15 財産の共有
「行く先々の街で、妻のために最高級の宝石を買おう」
大商人っぽく、カッコつけてそんなことを言ってみた。
だが、現状それがただの強がりなのは、一瞬で見抜かれたようだ。
「私はそんなの、いりませんよ」
そう言って、アルカナがクスッと笑った。
それから、服を着たアルカナが。
少し潤んだ瞳で、俺を見つめながら言った。
「宝石の代わりに、時々でいいので。手紙をくださいね」
「分かった。そうするよ」
本当にそれでいいのか!?
旅に出ちゃっていいのか!?
と、今でも頭の中でもう1人の俺が叫んでいたが。
たしかにこの近辺で俺が、俺の商売を続けるのはそろそろ潮時のような気がしていた。
「俺は、また旅に出るよ」
「名残惜しいですが。アルバスさんはアルバスさんの夢を叶えてください」
その時。
突然部屋中が光に包まれた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
そして、徐々に光が小さくなり。
光が収束した部屋の隅に、50cm四方くらいの簡素な木の箱が出現した。
薬草の乾燥に使う木箱に、少し似ている。
「な…、なんですか。これ、、?」
アルカナはかなり驚いていたが。
俺は、それがなんであるかを瞬時に理解していた。
「どうやら、俺たちは。正式に結婚したとみなされたようだな」
俺の天賦スキル「倉庫」的に。
「どういうことですか?」
「財産の共有、だ。その箱は、俺の『倉庫』の一部と繋がってるはずだ」
俺の天賦スキル「倉庫」の中には。
メインとなる俺の空間の他に、「アルカナ・インベントリー」という、その箱と同じくらいのサイズの空間ができているようだった。
俺はアルカナにそれを説明するために、箱を開けようとしたが…
「かった…。あ、開かない。…なんで!?」
そしてアルカナが試したら、すぐ開いた。
「開きましたよ」
「……」
俺が弱いのは知ってたけど。
そこまで力がない…のか。
アルカナに簡単に開けられて。
俺は…。
「たぶん、私にしか開けられないんでしょうね。なんとなく、そんな気がします」
「っ!? ああ…。その通りだ、アルカナ。よく分かったな」
知らなかったけど。
とりあえず、知ってたふうにしてみた。
箱の中身は空っぽで。
中も外も。
どこからどうみても、普通の木箱だ。
アルカナが手を離して箱から離れると。
蓋がひとりでにしまった。
俺は「メイン・インベントリー」の中から、「アルカナ・インベントリー」へ、物を移動させた。
「倉庫移転」
なぜか知っていたスキル発動のその呪文を、小さく唱えると。
インベントリーの間を、アイテムが移動したようだった。
アルカナに箱を開けてもらうと。
その中にはウルフェスの毛皮で作った小さな靴下が入っていた。
「ギルドで暇してる時に作ってみたんだけど…。やっぱり俺には加工の才能はないな」
「まぁ…」
どう見ても不恰好なその靴下をアルカナは拾い上げてまじまじと見ていた。
そして、おもむろに。
スカートの中から下着を下ろし。
その木箱の中へ。
そして、何かを期待している目で俺を見てくる。
「倉庫移転」
その後、アルカナが木箱を開けると。
下着は消えていた。
「あらあら…」
そして俺のメイン・インベントリーには「アルカナの勝負パンツ」の項目が…
次に俺が「デロス」と唱えると。
手の中にホカホカの「アルカナの勝負パンツ」が現れた。
「あら…まぁ。お恥ずかしい」
そして「イロンパ」と唱えると、「アルカナの勝負パンツ」は再び俺のメイン・インベントリーに収納された。
「倉庫スキルって、不思議ですね」
俺は再び「倉庫移転」でパンツを出現させ、アルカナに返した。
「俺も、こんな機能があるなんて初めて知ったよ」
スキル鑑定士などからも、聞いたことがなかった。
その後。
色々な物で「倉庫移転」を試したがるアルカナに付き合って。結構遊んでしまった。
「でも…これで。いつでもアルバスさんに私の薬草をお届けできますね」
「それはありがたいな。だが『倉庫』スキルは生き物は入れられないから、生命エネルギーであるマナのやりとりもできないんだ」
つまり、薬草の代金は払えない。
いくら夫婦とはいえ、生活の糧になる物を一方的にもらってばかりというわけにはいかないだろう。
「わかりました。それじゃあその代わり、行く先々の街で私のために宝石を買ってくださいね」
そう言って悪戯っぽく笑うアルカナは、本当に可愛らしく見えた。
ついつい抱き寄せてキスをした。
そしてそのままアルカナの衣服を剥ぎ取って、何度目かわからないグラウンドファイティングに突入…
とか思ったら。
ちょうどその時。
一晩中帰らないアルカナを心配して探し回っていたプリンが、その部屋に飛び込んできた。
「お母さん! こんなところにいたの!? 帰ってこないから心配し……て……」
そして、抱き合う2人。
半脱ぎのアルカナを見て。
プリンは固まっていた。