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41 無尽の力

「まぁ、この流れじゃあ間違いなくそうなるよな……」


俺は、『水魔龍の含魔石(がんませき)』を回収したアルミラを見据えながらそう応じた。

どうせそんな事だろうとは思っていた。

たとえ俺が、商人として約束した取引を守ったとしても、結局その相手は盗賊団なのだ。

ならず者相手にまともな取引を期待する方がどうかしている。


……そもそも、元々からして武力で脅されてるわけだしな。


「分かっているなら話が早いですわ。これだけコケにされて、生かして帰すわけがないじゃないですの」


それに、アルミラの正体に関する情報を、俺が知ってしまったことも大きいだろう。

『獣拳帝のアルミラ』『百獣王ビストガルドの四天王』『勇者パーティーのアルミラ』

そんな風にすでにかなり名が知れているアルミラが、盗賊団『黒い翼』の一員であったという話を広められるのは、奴らにとっていろいろと都合が悪いはずだった。


だから姿を見せた時点で、その正体に関する情報を隠蔽するために俺を殺そうとするというのは予測ができたことだった。


アルミラと直接の面識のない俺以外のメンバーならば、もしかしたら噂話程度の効果しかないかもしれない。

だが、元々アルミラと同じ勇者パーティーに所属しており、今や銀等級のギルド商人となっている俺の信用(言葉)は重い。


俺が『アルミラは盗賊団の一員だった』と言えば、おそらくそれは真実の出来事としてキルケットに広まるだろう。


アルミラは、それを止めたいのだ。


「行動が予想通り過ぎて、怖いな」


「とうに覚悟はできていたという事ですわね。じゃあ、さっさと殺されてくださるかしら?」


そう言って構えたアルミラからの威圧が全身を貫いた。

やはり、本気で俺を殺しに来るつもりだ。


アルミラがああもペラペラと自分のことや追放についての真相を俺に話したのは、はじめからここで俺を殺すつもりだったからに他ならない。


「悪いが。こっちだっておとなしく殺されてやるつもりはない」


そう言って、俺は右手を高く掲げた。


アルミラは数メートル先に余裕の態度で立っている。


今更俺たちが何をしても無駄。

すべて圧倒的な武力で叩き潰す。


そんな、絶対的強者の余裕を感じる態度だった。


五秒後にも同じ顔をしていられるか……見ものだ。

隣にいるロロイと目が合った。


「ありがとなロロイ。俺の最後の賭けに付き合ってくれて……」


失敗すれば、俺とロロイはアルミラに殺される。

皆の帰還を俺に知らせに戻る役というのは、つまりは俺と心中する可能性がある役だという事だ。


「良いのです。さっさとこいつをぶっ飛ばすのです‼︎」


ロロイには、そんなつもりは毛頭ないみたいだけど……


「ああ、やろう。……倉庫取出デロス


俺がその呪文を唱えると、俺の右手に青い光が集中しはじめた。

パチパチと何かが弾ける音がし、一瞬の後に、それ(・・)がこの世界に顕現する。


収束した魔法力は瞬時に透明な水流と化し、すぐにそれは巨大な水球となった。


無尽水源オメガ・スイ


解き放たれたその無尽の魔法力は、同時にロロイが取り出した魔宝珠を通してロロイへと流れ込み、その全身に絡みつき、包み込んでいく。


「なっ……に?」


アルミラが、それが何かを認識するよりも早く、ロロイがその拳を地面へと叩きつけた。

その拳から瞬時に氷塊が広がり、一瞬にしてアルミラの足元までを凍り尽くした。


「くっ……」


足元を凍結され身動きを封じられたアルミラが、焦りの表情を浮かべる。


「さっきの、お返しなのですよっ‼」


半身を引いた構えから繰り出されたロロイの遠隔打撃が、身動きの取れないアルミラを捕らえた。


顔面を激しく打ち据えられたアルミラは、凍りついた足を支点にして大きくのけぞり、頭から後ろの氷塊の中へと突っ込んだ。

そこへ、ロロイのさらなる追撃が入る。


「うっりゃああぁぁぁーッ‼」


「こっ……のぉっ‼」


反撃に転じようとしたアルミラが身を起こし、ロロイの遠隔攻撃に合わせて拳を突き出した。

アルミラの闘気を纏った拳が、ロロイの遠隔攻撃を相殺する。

激しくぶつかり合った闘気と魔法力が、衝撃となって弾け飛んだ。


そして、アルミラは足元の氷を殴りつけて打ち砕き、早くもロロイの氷の呪縛から逃れたのだった。


「わっ! もう逃げられたのです‼」


アルミラは、自由になった足で瞬時にロロイとの間合いを詰めに動く。

それに対してロロイは、俺を風魔術で弾き飛ばしたうえで、自身は斜め後方に跳んでアルミラから距離をとった。


近接格闘の能力値が化け物じみている相手(アルミラ)と戦うにあたり、無尽水源(オメガ・スイ)の甚大な魔法力を生かしきるためには、やはり距離をとって戦う必要があるだろう。


完全に接近されてしまえば、先ほどの洞窟内のように一撃で意識を刈り取られてしまう可能性があった。


ロロイはアルミラを俺からうまく引き離しながら距離を取り、遠隔攻撃と魔術による連続攻撃を繰り出している。


「うりゃぁぁあああぁぁぁーーーッ‼」


「ぎしゃぁぁあああぁッ‼」


激しい打ち合いと衝撃。

魔法力と闘気がぶつかりあい、そこら中で激しくスパークしている。


無尽水源(オメガ・スイ)から魔法力を引き出しながら戦えるという事は、つまりは魔龍並みの魔法力を有しているということだ。

いくらアルミラが強力とはいえ、そう簡単に対抗できるはずもないだろう。


ロロイは器用に俺のいる地点を避けて戦いながらアルミラを圧倒している。

ルージュの方は姿が見えないが、ロロイの最初の一撃で氷に飲まれるのが見えていた。



→→→→→



「アルバス‼」


不意に後ろから声を掛けられ、振り返るとバージェスとカルロがいた。


「二人とも……」


「案の定戦闘になってるじゃねぇか‼」


「まぁ、想定の範囲内だ」


だからこそ、少しでもアルミラに対抗できる可能性のあるロロイを指名した。


「バージェスはともかく、カルロまで戻ってくるとはな」


「このままアルバス殿を置いて逃げ帰り、どの面下げてミトラ様やジルベルト様に会えというのですか?」


腕からの流血でふらついている俺に肩を貸しながら、カルロが答えた。


バージェスは、空中に浮遊している巨大な水球と、そこからの水流(魔法力)を使いながら戦うロロイを見つめていた。


「これが、ロロイちゃんが言っていた『奥の手』か」


ロロイは『アルミラに対抗する奥の手がある』と言って、一緒に戻るといったバージェスたちを押しとどめたらしかった。

やはり、ロロイは俺の意図を理解してくれていたようだ。


非戦闘員を排除し、無尽水源(オメガ・スイ)を使って全力で戦う。

それが、俺の最後の賭けだった。


無尽水源(オメガ・スイ)、ですか……。トトイ神殿跡地の上空にあるはずのアーティファクトが、なぜここに?」


「俺の倉庫に入れてあった。トトイ神殿にある無尽水源(オメガ・スイ)は影で、こっちの無尽水源(オメガ・スイ)が本体らしい。……とはいえ、俺にも原理はさっぱりわからん」


「とにかく、キルケットまで下がりましょう。そこまで行けばさすがに追ってはこないでしょう」


「紅蓮の鉄槌の連中が『アルバスが東門の外で黒い翼の幹部アルミラと戦闘中だ』と触れ回ってる。すぐにでも自警団が集まるだろう」


自警団が何人集まったところで、アルミラの戦闘力に対しては何の意味もなさないだろう。

とはいえ、目撃者が増えるほどにアルミラの『正体を隠す』という方の目的は果たせなくなるはずだった。


紅蓮の鉄槌のメンバー達がいくら触れ回ったところで、それだけでは噂話の域を出ない。

元勇者パーティーである俺自らが『アルミラは黒い翼の一員だ』と触れ回らない限りはしょせん噂話止まりだろう。


だが、自警団などが複数人でアルミラの姿を目撃すれば、その噂話は限りなく信憑性を増すはずだった。


「わかった。戦闘はロロイに任せて、いったんキルケットまで引こう」


すでに目的のものが手に入った以上、奴らもキルケット自警団と全面戦争をして全員の口を封じるだなんてことはさすがにやらないだろう。



→→→→→


ロロイとアルミラの戦闘は、徐々にその情勢が変わりつつあった。


「しゃあぁっ‼」


鋭い呼吸とともに、アルミラが一気にロロイとの間合いを詰める。

次々と地面から立ち上る氷柱をすべて左右へのステップでかわし、ロロイへと肉薄する勢いで迫っていた。


アルミラが、早くもロロイの戦術に対応してきているのだ。

対するロロイは、氷雪魔術ではなく水球による砲撃を度々放つようになっていた。


おそらく、ロロイ自身の中の風の魔法力が尽き始めているのだ。


氷雪属性の魔術は、水属性と風属性の合成魔術だ。

ゆえに氷雪属性の魔術を扱うためには、当然、水の魔法力と共に風の魔法力が必要になる。


無尽水源(オメガスイ)から無尽蔵に引き出せる水の魔法力とは違い、風の魔法力の方はロロイの体内で生成されたものを使用しているはずだから、そちらにはやはり限りがあった。


「うりゃぁぁーーーッ‼︎」


ロロイの気合いの声と共に地面から立ち登った水柱が、アルミラの身体を上空へと弾き飛ばした。

弾き飛ばされたアルミラに向け、ロロイの周囲に発生した水球が水弾となって次々に放たれる。


「ぎしゃぁっ!」


その無数の水弾の全てを、アルミラは空中で叩き壊して相殺していた。


「……」


アルミラの凄まじいまでの化け物っぷりは理解していたつもりだったが……


「ロロイ程の戦闘技術があって、魔龍並みの魔法力を扱えてもこれか……」


そもそもが、その魔龍を素手で殴り飛ばすようなやつが相手なのだ。

やはり、単純な魔法力の総量だけでどうにかなるような相手ではない。


アルミラは再び着地し、距離をとってロロイと睨み合いになった。


その姿からは、まだまだ余裕すらも感じられたのだった。

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