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33 記憶の行方

投稿直後、サブタイトル変更

「ケイトの記憶」→「記憶の行方」

ロロイの魔宝珠の明かりに照らされた獣道を、北に向かって走っている。

そんな折、黒魔術師のケイトが話しかけてきた。


「ロロイさん、アルバスさん、先ほどはありがとうございました」


この礼は、先ほどルージュの人質となっていたケイトを解放したことについてだろう。


「ロロイはすぐに突撃しようとしてたから。あれは、アルバスの作戦が良かったのです」


「んー。どちらかというと、あれはバージェスの方の作戦勝ちだな」


「では、流石はバージェスさんと皆様です」


「だな」


バージェスは、ニコルを通じて作った後続部隊の存在を、あえてルージュには伏せていたらしい。

もしかしたら初めから、この一連の騒動に対してなんらかの疑念を抱いていたのかもしれない。


「たぶん、初めからルージュを警戒していたんだと思います。だからバージェスさんは、あえて自分では動かず、私に殴り書きのメモを渡してニコルさんへ例の伝言を伝えたんです」


となると、このケイトはバージェスからの信頼が相当に厚いのだろう。

ケイトは、かつてバージェスとパーティーを組んでいたらしい。

現在のクラリスと同じように、剣や魔術の指導を受けていたのだろう。


ケイトは、『キューピッド・バージェス』の噂に恥じぬ、可愛らしい雰囲気の美少女だった。

だが、こんなところにまでついてくるあたりは相当な気の強さだ。

そして、胸に黒く光る『黒等級』の認識票から察するに、実力もそれに伴ったものなのだろう。


「それでアルバスさん。もしよければ、先ほど言っていた『忘却の魔眼』と『パーティーブレイカー』ついて教えてくれませんか?」


それについては、別段俺も詳しいわけじゃなかった。

どちらも聞き齧った程度の知識だ。


「もしミリリがそれ(・・)なら、起きた後で本人に聞くのが一番手っ取り早いぞ」


まぁ、ミリリに聞いてもすぐに本当のことを教えてくれるとは思えないが……

自警団に引き渡されて地下牢獄にでも入れば、そのうちに気が変わるかもしれない。


ライアン達のその後のことなどで、俺もミリリには聞きたいことが山ほどあった。


「知っていることだけでいいので、お願いします。どうしても、今聞きたいんです」


そう言ってすがってくるケイトの様子にただならぬものを感じた。


「わかった」


俺はそう言って、とりあえずは知っていることを話すことにした。


「俺が『忘却の魔眼』について知っていることは『視線を合わせた相手に暗示をかけ、一部の記憶を消し去るスキルだ』ということくらいだ」


ただ、もしミリリがそのスキルを持っていた場合。

バージェス達がミリリのことを忘れていないことから考えて、ミリリはその発動をコントロールできていると考えられる。


そうでなければ今頃、吟遊詩人の詩にあるように『制御できずに知り合い全員から忘れ去られる』というようなことになっているはずだ。

ミリリがスキルを使いこなしているのなら、記憶消去の強度などももしかしたらある程度までコントロールすることができるのかもしれない。


俺は念のため、その辺りの俺の予想までをケイトに伝えた。


「『パーティーブレイカー』についても。俺が聞いているのは『他人のパーティーに潜り込んで内部から崩壊させるという手口を使う女盗賊』ということと『入りこまれたパーティーのメンバーはその女のことを全く覚えていない』ということくらいだ」


実際、今のところはミリリがそのパーティーブレイカーだという確証はどこにもなかった。


「じゃあ、もし私がそのパーティーブレイカーに嵌められていたとしても。私はその時の記憶を消されているから何も覚えていないということになりますよね?」


「そうだな」


だんだんと、ケイトの言いたいことがわかってきた。

つまりは、なにかしらの被害を受けたかもしれない覚えがある(・・・・・)ということだろう。


つまりケイトは、ケイト自身がパーティーブレイカーの手口に引っかかっていた可能性を考えているようだった。


「もし私の記憶が消されていたとして。今後それを確認する方法はあるんですか?」


ケイトによると、もはや全く覚えて(・・・・・)いない何事か(・・・・・・)が原因で、最近夫と大げんかをしたらしい。


「それにここ最近、妙な記憶の欠落が幾つもあるんです。なんとなく感情的な記憶だけが残っていて、物凄く悲しかったような感じや、物凄く怒っていたような感じがかすかに残っているような気がするんです」


最終的に、夫のシュウと共にルードキマイラに襲われたことから考えても、ケイトがパーティーブレイカーの手口に嵌っていた可能性は高そうだった。


「俺もその辺りについて詳しいわけじゃないが……、消された記憶が戻るというような話は聞いたことがない。その記憶は、頭の中の思い出すことができない領域に移されてしまうらしい」


その辺りのことは、やはりミリリに直接聞くのが早いのだろう。


当然、ケイトが聞かずとも自警団による取り調べが進めば、被害者などは明らかにされるだろう。

そうなれば、ケイトとシュウの名前が上がり、その時の手口や様子が明らかにされる可用性は高そうだった。


俺がそう言うと、ケイトは再び礼を言って下がっていった。



→→→→→



そのまま獣道を通り北へ向かって真っ直ぐ10分ほど走り続けていると、その洞穴は簡単に見つかった。

その洞窟の入り口は、ポッカリと垂直に口を開けた大穴だった。

いきなりだったせいで、先行するバージェスが勢い余って落ちかけていた。


「どわぁぁっ‼︎ あぶねぇっ!」


「気をつけてください‼︎ バージェスさん‼︎」


その入り口は、明らかに何者かの手が加えられており、一度降りたら道具がなくては登攀不可能なほどの断崖となっていた。


「下にゴブリンの死骸が見えるな」


ロロイの魔宝珠の明かりに照らし出され、10〜15体程度のゴブリンの亡骸が見えた。


「ここに落ちたらもう、道具なしじゃ登ってこれねぇだろうな」


ここでカリーナに『広域生命探知』を使って生命の気配を探ってもらったところ、やはりクラリスはこの洞穴の先の方にいるようだった。


「見つけました‼︎ あちらの方向に、真っ直ぐに700〜900mほどの地点です」


そう言ったカリーナは斜め下を指差していた。

指が指し示す方向的には、間違いなく地下。

ダコラスの言葉通り洞穴内にいる可能性が極めて高いようだった。


「俺が行く。あと、できればアルバスにはついてきてもらいたい」


バージェスが探索隊をかって出て、俺とロロイとカリーナが同行することになった。


洞穴内部の地形が複雑だった場合、俺の地形読みの力が必要になるだろう。

それと同時に、負傷者がいた場合にはその治療に白魔術師カリーナの力が必要となる。

ロロイはもちろん俺とカリーナの護衛だ。


ただ、黒い翼の暗躍がわかっている以上、地上の防衛部隊も一定の戦力を整えておく必要がある。

今から下降用のロープを下ろす予定だが、もし敵にそこを押さえられてしまった場合、クラリス達と一緒にこの大穴に閉じ込められてしまうことになる。


地上部分でのミリリの見張り、および入り口の防衛は、カルロ、ドードリアン、ケイトの三人に担当してもらうことになった。


「すぐに降りる準備をするから、少し待っていてくれ」


俺は早速『倉庫』から鉄杭とロープを取り出して降下の準備に入った。

近くの大木に鉄杭を打ち込み、ロープを固定して降下準備を終えるまで、約数分。


「よしできた。早速降りるぞ」


「どれだけ準備がいいんですか。まさか、ここまでのこと全部が想定内だったってことですか⁉︎」


ケイトが驚いたように言った。

カルロとドードリアンも、同様の反応をしている。


「ロープも鉄杭も、元々はこの後のトトイ神殿探索用の準備だ。今回はたまたま役に立った」


まぁ、そもそもはアース遺跡群攻略の時に用意した資材がそのまま残っていただけなんだけどな。

『倉庫』の容量が大きいため、むしろそういった物資はずっと入れっぱなしになっている。


バージェスは、俺の準備完了の合図で早速ロープを伝って降り始めている。

次にカリーナを下ろし、ロロイと俺が続いた。


ミリリの件など、まだまだ気がかりな事はたくさんあった。

だが、まずはクラリス達を見つけ出し、その他の生存者と共に保護する。


全てはそれからだ。

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