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29 探索開始

俺は、薄暗くなった街道をひたすら走り続けていた。

日没と共に徐々に視界が悪くなっていき、すでに足元の凹凸はかなり見えずらくなっている。


「アルバス‼」


横を走るロロイが大声を上げた。


「なんだ、ロロイ?」


「クラリスのキズナ石はまだ大丈夫なのですか?」


「それ、もう50回は聞いてるぞ」


ちなみに49回目を聞かれてからはまだ1分も経ってない。


「でも、アルバスはもっと何度も何度も石を見返してるのですよ。自分だけずるいのです」


ロロイにそう言われて、俺は再び手のひらの中のキズナ石を見やった。


「……大丈夫だ」


「りょーかいなのです。アルバス、もっと早く走るのです」


「無茶、言うなよ」


キルケットの市街地を全速力で駆け抜け、一瞬だけ東部地区の冒険者ギルドに寄った。

その後、またひたすらに走っている。

そして今はキルケバール旧街道を走っているところだ。

なんだかんだでもう1時間以上は走りっぱなしだった。


ちなみにだいぶ前にダウンしたカリーナは、さっきからカルロに背負われている。

その状態でも余裕で俺の全速力と同じ速度で走り続けるカルロは、さすがはジルベルト(大貴族)の護衛を務めていただけのことはある。

老齢とはいえ、どんな局面に対応できるようにと相当の修練を積んでいるのだろう。


やがて、前方の闇の中に古びた木造の建物群が見えてきた。


「あれが、ニコルの言ってた旧街道宿場の廃屋地帯なのですかね?」


「だな。この間キルケバール街道を通った時に遠目に見えていたやつだ。ここからは、少し速度を落とすぞ」


「このまま突っ走るのです。クラリスが心配なのです‼︎」


「それでも、だ」


ロロイは納得行かなそうな顔をしながらも、渋々俺の指示に従って速度を緩めた。


カリーナと俺を真ん中に挟み、前にロロイ、後ろにカルロという陣形で林の中へ入り込んでいく。

周囲の木には、先行したバージェスのパーティーが残していったと思われる真新しい切り傷が残っていた。

後続部隊の俺たちに向けた、目印ということだろう。


少し進むと木々の背が高くなり、本格的に森の中へと入り込んでいった。

やがて月明かりすらも届かなくなり、さらに視界が悪くなる。


たいまつを焚いてみたが、やはりあまりにも死角が多い。


「暗すぎるな。……ロロイ、あれを使うか」


「良いのですか?」


俺が頷くと、ロロイは自分の『倉庫』から魔宝珠を取り出した。

ロロイがそれを握りしめると、すぐにあたりが真昼のような明るさに包まれていった。

そんな強い明かりでありながら、不思議と眩しいとは感じない。

実に不思議な明かりだ。


「無闇に出すと、またアルバスに怒られるのです」


「カリーナとカルロなら大丈夫だろう」


たいまつを使った場合、例え4人全員で持っても照らし出せる範囲はかなり狭い。

それに、草むらの中や木々の隙間や窪地など、照らしきれない場所も多岐にわたる。

範囲の限定された洞窟探索ならいざ知らず、全方位の広範囲から襲撃リスクがある森の中では、やはり魔宝珠の灯りは頼りになる。


「範囲はこのくらいでいいのですか?」


「ああ」


半径にして20mくらいまでの範囲を照らし出すように光の大きさを調整し、ロロイはバージェスの目印を追ってさらに先へと進んでいった。

この大きさの光なら、頭上の木々の枝葉までも照らし出すことができる。


周囲に潜んでいた小型で無害なモンスター達が、光から逃れるようにしてバタバタと走り去る音が聞こえた。

カルロとカリーナは、見慣れない魔宝珠の光に一瞬驚きつつも、今は何も言わずにロロイと俺の後についてきた。


魔宝珠の中の無尽太陽(オメガ・サン)で広範囲を照らし出すことは、相手が魔物使いであった場合には警戒されるリスクがある。

だが、明らかに異質なこの灯りは、バージェスやクラリスからの目印にもなるだろう。



→→→→→



「念のため、ここらで一回周りを視ておくか。……カリーナ、頼む」


「わかりました」


俺がカリーナのために『倉庫』から椅子を出すと、カリーナはそこに腰掛けて集中し始めた。


『広域生命探知』

それは、周囲のマナを感じ取る『生命探知』の上位に位置するスキルだ。

『生命探知』よりも精度は落ちるが、より広範囲のマナを感じ取ることができる。


クラリスとバージェスのキズナ石により、その2人のマナの『色』を確認したカリーナは、周囲の広範囲に向けて意識を解き放ち、2人を探索しはじめた。

人間とモンスターではマナの構造が根本的に違うらしい。

そのため、人間の少ない森の中であればかなり広範囲にまで探索範囲を広げることができるとのことだ。


「ダメですね……。少なくともここから1km程度の範囲内には、クラリスさんもバージェスさんもいません」


「わかった。なら、このままバージェス達の目印を追って進もう」


3人が頷き、すぐにまた歩き出した。


クラリスのキズナ石はまだ光っている。

ルージュという女が知らせてきた『紅蓮の鉄槌がルードキマイラに襲われた時刻』からは、すでに8時間以上が経過していた。

先発部隊のバージェスは、もうクラリスを見つけ出したのだろうか?


バージェスの目印を追いながら、俺たちは森をひたすらに進み続けた。



→→→→→



「っ⁉︎」


突然ロロイが左に振り向いて構えをとった。


倉庫取出デロス‼︎」


そして次の瞬間には、ロロイの右手には聖拳アルミナスが出現していた。


「うりゃぁぁっ‼」


ロロイが闇の中に向かって思いっきり右の拳を振るう。

そこから放たれた遠隔攻撃が、闇の中で激しく弾けた音がした。


「あれっ、効いてない⁉︎ アルバス、下がっ……」


ロロイが言い終えるより先に、左手の林がガサガサと音を立て、木々の間から巨大な影が躍り出た。


「ルードキマイラッ⁉︎」


立て髪のついた頭が見えた瞬間、俺は叫びながらカリーナの手を引いて後退した。

それと同時に、ロロイとカルロが前に飛び出し応戦する。


剛力発動(マッスル)、アンド、鉄壁発動(ガード)


鉄壁発動(ガード)、アンド、瞬足発動ダッシュ


ロロイとカルロがほぼ同時に各々のスキルを発動し、臨戦体勢に入った。


「ルードキマイラの皮膚はかなり硬い‼︎ 打撃で戦うなら頭を狙えっ‼︎ あと、雷撃に気をつけろよ」


ルードキマイラが放つ雷撃を掻い潜り、カルロが相手の左前足を下段の回し蹴りで払った。

そしてグラリと体制を崩しかけたルードキマイラの頭に向かい、ロロイが二つのスキルで強化した渾身の打撃を叩き込んだ。

一瞬にして、見事な連携だ。


だが、ルードキマイラは側頭部を殴りつけられながらもギロリとロロイを睨みつけた。

全く効いていないようだ。


「うーん。すっごく硬いのです」


ルードキマイラが咆哮し、全身から雷撃を放った。

ロロイとカルロが一気に下がってそれをかわす。


跳躍したロロイは前方の空中に向けて遠隔攻撃スキルを放ち、ルードキマイラの雷撃と衝突させた。

2人の間で魔力が弾け、激しい爆発を起こした。


ルードキマイラは崩れた体勢を即座に立て直し、前に飛び出そうと身を屈めている。

それを見た着地前のロロイが、右手を横に薙ぎ払った。

発動した遠隔攻撃スキルは、ルードキマイラの後ろ足に真横から当たり、ルードキマイラの体勢を再び崩したのだった。


「とんでもないやつだな。以前相対した時から感じていたが、遠隔攻撃の扱いが化け物じみている」


そう呟きながら、カルロは再び一気にルードキマイラへと近づき、その眼球に向けて深々と短剣を突き立てたのだった。


ルードキマイラが絶叫し、激しく暴れ出した。

周囲に放たれた雷電を避けるようにして、カルロは再び再び距離をとった。


「ロロイ殿。あの短刀をさらに押し込めますかな?」


「了解なのです」


一旦下がったカルロに代わり、ロロイが短剣の柄を遠隔攻撃で殴りつけた。


「ギャァァァオオオーーーーン」


短剣をさらに深々と体内押し込まれたルードキマイラは、悲鳴のような鳴き声をあげた。


戦闘力は、完全にロロイたちの方が格上だ。

それを理解したのだろう。

ルードキマイラはこの場から逃れようとして踵を返した。


その足を……

ロロイが再び払った。


体勢を崩して倒れ込んだルードキマイラに向け、ロロイとカルロがさらに激しく連撃を叩き込む。

ほどなくしてルードキマイラは痙攣をはじめ、やがて完全に動かなくなった。


「流石だな」


バージェスのパーティーが数ヶ月がかりで追い続けていたという、特級ランク魔獣『ルードキマイラ』。

それを、こうも容易く屠るとは……

討伐の手柄を横からかっさらうような形となってしまったが、この状況では致し方ないだろう。


「ルードキマイラは全部で五体確認されているらしい」


現在ギルドで治療中のシュウという冒険者が一体倒したらしいが、それでも残りは三体だ。


「いつまた襲われても対応できるよう、一旦身を隠して万全まで回復したい」


特にロロイの体力が心配だった。

クラリスのことはもちろん心配だが、焦ってこちらが全滅させられてしまっては元も子もない。


「おなが……、空いたぁ……」


そしてロロイは、すでにいつものスキルダブル使用の反動でへたりこんでしまっている。

そんなロロイに食べ物と各種の回復薬を手渡しながら、俺は魔宝珠の光を一旦消すことと、このまま少し移動することを指示した。


「光を嫌うはずのルードキマイラが、光に向かって挑みかかってきた。これは……確実に後ろで操っている奴がいるな」


だとすると、こちらが回復し切る前に二体目を差し向けられると厄介だ。

早急に場所を移動し、一旦身を隠す必要があるだろう。


皆、異論はないようだった。


俺はルードキマイラの亡骸を『倉庫』に収納し、さっそく移動を開始した。


「モンスター討伐に加え、門の外に街を作るなど、随分と型破りな商人だと思っていましたが……。なるほど、冒険者(こちら)が本職というわけですか」


移動しながら、カルロがそう呟いた。

野外戦で次々と戦術的な判断を下す俺を見て、思うところがあったのだろう。

普通の商人は、戦闘部隊にこんなあれこれと具体的な指示を出したりはしない。


「俺の本職はあくまでも商人だ。ただ、今のところの商人歴は2年、冒険者歴は15年だけどな」


カルロは軽く肩をすくめてから、俺の手渡した特級の体力回復薬を一息に飲み干した。


「ちなみにこれのお代は?」


「直接マナはいらない。ミトラへの家庭教師として身体で返してくれ」


「なるほど……。ジルベルト様はよく『ただより高いものはない』とおっしゃられておりました」


「高くつきそうか?」


「そもそも、この状況そのものが相当高くついていますな」


ミトラの家庭教師、兼、護衛として派遣されたカルロの仕事には本来『シヴォン大森林で特級魔獣と戦う』なんてことは、間違いなく含まれていないだろう。


「それについては、すまんな」


「最終的に私が了承したんですから、それについてはいいです。ただ、これは貸し借りなしでいただいておきましょう。もちろん、ミトラ様の件は引き続きしっかりと務めさせていただきます」


そう言ってカルロは、空の瓶を俺へと手渡したのだった。


そして、ロロイの回復を待ってから、俺たちは再び森の中を進み始めた。


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