シュウはカリーナの補助を受けたノルンの『マナ感応』スキルの力により、意識を取り戻していた。

そして完全復帰前のシュウとその妻のケイトは、ギルド所属の冒険者として、今回の闘技大会の審判に駆り出されているのだった。


「でも、残念ながらクラリスは失格だ」


シュウが、本当に残念そうな顔でそう言った。


「ルール上、スキルの使用は禁止だからね……」


同じく残念そうな顔をして、シュウの隣でケイトが続けた。


「あはは……、やっぱりそうですよね」


完全に、全て承知の上だったクラリスが申し訳なさそうに笑った。


「でも……」


「でも、二人の勝負としてはクラリスちゃんの勝ちだね」


なにかを言いかけたクラリスを遮って、ケイトが続けた。


「クラリスちゃんのスキル使用は、バージェスさん自身が途中で認めてたからね。……そうでしょ? バージェスさん」


それは、クラリスが言いたかったことだ。


「まぁな。どうせそれを認めさせたあの流れも、全部がお前の戦術だったんだろ……クラリス?」


まんまとしてやられたバージェスは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「うん。何回かもろに食らった後、わざと見えるように鉄壁スキルで受けてみせたら……。あんたならあんな感じでオッケーするだろうって思ってた」


一発目の突きと二発目の蹴りは、本当にまともに受けた。

そしてその攻撃で悶絶するクラリスを見て、バージャスは一瞬心配そうな顔をしていたのだった。


クラリスはそれを見逃さなかったし……

そうなることまでを想定して、何発かははじめから受けるつもりでいたのだ。


本気で悶絶するクラリスを見た後であれば……

ダメージを軽減するための『鉄壁』スキルの使用を、バージェスが認めるだろうという確信があった。


「騙すような真似してごめん」


「いや。そこまで含めて……それがお前の戦い方なんだろう」


手数や言葉数によって巧みに虚を突いて、実力差のある相手にさえ必殺の一撃を叩きこむ。


それは、単純な戦闘力だけでは絶対にロロイやバージェスに勝てないクラリスが、戦いの中で必死に身に着けた勝つための戦術だった。

それは、クラリスが自分の長所を最大限に生かして最速で身に着けた、強敵と互角に渡り合うための力だ。


クラリスはその力をもってして、剣士二年目のいまだ『駆け出し』とも言われるような身でありながら、世界最強レベルの闘士であるアルミラにすらも強烈な一太刀を浴びせたのだ。


「最後のスキル……ありゃあなんだ?」


「アルバスも『知らないスキルだ』って言ってたから、ひょっとしたら私のオリジナルかもしれない。一応、『闘気剣』っていうスキル名を付けることにした」


「そうか」


「私はこの『闘気剣』で、ルードキマイラを倒したんだよ」


そんな巧みな戦術に加え、本当の意味での一撃必殺となりうる『闘気剣』という強力なスキルの習得。

そこまでくるともはや、無鉄砲でも、実力不足でもなかった。

クラリスはそれを成し遂げるだけの確かな実力をもって、ルードキマイラをはじめとする数々の強力なモンスターを討伐するに至ったのだった。


「当然。私の特級昇進は認めてくれるんだろう?」


「二言はない……」


そう言って、バージェスが天を仰いだ。


「俺の弟子たちは、いつの間にかみんなでかくなるんだな」


「だからさ、そろそろ『弟子』は嫌だって……」


そう言いかけて、クラリスが何かを思いついたように顔を上げた。



→→→→→



「そう言えば確か、私が勝ったらなんでも私の言うとおりにしてくれるんだっけ?」


「そんなこと言ったか?」


「ああ、言ってた。『なんでもお前の言うとおりにしてやる』って……」


「……」


確かに、売り言葉に買い言葉でそんなことを言ったような覚えはあった。


「で、俺に何をして欲しいんだ?」


「じゃあ、私と結婚してよ」


「……なっ⁉」


衆目の面前での突然の求婚に、バージェスは完全に言葉を失った。

その戦いの顛末を見守っていた他の参加者達も、思わぬ展開に一気にざわめき始める。


「あれ? 『二言はない』んじゃなかったのか?」


「いや……。あ、いや。この『いや』は『嫌』って意味じゃなくてだな……」


「じゃあ、オッケーってことでいいよな?」


「や、それは……」


「いつまでもあんたの返事を待ってたら、平気で五年でも十年でも過ぎていきそうだ。だから、ここで明確に断わらないんならもう、オッケーってことにするぞ! もしも本当に嫌なら、全力で私から逃げなよ。そん時ゃ、こっちも全力で追いかけるけどな!」


そう言って、クラリスは自分とバージェスの『印』を、バージェスへと差し出した。

そしてそれと同時に、バージェスの破壊された木大剣の代わりに自分の二本の木剣シズラシアを手渡した。


「じゃあ、そういうことで決まりな。あと、私はここで反則負けになっちゃったけど、バージェスはまだまだ戦い続けられるんだろ? どうせならこのまま優勝しちゃってくれよ。そうしたら、反則したとはいえ私は優勝者と渡り合った女剣士だ。あと、優勝者の妻にもなれる」


そう言って、バージェスに笑いかけ。

クラリスは踵を返して闘技大会の予選戦の範囲外に向かって歩いて行った。


去り際のクラリスは、胸がドキドキしすぎて思わず途中から走り出していた。



→→→→→



残されたバージェスはしばらく呆然とした後、ため息をつきながら周りを見渡した。


「はぁ……。誰か、今から俺とやろうってやつはいるか? ……いないなら、こっちから適当に相手を選ぶぜ」


そんなバージェスの前に、一人の大男が進み出る。


「友よ! 今ひとたびッ! 手合わせ願おうかっ!」


ポッポ村の漁師長ゴルゴ。

彼は、バージェスたちが半年前に滞在していたポッポ村にて、共に海竜ラプロスを打倒した戦友だった。


「めでたい日だ! 祝福するぜっ! 後で祝杯をあげよう!」


「ゴルゴ。お前も参加してたのか?」


「ああっ! もちろんだバージェス! こうしてもう一度戦える日を夢に見ていたっ!」


ゴルゴは武器を持っていなかった。

筋肉至上主義の徒手戦闘が、彼のスタイルだ。


「……じゃあ、やるか」


ゴルゴに応じて武器を置いたバージェスが、身体の前で拳を打ち合わせた。

そして、筋肉同士の熱いぶつかり合いが始まったのだった。



そのままゴルゴを打ち倒し、順当に予選を勝ち上がったバージェスは……


四日後の本戦でも快進撃を続け……


ついには、本当に優勝してしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり、結婚とかは意外に女性の方が押しが強い時が、ありますね。 おめでとうございます!
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