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03 紅蓮の鉄槌と闘技大会

時は遡り……

行方不明のクラリスを追って、アルバス達が森に入るよりも一月ほど前のこと。


「なぁ、クラリス。闘技大会ってのが開催されるらしいぜ」


クラリスの目の前の若い男が、いきなりクラリスにずいっと顔を近づけてそんなことを言ってきた。


まだ少年とも言えるような年齢と風貌のその男は、新進気鋭の若手パーティー『紅蓮の鉄槌(ぐれんのてっつい)』の剣士ルッツだ。

そしてなぜか、ルッツは妙に興奮しているようだった。


「そ、そうなんだ」


そんなルッツに対し、クラリスは若干引き気味でそう答えた。


クラリスがこの『紅蓮の鉄槌』に臨時メンバーとして加入してから、早くも1ヶ月以上が経過していた。


「なんだよその反応。西大陸中から腕に覚えのあるやつが集まるんだぜ? 剣士として、これに参加しない手はないぜ。それに入賞賞品も、西大陸中のすげぇ商人たちが集まって、今すげぇのを用意してるって話だ」


どうやら冒険者ギルドの銀等級や銅等級の冒険者あてに、その商品を選定する選定会への招待状が来ているらしい。

そのため正式な告知がまだにも関わらず、早くもそんな噂話が出回っているのだった。


「……そう、だなぁ」


『西大陸中の凄い商人』

ルッツたちは知らないことだが、その中にはクラリスの義兄(あに)であるアルバスも含まれている。

そしてクラリスは、もとはといえばそのアルバスが、まさにその闘技大会の賞品を考案する手助けをするため、このパーティーに加わったのだった。


義兄(アルバス)からいつまで経っても「帰ってこい」と言われないのをいいことに、クラリスはずるずると居心地のいいこのパーティーに居座ってしまっていた。


「クラリス。これは、私たちの名前を世間に売りこむチャンスでもあるのよ」


そう言って、パーティーの姉貴分である魔槍術士のビビが声を上げた。


「名前が売れているパーティーには、割のいい指名依頼なんかも来るわ。そうなれば普通にしてるよりも断然稼げるし、断然早く次の等級に上がれるって話よ」


「腕が鳴るぜ‼ 俺の剣が西大陸の猛者たちにどこまで通用するのか試してやるんだ。もちろん、クラリスも参加するよな?」


「参加するよね⁉」


二人からの圧が強すぎて、思わずクラリスは頷いてしまった。


「わ、わかったよ。私も参加する」


確かに。

自分の実力が世間的に見てどの程度のものなのかという事は、クラリス自身も常々知りたいと思っていたことだった。


アルバスのパーティーでのこれまでの戦いで、クラリスは自信を喪失しかけていた。


元聖騎士の肩書を持ち、海竜ラプロス(特級モンスター)の魔障フィールドすらも叩き斬ってしまった魔法剣士のバージェス。


数々のスキルと魔術、そして抜群の戦闘センスでトリッキーで規格外なバトルを繰り広げ、水魔龍ウラムス(強大な魔龍)すらも討伐してしまった武闘家のロロイ。


そんな数段違いの実力者たちに囲まれていては、どれだけ腕を上げたつもりになっても……

いや、腕が上がって多少なりとも目が肥えて行くほどに、彼らと自分との間にある圧倒的な『力の差』がより鮮明に分かるようになってしまうのだった。


そしてそんな護衛たちを束ねるのは、クラリスの義兄(あに)であるアルバスだ。

彼もまた、その豊富な知識と次々と閃く商売のアイデアで、出会ったころとは比べ物にならないほどの財力と知名度を手に入れていた。

そして今や、西大陸全土にわずか十二人しかいない『銀等級』の肩書きを持つ豪商の一人となっているのだ。

戦闘力はゼロであるが、アルバスの商人としての財力()はすでに相当なものだった。


そんな『銀等級の商人アルバス』という大人物の護衛をするのに、たぶんクラリスでは圧倒的に実力が足りていないのだ。


もしこの闘技大会で、少しでもいい成績が収められれば……

自分の気持ちにとっていい影響があるかもしれない。


「そうだな。私も気合い入れて臨んでみるかな」


「その意気だぜクラリス‼︎ よっしゃあっ‼ それじゃあ今日も、張り切ってモンスター討伐クエストに行こうぜ‼︎」


「まだでしょ。買い出しに行ったスルトとノルンが戻ってきてないよ」


「あ……そか」


「その突っ走ると周りが見えなくなるところとか、ルッツは子供のころから全然変わらないね」


「うるせぇな。ビビ姉はいつまでもおせっかいなんだよ。もうガキじゃねぇし、それにこのパーティーのリーダーは俺なんだぜ」


「あれ? お姉ちゃんにそういうこと言っていいの? 他の三人にあのことバラしちゃうよぉ?」


「うっ……」


いきなり言葉に詰まるルッツ。

『あのこと』というのは、たぶんルッツが10歳までおねしょをしていたこととか、12歳までビビと一緒に水浴びをしていたこととかだろう。

……前に、酔っぱらったビビが口を滑らせていた。


「二人とも、ほんとに仲いいな」


そんな二人の姿を見て、クラリスは心からそう呟いたのだった。



紅蓮の鉄槌(ぐれんのてっつい)


剣士ルッツ(リーダー・前衛)

魔槍術士ビビ(サブリーダー・前衛)

罠魔術師スルト(後衛)

支援魔術師ノルン(後衛)

剣士クラリス(臨時加入・前衛)

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