12 とある結婚①
ヤック村の共同浴場に着いた。
そこでは、薄着のプリンが掃除用具を持って待ち構えていた。
「アルバスさん。よろしくお願いします!」
そして、本当に掃除開始。
管理人の少年は、モルト町に出かけてしまって。
今はいないらしい。
宿屋の方を手伝っているらしく。
その仕入れ関係だそうだ。
「2,000マナも報酬を払わなくたって。普通に呼んでくれればいいのに。後で、ギルドには依頼はキャンセルしたってことにしておくよ」
「すみません。アルバスさんは、忙しいと思って…」
「今日は暇だ。ってか、最近はいつも暇だ」
「そう、なんですか?」
「ああ。モルト町に、流れの冒険者が増えてきてるからな。ガイド業はそこそこ需要はあるけど、モンスターの数が減って、荷物持ち業は商売上がったりだ」
そんな状態で、相手を選んで商売をしようとしてるせいで、さらに暇が加速している。
初めの頃の、誰にでも声をかけて、どんな場所にも着いていく。そんながむしゃらさが、少し薄れてきていた。
「アルバスさんは、大商人になるんでしょ?」
出会ったばかりの頃。
最初に薬草を買った時に俺が口にした。
そんな目標を、プリンが口にした。
「そうだな…」
生きるのに困らない程度の金が稼げるようになって。
どこかで俺は、満足してしまっていたのかもしれない。
→→→→→
一通り掃除が終わり。
湯を張った1番風呂に、俺が入っても良いと言う話になった。
「2,000マナの代わりには、まったくならないですが…」
プリンは少し恐縮しているが。
俺には十分すぎる褒美だ。
プリンが出て行った後で、服を脱いで湯に浸かった。
1番風呂は。最高に気持ちがいい。
「はぁぁぁ」
思わず。感極まった声が漏れた。
そして、さっきのプリンの言葉を思い出した。
「大商人かぁ…」
大陸をまたにかけての行商に始まり。
いずれは莫大な財産を築く。
そして各地に広大な土地と幾つもの商店を持ち、何人もの妻を侍らせる大商人。
だが、実は俺は。
まず妻が欲しかった。
バージェスのことを馬鹿にしたように話すが。俺も似たようなもんだ。
このまま。ここで。
共同浴場からくるマージンで暮らす。
その安定した生活基盤を持って、妻を迎え入れる。
なんかもう。
それでいい気がしてきた。
その時、ガラガラと脱衣所の扉が開いた。
開業前の時間だから、誰も来ないはずなのに…
そう思って何気なく扉の方を見て、驚愕した。
そこには、一糸纏わぬ姿のプリンがいた。
いつぞやのアルカナのように、布で隠すようなこともしていない。
俺は慌てて目を逸らしたが。しっかりと目に焼き付いてしまい、下半身に血が集まっていくのを感じた。
「ななな…。なんだ…ですか!?」
思わず、意味のわからない言葉を吐いてしまった。
プリンは、少しだけクスッと笑ったあと。
ゆっくりと湯に入ってきた。
俺は顔を逸らしていたのだが、湯の波立ちで、プリンが徐々に俺の方に近づいてきているのがわかる。
「どどど…どうしたのだ? いきなり」
背中に触れられる。
そして、そのままふくよかな2つの膨らみとともに、体を密着してくる。
「アルバスさん。私…」
「は…、はい」
「きのう…。16歳になりました」
「お…、おう」
つまりは、成人したと言うこと。
いつでも、結婚できる年齢になったと言うことだ。
「私を…アルバスさんの妻にしてください」
「っ!!!」
頭がオーバーヒートして。
思考の許容量を超えた。
「な…なんで?」
絞り出せたのは、そんな言葉。
「アルバスさんは、私とお母さんにとっての勇者様だから…」
「…偶然だよ」
「2回、薬草を買ってくれたのが、ただの偶然なのは知っています。でも、3回目は…。薬草摘みに冒険者の人たちを集めてくれて。薬草風呂という村の名物まで考案してくれたことは、偶然なんかじゃないはずです。それは紛れもなく。アルバスさんが、キチンと私たちのためにしてくれたことです」
「それも…、偶然だ」
俺の身体にプリンの手が回され。
胸、腹、と、徐々に下へと降りてくる。
ヤバい。
そこに触られたら、我慢できる自信がない。
「アルバスさんが、いずれここを旅立つ方だということは、よくわかっています。でも、例え遠く離れていようとも、それでもいいんです。私はここで、1人であなたを待ちます。私は…あなたの妻になりたい」
その言葉が。
崩壊しかけていた俺の理性をギリギリで繋ぎ止めた。