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47 秘匿された真実

黒い翼による襲撃事件からひと月ほどが経過した。


あれだけの激しい戦闘があり、腐毒の瘴気に当てられた多数の負傷者を出したにも関わらず、結果的に近隣にいた冒険者や白い牙のエルフたちに死者はでなかった。


それは、アマランシアが魔術で毒素を中和する霧を出し続けていたことが大きいだろう。

アマランシア曰く「ジオリーヌ様が魔龍の瘴気を癒しの力で中和し続けた逸話は、街角で何度も唄っておりましたから」とのことだった。

知っていたからといって、真似できるようなことではないと思うけど……


ちなみに、腐毒の瘴気によって最も深刻なダメージを受けていたはずの俺の身体からは……

まるで、時間が巻き戻ったかのようにダメージが消えていたそうだ。

自分で斬りつけた左腕の傷すら、いつの間にか跡形もなく消えていた。

おそらくは、ロロイと俺の『願い』を受けたアーティファクトが、なんらかの力で俺の身体を治したのだと思われるが、詳細は全くもって不明だった。



そしてロロイは、しばらく寝たり食べたりを繰り返した後、いつの間にか完全復活していた。


俺の隣ですぐにいつも通り「トレジャーハントに行きたい」「おいしいものが食べたい」という主張をし始めた。

この場合の「トレジャーハント」は、完全に「遺跡探索」のことだ。


……本当に元気な奴だった。


俺も行きたい気持ちはやまやまだったのだが……

申し訳ないことに忙しすぎて全然時間が取れなかった。


商人ギルドからはロロイとアルミラが滅茶苦茶に破壊した街道の石畳の整備事業が降りてきていたし、冒険者ギルドからはシヴォン大森林の案内人(ガイド)として、魔獣の残党狩りへの協力要請がきていた。

で、それらに同時に対応していたら、忙しすぎて遺跡探索どころではなかったのだ。


当然、ロロイはむくれる。

そして……


「じゃあ、ミトラとアルバスがこそこそ夜にしているアレを、ロロイともするのです‼」


ある日、そんなことを言いながら俺の寝室に突撃してきたのだった。


ミトラが来ると言っていたはずの晩、何故か代わりにロロイがやってきた。

どうやらミトラともすでに話が付いているようだった。


俺の部屋にやってきたロロイは「ミトラやアルカナみたく、ロロイもアルバスと寝る(・・)のです」と言いながら、一直線に俺のベッドにもぐりこんできたのだった。


そして……

ベッドの中で俺の腕に絡みつき……


一瞬にして寝息を立て始めた。


「……」


「すぅ……すぅぅ……」


「……」


「むにゃむにゃ……むぅぅ……」


「……」


「ふぎゅぅぅ……」


「……おやすみ、ロロイ」


まぁ、これでいいな。

ロロイとは……


そんなロロイの寝顔を見ながら、俺はとてつもなく不思議な感覚に陥った。


こんなに無邪気でだらしない顔で寝ているロロイが……

アーティファクトの力を使い、その身体を魔龍化させて、

あの獣拳帝のアルミラを圧倒的な力で叩きのめしたのだ。


実際にそれを目の当たりにした人間以外、そんな話は到底信じられないだろう。


「本当に、お前は何者なんだ……ロロイ?」


始めから魔宝珠を使いこなし、俺も知らなかった合成属性の話などを知っているロロイは……

いったい誰からそれを習い、どこでどのようにして育ったのだろう。


そろそろ、ちゃんと聞いてみようかな。と、そんなことを思った。



→→→→→



ちなみに、無尽腐毒(オメガ・フラン)の向こう側に消えていた間のことについて、ロロイは一瞬の出来事過ぎてよくわからなかったそうだ。


また、ロロイが一時魔龍化していたことについては、世間的には秘匿することとした。

俺の妻(ロロイ)が、腐毒魔龍になって街を破壊していたかもしれないだなんて……

そんな話が広まって、俺が得をすることはないだろう。


かくして、キルケバール街道におけるあの一連の戦いの真実は秘匿されることとなり、俺がジルベルトに依頼した通りの内容で市中に広まっていた。


つまりは……


『シヴォン大森林にて、黒い翼の幹部アルミラが配下の大魔獣部隊によるキルケット攻めを計画していた』

『その計画を、商人アルバスが以前から密かに親交のあった西の森のエルフ達と共に打ち破った』


と、こんな感じだ。


広範囲にわたって展開され続けていたアマランシアの煙霧魔術により、あの戦闘の状況を正しく把握できていた目撃者は皆無だった。

アマランシアは、そこまで見通して最後まで霧を出し続けていたのだろう。


だからこそその話は、俺が倉庫に収納していたルードキマイラを始めとする『西大陸には存在しない幾多の上級魔獣の亡骸』や『武装した礼儀正しいエルフ達』の存在によって、キルケットでは真実の出来事として受け入れられたのだった


そして、黒い翼がそれほどの戦力を有しており、場合によってはその魔獣達が生きたままキルケットに攻め込んでくる未来があり得たという話は、キルケットの住民達に激しい衝撃を与えたのだった。


ゆえにキルケットの市中でもこれまで以上に都市防衛に対する意識が高まり、『防衛体制のさらなる強化』が声高に叫ばれ始めていた。


そんな状況下において……


貴族達がオークション時の警護戦力強化のために計画していた『キルケット闘技大会』の開催が数日後に迫っていたのだった。

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