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48 クラリスの闘技大会①

その日。

クラリスはルッツ、ビビと共にキルケバール街道脇の平原に立っていた。

そこは、闘技大会の予選会場となっている場所だ。


破壊された街道の修復とともに、アルバスが下地を作り、予選会場として整備をした区画だった。


そして、その場所で。

まさにこれからキルケット闘技大会の予選が行われようとしていた。


クラリス達も参加しているその予選戦は、乱戦の中で参加者たちが自由に対戦相手を選ぶ形式だ。


具体的には、参加者達は予選戦の区画内に押し込められ、各自にひとつずつ配られた『印』を奪い合って戦う。

そしてそこで合計10個以上の『印』を集めたものだけが、4日後に闘技場で行われる本戦に進めるというシステムだった。


「少なくとも、ここで他の参加者を9人は倒さないと本戦には進めないってことね……」


「別に一対一の決まりもないし、開始の合図と共にめちゃくちゃな乱戦になるんだろうな。後ろからやられないように、なるべく固まっとこうぜ」


ビビとルッツがそう言って、それぞれに木製の武器を抜き放って身構えた。

つい今しがた「開始10分前」 とのアナウンスがあったところだった。


予選戦の戦闘ルールは……

『スキル、および魔術の使用は禁止』

『武器は木製のもののみ使用可能』

『防具の装着は禁止』

というものだ。


「みんな開始前の今から勝てそうな相手を見繕ってるみたいね。私らみたいな若いパーティーは、いいカモだと思われてるかも……」


ビビの言う通り、クラリスはさっきから周り参加者達からちらちらと見られているような気がしていた。


「でも、舐めてかかってくるならむしろ好都合じゃない?」


クラリスがそう応じると、ビビとルッツがニヤリと笑った。


「出たわね。特級冒険者(・・・・・)の余裕」


「クラリス……、まさか俺たちのこと狙ってないよな?」


「いや、それまだ正式に決まってない話だから……」


あの事件の後。

クラリスがルードキマイラやロードゴブリンをはじめとした数々の危険なモンスターを単身で討伐したことは、アルバスや紅蓮の鉄槌の面々によって冒険者ギルドへと伝えられていた。


そしてそれを受けた東部地区冒険者ギルドは今、クラリスに『特級冒険者』の称号を与えることを検討(・・)しはじめていたのだった。


背景として、ルードキマイラによる被害を受けて、ギルドに所属する黒等級〜銀等級の特級冒険者が激減してしまっているということがある。

つまり、ギルド側としては一人でも多くの実力のある冒険者を『ギルド所属の冒険者』として囲い込みたい意図があるのだ。


「でも、どうも反対してる奴がいるせいでなかなか決まらないみたいなんだよね。ダメならダメでさっさと結果教えてくれないと、色々とやる気が起きないんだけど……」


流れるように木剣を振り回しながら、クラリスがつまらなそうに言った。


「相変わらず、クラリスは意識高いね」


「ビビ、なんだよそれ?」


「私なんかもう、こうして生きてるだけで感謝しかないよ。あの時は、完全にもう死んだと思ったからさ……」


ルードキマイラによって瀕死の重傷を負わされたビビは、そのまま意識が遠のいていく中で、自分の死を覚悟した。

それを食い止めたのは、突如としてノルンに目覚めた『マナ感応』と呼ばれる特殊な天賦スキルの力だった。


リルコット治療院のカリーナによると、そのスキルは「他人のマナと肉体の繋がりに干渉する」ことができるスキルであるらしい。

その力でノルンは、ビビの肉体とマナを強固に結びつけ、傷ついた肉体の傷を無理矢理に修復したらしかった。


一歩間違えれば、ノルンとビビのマナが混ざり合ってしまったり、肉体とマナのバランスが崩壊したりして、二人とも廃人のような状態になっていたかもしれなかったらしい。


「ノルンには、本当に感謝しかないな、ビビ」


そう言って、ルッツが剣を握りしめた。



→→→→→



そこで……

闘技大会の予選開始の合図である鐘の音が鳴り響いた。


周りの冒険者たちが一斉に動き始める。

そして、あちこちで先手必勝をもくろんだ不意打ちの戦闘が展開され始めていた。


「結構いきなり始まるんだな」


クラリスの横から、突然、長槍で突きを繰り出してきた男がいた。

クラリスはそれを左手の短刀で受け、軌道をそらしながら相手の懐に飛び込んだ。

そして、右手の剣で思い切り相手の腹を打ち据えたのだった。


「うぐぅっ‼︎」


相手の男が、腹を抑えて悶絶する。

クラリスはその隙に、相手が首に提げている『印』をもぎ取った。


「すっげぇ。クラリスがもう、一個とった」


「私達も負けてらんないね」


その槍使いの仲間らしい男達が、怒りの形相のまま五人がかりで紅蓮の鉄槌を取り囲んできた。


「ガキィ。よくもやってくれたなぁ」


「さっそく一人脱落しちまったじゃねぇか」


「これはもう『痛い』どころじゃすまさな……」


そんな男たちがしゃべり終えるより前に、クラリスは姿勢を低くして彼らの懐に飛び込んだ。

そして、瞬く間に一人を打ち倒した。


「はぁっ?」


一撃で倒れこんだ男から武器を奪い、それを他の男に投げつけた。


「この野郎っ!」


「くっそ!」


そう言って左右から打ち込んできた二人の攻撃を、クラリスは両手に持った短刀と剣でそれぞれに受け流す。

そして、体勢を崩した左右の相手に両手のそれぞれの武器でカウンターを叩き込んだ。


一瞬にしてクラリスが三人を打ち倒し、ルッツとビビもそれぞれ一人ずつを倒していた。


「なんだあのパーティー。ただのガキどもじゃねぇな」


「よく見ろよ。真ん中の女……あれが例の『キマイラ喰い』だぜ」


「マジかよッ⁉ ギルドの特級冒険者を何人も食い殺した魔獣を、たった一人で二体もやった女剣士って……まさか、あんなガキだったのか⁉」


「だが、強いぞ。とんでもなく戦いが巧い」


「あぁ。ありゃあたぶん、俺たちじゃ束になっても勝てねぇぞ」


いつしか、紅蓮の鉄槌を中心に人垣ができていた。


「お前行けよ。さっきまで『ここで名を上げる』とかって息巻いてたじゃねーか」


「いや、普通に勝てないだろあれ。……お前が行けよ」


「いやいやお前が行けよ……」


「馬鹿野郎。勝てるかあんなもん」



「じゃあ、俺が行く」


「あ、どうぞどうぞ……」


そうして、一人のガタイのいい剣士がクラリスの前に進み出てきた。


「あんた……何のつもりだ?」


クラリスが、進み出てきた男にそう問いかけた。


その男は……


クラリスの剣の師であり。

憧れの対象であり。

今でも恋焦がれている相手。


そんな相手である……

バージェスだった。


「闘技大会で、剣を構えて真正面に立つ意味くらい……分かってるだろ?」


「だから……何のつもりで私とやろうとしてるわけ? って聞いてるんだよ」


「そうだな。ここでお前が俺に勝ったら……お前の特級冒険者への昇級に反対するのをやめてやるよ」


「……。そう、私の昇級に反対してる冒険者って、あんただったんだ……」


バージェスがうなづいた。


「俺と、ニコルだ」


ニコルについては、クラリスも予想の範疇だった。

彼女なら確実に『経験不足だ』と言うだろうと思っていた。


だが……


「なんで、あんたが……」


バージェスならば、クラリスの成長を……

成長した果てにクラリスが得ようとしている「特級冒険者」の称号を……

誰よりも喜んでくれると思っていた。


「なんでだよ?」


「実力も、経験も圧倒的に足りてねぇからだ」


「私は、ルードキマイラを討伐したんだぞ?」


「そんなのはたまたまだ。お前には、冒険者として一番大事なもんが欠けている」


「……なんだよそれ?」


「さぁな。自分で考えろ」


「ふざけんなよっ‼」


クラリスが剣を構えた。

バージェスと睨みあいになり、それを周りの冒険者たちがかたずをのんで見守っていた。


「私があんたに勝ったら、全部洗いざらい話せよな」


「ああ、なんでもお前の言うとおりにしてやるよ。ただし、お前が負けたら……」


そこで、バージェスは言葉を区切った。


「お前が負けたら……。お前はもう、冒険者をやめろ」


バージェスは、怖い目つきで真っ直ぐにクラリスを見据えながら、そんなことを言い出したのだった。

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