14 結論
諸君が、色々と俺に言いたいことがあるのは良くわかる。
だが。
とりあえず。
結論から言おう。
……最高だった。
過去最高の夜だった。
山奥の薬草露天風呂で見た、満天の星空とか。
マジでどうでもいいって感じで霞んでいったくらいに最高だった。
色々な感情が渦巻きすぎてて。
もうそれしか言えないので、それで済ます。
ライアンめ…。
こんないいことを、毎晩毎晩やってやがったのかっ!?
何が「夜も勇者様(ある妻の談)」だ!
今更ながらに。
かつてのパーティメンバーに対する熱い怒り、がふつふつと湧いてきた。
だが、今はもうどうでもいい。
なにせ俺は今、過去一で幸せだから。
たぶん俺、めちゃくちゃだらしのない顔をしてるんだろうな。
「ん…」
朝日に照らされた一室で。
一糸纏わぬ姿のアルカナが、ゆっくりと目を覚ました。
「あら…アルバスさん。おはようございます」
「ああ…おはよう」
ちょっと、いやかなり、気恥ずかしい感じ。
「昨日は凄かったですね」
「そ、そそ…そうか? いつも通り…だった。ぜ…」
アルカナがクスッと笑った。
たぶん。
俺が30過ぎてビギナーだってことは、昨日散々あいまみえたから。いや、もしかしたらそのずっと前から分かってたのだろう。
その上で、俺の強がりに対して何も言わずにキスをしてくるあたり。
俺のちっぽけなプライドを、なんとなく立ててくれているのだ。
そのまま他のモノも立てられて。
もはや何回戦目か覚えていない、グラウンドファイティングの再戦に突入した。
→→→→→
薬草農家の主人になろう。
宿屋の主人でもいい。
大商人にはなれなくても。
そうやって、小さな村の片隅で。
小さな幸せを守って生きていこう。
俺は、そう、覚悟を決めた。
だが、次の瞬間。
それは脆くも崩れ去る。
「分かっています。あなたはもうすぐにここを旅立たれるお方。そして大商人となって、世界中に名を轟かせるお方です」
アルカナが、そんなことを言い出した。
「私のことは…、どうか気にせず旅立ってください。私はここで、今まで通り薬草農家の主人として、薬草の栽培を続けます」
「いや…、俺は…」
ここでずっと暮らすのもありかなー。
なんて、たった今、揺れ動く心が完全にそっち側に傾いてたところだったんだけど。
「例えあなたが2度と戻らなくても。私にはその覚悟があります。だからこそ、あなたは私を受け入れてくださったのでしょう?」
「えっ…」
ごめんなさい。
ただ単に、我慢しきれなかっただけです。
「プリンは…。あの子には、そこまでの覚悟はありません。口では何と言っていても、それがどういうことなのか、きちんとわかっていないのです。そのことを見抜いていたからこそ、アルバスさんは、あの子を止めてくださったのでしょう?」
「いや…」
本当にごめんなさい。
その時はたまたま。
たまたまギリギリ我慢できただけなんです。
「あなたは本当にお優しいお方です。例えプリンに恨まれることになろうとも、あの子のことを思ってそんなことを…、うぅ…」
「あ、ああ…」
なんか、結果オーライっぽいけど。
本当にそれでいいのか、俺。
「私には、きちんとその覚悟ができています。どうか、あなたはあなたの夢を叶えるために。私たちのことは気にせず、ここを旅立ってください」
「お前の覚悟はよく分かっていたよ。アルカナ」
俺の口から出たのは、格好をつけたそんな言葉。
「俺は俺の夢を叶えるため。そうさせてもらう」
マジか、俺。
本当にいいのか、俺。
もしここで、うまくアルカナを説得すれば。
これから毎日毎晩。
ここでアルカナとキャッキャウフフする生活が、待っているかもしれなかったのに…
「大商人に、俺はなる!」
勢いに任せて、どこかで聞いたセリフのパロディみたいなのを、カッコよく叫んでみた。
アルカナが「素敵ですっ! いよっ! 大商人アルバス様!」とか合いの手を入れてきて、それはそれでかなり楽しかった。
でももう。
なんか完全に後には引けない感じになってしまったな。
ああ…
マジで名残惜しい。




