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19 アマランシアの問い

翌日。

帰り道のためにアルバスが指定した集合場所に、アマランシアが現れた。

アマランシアは旅装で、少し大きめの荷物を背負っている。


「アルバス様。クラリスさんから、このままキルケットに戻ると聞きました。よろしければ、道中ご一緒させてください」


「えっ……ア、アマランシア?」


アルバスはかなり驚き、なぜかしどろもどろになって固まってしまっていた。


「なんだその反応? アルバス。アマランシアだぞ? 去年のオークション会場でも助けられたって言ってたじゃんか」


「いや、そうなんだけど……」


アルバスは、なおも歯切れが悪い。


「別れ際に、ちょっと色々ありましたからねぇ」


アマランシアはいつもの調子で微笑んでいる。

だが、どうやらアルバスの方は少しアマランシアを警戒しているようなのだった。


この2人の間に何があったのかは、クラリスにはわからない。

以前、スルトが「アルバスの妻は5人いる」などと言っていたけれど……

ひょっとすると、クラリスの知らないところで本当にアルバスは色々とやらかしているのかもしれない。


「アマランシアーッ‼︎」


アルバスとは対照的に、ロロイは満面の笑みを浮かべながらアマランシアに飛びついていった。

そして引っ付いて、胸元に頬擦りしている。


「久しぶりなのです‼︎ 黙っていなくなるなんて水臭いのですよ」


「ごめんなさいねロロイさん」


「でも、またこうして会えたからいいのです! 出会いと別れもトレージャーハントなのです‼」


「アルバス様。……同行の件、ダメでしょうか?」


「いや、そういうわけじゃないけど……」


相変わらず歯切れの悪いアルバスだったが、別にキッパリと断るわけでもなかった。


「アルバス‼ ダメな理由とかないだろ? それとも、なにか私や姉さんに言えないような理由があるのか?」


「なんでそこでミトラが出てくるんだ」


「アルバスが変だからだろ。なんか隠してるみたいに見えるぞ」


紅蓮の鉄槌の面々にはすでにアルバスの義妹(いもうと)だとバレているため、クラリスはもう完全にいつもの調子だ。


「別に何も隠してない。アマランシアの同行についても、何も問題はない」


アルバスがそう言って。

アマランシアは護衛の1人としてこの商隊に加わることになった。


そして、10人もの大所帯でキルケバール街道へと歩みを進め、キルケットへの帰途に着いたのだった。



→→→→→



帰り道では、アルバスも馬車の外を歩いて移動していた。

というか、馬車を丸々『倉庫』スキルに収納してしまい、牽引用のウシャマを御者に任せて歩いていた。


どうやら書き物や書類の確認などの仕事がひと段落してしまい、暇をしているらしい。


アルバスは、度々前方の最前線近くまでやってきては、紅蓮の鉄槌やアマランシアが討伐したモンスターの亡骸を倉庫に収納していった。


「アルバスさんって。直接は戦闘に加わらないけど……動きヤバいよね」


襲いかかってきたウルフェスの群れを狩りながら、ビビが感心したようにそう言った。


それは、クラリスも感じていたことだった。

多少なりとも戦場を俯瞰できるようになってきたことで、クラリスにはそれがより強く感じられるようになっていた。


「そうだね。動きにまるで無駄がない。たぶん、戦場全体の流れを相当先まで読んだ上で動いてるんだと思う」


クラリスのところで亡骸を回収したと思ったら、数秒後にはもう歩き出していてルッツとノルンの受け持ちの場所に向かっている。

そして、アルバスがそこに到着する頃にはちょうどそちらの戦闘がひと段落つく、というようなことが度々起きていた。

まるで未来に起こる事がわかっているかのような立ち回りだ。


さらに、戦闘の真っ最中でも構わずそこに入り込んでいくようなこともある。

そんな時は、モンスター達の意識の外をうまくつきながら、主な戦闘の導線とはズレた場所を縫って動き周っていた。

そんな感じで立ち回り、アルバスは次々と亡骸を回収しているのだった。


直接的にモンスターとやり合うことは全くできないのだが……

アルバスの戦場での立ち回りは、間違いなく超一流のものだった。


「たぶん、アース遺跡やポポイ街道でもああだったんだろうな……」


いままでクラリスが気づかなかったというだけで、アルバスという男はやはりとんでもなく熟練度の高い冒険者なのだった。



→→→→→



「そろそろ昼にしようか」


アルバスの声かけで、キルケバール街道から南にそれた平原で昼食をとることになった。


「思ったより進んだな。ただ、帰り道は始まったばかりだからな。あまり飛ばしすぎるなよ」


たぶん先行するルッツ達に向かって言っているのだろう。

アルバスはそんなことを言いながら昼食の準備を進めていった。



草原のど真ん中に、椅子やテーブルを並べての昼食。

念のため、スルトの感知罠魔術(センストラップ)を周囲に広げながらの昼食だった。


そんな昼食が終わるころ……


「せっかくですから、お近づきの印に一つ唄ってもよろしいでしょうか?」


突然に、アマランシアがそんな申し入れをした。


「ああ、構わないぞ。投げ銭は各自の判断だがな」


初日の午前中からそこそこ距離を稼いでいたこともあり、アルバスはそれを了承した。



→→→→→



「ところで、みなさんはエルフ奴隷についてはどう思いますか?」


楽器の準備をしつつ、アマランシアがグルリと全員を見たあとでそう言った。


「エルフですか? 私は見たことないです」


「俺も」


「俺もだ」


ビビ、ルッツ、スルトがそう答えた。

紅蓮の鉄槌の面々は『そもそもあまり知らない』というような感じのようだ。


「私は昔見たことある。皇都の金持ち貴族に連れられてた。なんか、可哀想だなって思った」


唯一見たことがあるというノルンも、そのくらいの関わりだそうだ。


「ジルベルト様は、元よりウォーレン家での奴隷の使用を禁止しておられました。お父上のキルト・ウォーレン様の遺言によるところが大きいようですが……」


御者達はそうは言っていたが、それについて自分の意見を込めることは避けていた。

こういう話題はデリケートなものなのだ。


「俺も、特にはないな」


そして、アルバスもそう言った。

瞳にエルフの特徴を宿した、ハーフエルフであるミトラを妻として迎え、今日に至るまで愛を注いでいるアルバスに、エルフへの偏見などはあるはずがなかった。


「私も」


そしてまた。

身体に特徴こそ出ていないものの、エルフの母親を持つクラリスは間違いなくハーフエルフだ。

そんなクラリスにも、エルフへの偏見などあるはずがなかった。


「わかりました。では……」


アマランシアは、皆の答えを聞いた後。

ゆっくりとした手つきで楽器を奏ではじめ、一人のエルフ奴隷についての詩を唄い始めたのだった。

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