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37 闘気剣

「石一つで九人の命が買えると思えば、まぁ安い買い物だな。取引内容としては十分だ」


俺は、ため息をつきながらそう応じた。


「懸命な判断ですわね。では、今すぐに『水魔龍の含魔石』を出しなさい」


「でも……それを渡した後、お前達が本当に俺達を見逃すという保証はあるのか?」


「そうね。確かにそんなものは『ない』ですわね」


アルミラが、少しニヤつきながらそう言った。


「じゃあ、まずは俺たちを地上にあがらせろ。その後、上の仲間と合流して負傷者の運搬を含め撤退の段取りをつける。含魔石の受け渡しはそれら全てが済んだ後だ」


ここで仲間の命を盾に取る以上、上の三人は無事だと考えるのが妥当だろう。

だが、絶対はない。

これは、その確認を取るという意味合いもあった。


「勘違いしないでくださる? 命令しているのはわたくし達。あなたは素直に命乞いをしながら全ての権利をわたくし達に委ねるしかないのですわ」


「……」


アルミラの言う通りだった。

正直言って、立場はこちらの方が圧倒的に不利だ。

なにせ、ロロイとバージェス……つまりは主力二人が既に戦闘不能なのだ。


俺が『水魔龍の含魔石』を受け渡す姿勢を見せている以上、すぐには仲間達に手を出すことはしないだろう。

だが、こちらが引き延ばしにかかり、時間の経過と共に相手が苛立ってくれば、おそらくは……


だからもう、基本的には相手の要求に従わざるを得ない状況だった。


頼みの綱は、相手が『水魔龍ウラムスの含魔石』を欲しがっているという一点のみ。


俺が自発的にその石を取り出さない限り、奴らにはそれを手に入れる術がない。

だから、俺が『倉庫』から『水魔龍ウラムスの含魔石』取り出すまでは、奴らは俺を殺してしまうわけにはいかないはずだった。


だが、アルミラ自身が言うように受け渡し後のこちらの身の安全は相手の気まぐれ次第だ。

これは、かなり厳しい交渉になりそうだった。



→→→→→



ジャリ……と、背後から地を踏み締める音がした。


「さっきから聞いてりゃ……、好き勝手なことばっか言ってんじゃねぇっ‼︎」


そして次の瞬間、俺の背後からクラリスが飛び出した。


「あら、一人目の亡骸が決まりましたわね」


「ま、待てッ‼︎」


クラリスとアルミラ、両方に向けて放った俺の声はどちらにも届かなかった。


すでに『俊足』と『鉄壁』の二つのスキルを発動しているクラリスは、そのまま凄まじい速度でアルミラに突っ込んで行く。


「うらぁっ‼︎」


余裕で構えるアルミラに向けて、クラリスが短剣を投げつけた。

その短剣はアルミラに直撃したが、強力な鉄壁スキルに覆われたアルミラの身体には傷一つつけることができなかった。


魔障壁(プロテクション)ッ‼︎」


クラリスは前方の足元に魔障壁(プロテクション)を展開し、それを階段状の足場にして洞窟の天井近くまで駆け上がっていった。


「あら?」


そして、アルミラの直上付近にまで至り、身体を反転させて頭上からアルミラに襲いかかったのだった。

だが、その全体重を乗せたクラリスの一撃は……

アルミラの片手でいとも簡単に受け止められてしまった。


そこにはやはり圧倒的な戦力差があった。

強力な鉄壁スキルを纏ったアルミラの身体は、クラリスの鋼鉄の剣の一撃さえも素手で受け止めたのだ。


そのまま放たれたアルミラの拳を、空中に足場を作ったクラリスがギリギリでかわす。

そして、身体をひねりながらカウンター気味に放ったクラリスの剣が、アルミラの首筋に迫った。


「そんななまくらで、わたくしが斬れるとでも……ッ⁉︎」


クラリスの斬撃を、そのまま身体で受けようとしていたアルミラが、突然顔色を変えて間に腕を差し入れた。

その腕に、クラリスの剣がガツンと当たる。


「……」


首筋と剣の間に差し込まれたアルミラの腕からは、真っ赤な血飛沫が舞い散っていた。


「くそッ‼︎ ()り損ねたッ‼」


アルミラの腕に食い込むクラリスの剣は、クラリスの全身を覆う鉄壁スキルの闘気と同じ闘気で覆われていた。


本来はその身に纏って身体を鋼鉄のように強化する『鉄壁』スキルを……

クラリスは今、剣に纏わせていた。


剣を闘気で強化することで、元々が鋼鉄である剣を鋼鉄以上の強度へと強化しているのだ。


それは、闘気を纏った剣。

言うなれば『闘気剣』だ。


「あれが、ルードキマイラの鋼鉄の皮膚を貫いた技か……」


それは、スキル名鑑でも見た覚えのないスキルだった。

あんな技の使い手がいれば、その技と人物の噂は瞬く間に広まるだろう。

だから、おそらくこれはクラリスのオリジナルスキルだ。


「面白いスキルですわね。性能的には結界侵食にも似ているけれど……。たぶん、もっと単純で、もっと危険なものですわね」


感心したようにそう呟いたアルミラに向け、クラリスが再び斬撃を放った。


「うらぁぁっ!」


だが、当たらない。


当たりさえすればアルミラの身体にさえも傷を付けることができる闘気剣であっても、当てることができなければ意味がなかった。


だからこそクラリスは、投擲と一撃目ではあえてそのスキルを使わずにいたのだ。

自分の攻撃が通じないということをアルミラの頭に植え付けた上で、接近を許したアルミラに向けた必殺の一撃を放った。


それは、本気でアルミラに挑んだクラリスの、アルミラを殺すための戦術だった。


「もし、さっきのをあのまま受けていたら……ヤバかったですわね」


だが、直前でその剣の危険性に気付いたアルミラが、クラリスの一撃を腕で受け止めたのだ。

もし、あのままクラリスの剣がアルミラの首筋に当たっていれば、それで勝負はついていたかもしれない。


「血を流すのは、二年前にライアン達とやって以来ですわね。首筋がゾクリとするこの感じ……だから、殺し合いはやめられない」


アルミラから凄まじい殺気が解き放たれ、クラリスの身体が無意識のレベルで強張った。

そんなクラリスの手を、アルミラが蹴りつけた。


「あっ……ぐっ」


クラリスの手から、水鏡剣シズラシアが弾け飛ぶ。


魔障壁(プロテクション)


「甘々ですわね」


二重に展開したクラリスの魔障壁(プロテクション)を易々と貫き、アルミラ蹴りがクラリスの身体を玩具のように弾き飛ばした。


そして、壁に激突してずり落ち始めたクラリスの首を、アルミラの手ががっしりと掴んだ。


「あ……」


「後十年もすれば、ひょっとしたらライアン程(・・・・・)にまでは上り詰められたかもしれないけれど……とても残念ですわ」


そして、そのまま壁に押し付けてギリギリと締め付け始めた。


もう、アルミラは油断していない。

こうなれば、クラリスには万に一つの勝ち目もないだろう。

やはり、どうあってもアルミラの方が格上だ。


「待て、アルミラ。クラリスを殺したら、俺は絶対に石を渡さないぞ」


俺の護衛隊の、主力三人(・・)がやられてしまった。


やはり戦ったって勝ち目がないのだから……

後は俺が交渉で何とかするしかないだろう。

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