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13 『雷電魔龍ギガース・ドラン』②

「ここから先は、割とよく知られた話かな」


そう言って、アルバスは雷電魔龍の話をつづけた。


魔龍討伐のために皇都を出発したライアンのパーティーは、その翌日には雷電魔龍ギガース・ドランと会敵した。


雷電魔龍を視認して発動させたライアンのスキル『神の目』によると。

雷電魔龍の魔障フィールドは凄まじいまでの強度を誇る上に、相手の攻撃属性によって随時パターンを変化させるという非常に厄介なものだったらしい。


この魔障フィールドの前には、騎士団の物理攻撃はもとより、魔術師部隊の魔術攻撃も全く効果がないようだった。


さらには……


「雷電魔龍の魔障フィールドには、ライアンの持つ当時の最強武器『聖剣クラリウス』とその付与スキル『特級結界侵食』をもってしても、完全に火力不足だったんだ」


その上、絶えず周囲に降り注ぐ雷撃によりそもそも魔龍に近づくことさえも困難。

最強レベルの攻と防を兼ね備えた雷電魔龍は、まさに過去最強の魔龍といえる存在であった。


「そんな雷電魔龍を、勇者達は一体どうやって倒したのですか⁉︎ アルバス、早く続きを話すのです‼︎」


話を聞きながらいつの間にか大興奮しているロロイが、アルバスに話の続きを催促した。


「雷電魔龍にトドメを刺したのはルシュフェルドだ」


現状持っている通常戦力では火力不足と判断したライアンは、ルシュフェルドを一部の魔術師と共に遥か後方の山中まで後退させた。

そして『時間をかけて極限まで魔法力を圧縮した、ルシュフェルドの必殺の一撃に賭ける』という作戦を推し進めたのだった。


「ルシュフェルドには、よく知られている爆裂属性の合成魔術のほかにもう一つ特殊な能力があったんだ」


通常の魔術師は、魔術を発動してから発射するまでを一連の流れとして行う。


一度この世界に発動させた魔術は、時間の経過と共に急速に分解されて消失していく。

そのため、より強い魔術の一撃を放つためには、可能な限り素早く大量の魔法力を込め、可能な限り素早く打ち出すのがセオリーとされていた。


だが、ルシュフェルドは体外に放出した自身の魔法力を、ほとんど消失させることなく長時間保持することができた。


そのため、ルシュフェルドは自分の体内の全魔法力を込めた爆裂魔術を杖の先に発動させた後、それを長時間そこに留めておくことができた。

さらに、そこで魔力回復薬などによって再び体内の魔法力を回復することで、留めてある発動中の魔術に、さらなる魔法力を付加することができるのだった。


つまりは、ルシュフェルドは時間をかけて幾度も幾度も魔法力の回復を繰り返せば、自分の体内の全魔法力の容量を遥かに超えた一撃を精製して放つことができるのだった。


ただ、それには凄まじいまでの集中力と精神力を要する。

自分の限界を超えた量の力を扱うのだから、そのために必要なのは自分の限界を超えた集中力だ。

だから、使用後は大抵数時間から数日間の昏睡状態に陥るらしかった。


「一撃で体内の全魔法力どころか、それをはるかに超える量の魔法力を扱う超魔術だからな。下手をすれば反動や暴発で死ぬ。だから、ルシュフェルドも滅多にそのレベルの魔術は使わなかった」


そして、その時の爆裂魔術にルシュフェルドが込めた魔法力は、ルシュフェルドの全魔法力の実に十倍もの量にものぼっていたという。

後にも先にも、ルシュフェルドがそこまでの魔法力を込めた一撃を作り出したのは、その時だけだったという話だ。


そして、ルシュフェルドがその一撃を作り出すまでにかかった時間は、5時間だった。


「たぶん、ルシュフェルドの話よりもこっちの方が有名だと思うけど……。ルシュフェルドの準備が整うまでの間、ライアンとジオリーヌは皇都の騎士団や魔導都市の防衛部隊と連携して雷電魔龍の足止めをしていたんだ」


「知ってます‼︎ 騎士団や魔術師部隊が壊滅した後、最後には勇者様がたった1人で魔龍の足止めをし続けたって。最強の魔龍との一騎打ち‼ マジで熱い戦いですよ‼︎」


ルッツが興奮しながらそう言った。


降り注ぐ雷電の雨の中、ライアンは『神の目』による攻撃予測と『神速』による自身の速度強化とを駆使して戦い続けた。

そして、雷電魔龍ギガース・ドランの足止めをし続けたのだった。


ちなみにその時のアルバスは、ジオリーヌと共に戦場の中衛付近に待機して、適宜ライアンに対する補給を行っていた。

燃費の悪いライアンが長時間全力で戦い続けるには、大量の補給物資が欠かせない。


当然、雷電魔龍の落雷攻撃はアルバスのいる場所までガンガン飛んでくる。

アルバスはそれを、ジオリーヌが作り出した結界内でやり過ごしながら、ライアンへの補給物資を供給し続けた。


ちなみにその時にジオリーヌが使用していたアイテムは、ライアンが土魔龍ドドドラスの含魔石から作り出し、結婚の証としてジオリーヌへと贈った『誓約の首飾り(魔龍の結界・土魔龍ドドドラス)』だった。


「いつものことながら、生きた心地がしなかったな。飛び散る雷電の余波くらいならば、ジオリーヌの結界でも防げたけれど。雷電魔龍がこちらに向かって本気の雷撃を放ったら、ジオリーヌの結界がそれに耐え切れないのは目に見えていたからな」


結果的に、ジオリーヌの結界は雷電魔龍の落雷攻撃に三回耐えた後、四回目を受けて崩壊した。


衝撃で意識を失ったジオリーヌを抱きかかえ、アルバスはライアンの指示で雷電魔龍の攻撃範囲外まで逃れた。

そしてライアンは、補給を絶たれて完全に孤立無援となったのだった。


「とりあえず、置けるだけの支援物資を地面に撒きながら下がったんだけど、ほとんどが魔龍の雷電で焼かれてしまった」


騎士団と魔術師部隊もすでにほぼ壊滅状態になっており、アルバスによる補給すらも断たれた孤立無援のライアンは、それでもなお一人きりで魔龍の足止めをし続けたという。


この孤立無援の戦いこそが『勇者ライアンの雷電魔龍討伐譚』として広く世に知れ渡っている逸話だったが……

実際には十数分程度の出来事だったらしい。


雷電魔龍の脅威が刻一刻とアマルビアに迫る中、ライアンはギリギリのところで耐え続けた。

そしてついに、全ての準備を終えたルシュフェルドの最強の爆裂魔術が、雷電魔龍の身体を一直線に貫いたのだった。


その一撃により魔障フィールドと身体の2/3を失った雷電魔龍は、そのまま崩れて消滅した。

その時にルシュフェルドが放った超魔術によって開いた地面の大穴は『フェルト大窪地』と呼ばれ、今でもアマルビア付近の名所となっているそうだ。


そしてルシュフェルドは……

この時の魔龍討伐の功績により、黒魔術師ギルドから『黒金の魔術師』の称号を付与されることになったのだった。


だがライアンは……

『そもそも呼ばれてもいないのに謹慎を破って出陣した』ということで、魔龍討伐の功績を帳消しにされてしまった。

ライアンが念願の勇者の称号を得るのは、そこからさらに二年ほど先の話だった。



ライアンにとって追い風となる話もあった。

この一件によりライアンの皇国内での立場はかなり向上し、その時に共に戦った騎士団や魔術師部隊の生き残りたちは、その後ライアンの強力な協力者となったのだ。

そして、この一年後に起きる腐毒魔龍ギルベニア来襲の際には、ライアンは皇都騎士団との共闘を行いこれを撃退したのだった。


「あの時くらいからかな。ライアンが多少なりともまともな感じになっていった気がするのは……」


紅蓮の鉄槌の面々とロロイ、そして御者までもが、アルバスの話に聞き入って感嘆の声を上げていた。



→→→→→



その話を聞きながらクラリスは、追放されたアルバスが勇者達を全く恨んでいない理由が少しわかった気がした。


勇者達の逸話を語るアルバスの語り口から感じること。

それは、アルバスがなんだかんだ言いつつ、自分には絶対にできないことをやってのける勇者達を、心のどこかで尊敬しているということだった。


アルバスが個人的に『突然の追放』という酷い仕打ちを受けようとも、それで彼らの功績がなくなるわけではない。

それに、共に戦った時間が無になるわけでもない。


雷電魔龍ギガース・ドランにしろ、腐毒魔龍ギルベニアにしろ、勇者ライアン達の戦いによって命を救われた何千何万という人々がそこにいる以上、やはり彼は『勇者』であり『英雄』なのだった。

紅蓮の鉄槌のノルンも、そんな救われたうちの一人だ。


そんな勇者パーティーの一員として共に戦い、少しでもそこに貢献できたことについて……


「俺は戦闘力ゼロだから、昔から戦闘では全くの役たたずなんだよな」


そう自嘲気味に語りつつも、アルバスは今もどこかで誇りに思っているようなのだった。

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