01 来訪者
とりあえず、第8章の1〜43話まで作り、話にひと段落つきました。
またまた間が開きましたが、暇つぶしにでもぜひお付き合いいただければ幸いです。
今回は、3〜25話までが第三者風クラリス視点になります。
【1/9追記】色々と増えて、現在51話くらいになってます。クラリス視点は3〜28話です。
【1/12追記】メインどころのストーリーは46話で一旦区切りがついた感じです。47話〜は、後日談的な話になります。何話まで続くかは、再構成中なのでなんとも言えないですw
【1/18追記】メインストーリー51話+余談1話+棚卸し1話となりました。
ミトラがクドドリン卿をやり込めた賞品選定会から、およそ一カ月が経過した。
俺とミトラと、ロロイとシュメリアは、相変わらずキルケット西部の門外地区での生活を続けていた。
「いいかげん門内の屋敷に戻らないのか?」
俺の目の前の大貴族……ジルベルト・ウォーレンが呆れたようにそう尋ねてきた。
「もうそろそろ引き上げるつもりだ。この地区の石造りの壁も出来上がってきたことだし、入居者も徐々に増えてきた。あとは闘技大会で一番でかい建物の管理人四人が決まったら……ってところだな。この次は今一度トトイ宿場の件を進めようかと思っている」
「相変わらずの商売熱心だな」
「あんたほどじゃない」
俺がそう言って応じると、ジルベルトがにやりと笑った。
「お互い稼いでいるのはよいことだが、その分用心は怠るなよ」
「……今年もか?」
つまりは『キルケットオークションに向け、今年もすでに黒い翼が暗躍しているのか?』という質問だ。
「ああ、すでに何件もの被害報告が上がってきている」
今日は、わざわざそれを言いにこんなところまで来たらしい。
時刻が夕方なのは、日中ジルベルトの商売に付き合っていたミトラを門外地区まで送り届けてきたからだ。
「……昨年お前が襲われた『シルクレット』という男の報告もあがっている。お前の上げていた報告通り、毎度自分からそう名乗っているらしい」
「相変わらず阿呆っぽいな」
「だが、すでに5件もの被害報告が上がっているし。被害総額もかなりに上る。一度自警団が追い詰めたが、逃げられたようだ」
「……そうか」
シルクレットは、そのへらへらした態度がかなり馬鹿っぽかったが……
戦闘の腕はかなりの物だった。
「あいつ、まだそんなことやってるのですか。……あの時ロロイがちゃんと捕まえておけばよかったのです」
俺の横で、ロロイがぷりぷりと怒っていた。
ちなみにこの会談の場所は、キルケット西部門外地区にある、新・リルコット治療院の応接室だ。
この地区で俺とミトラが住んでいるのはいまだに簡易の天幕のため、大貴族様を迎えるような設備がないのだ。
俺の左右にはロロイとミトラ。
そしてミトラの後方には付き人のシュメリアと、先日までジルベルトの護衛だったカルロが控えていた。
あの選定会の数日後、カルロはウォーレン家からミトラの家庭教師として派遣されてきたのだった。
それ以来、ミトラの護衛も兼ねて、シュメリアとともに常にミトラ脇に控えている。
ジルベルトの隣には以前からいたシーマと、もう一人若い剣士が控えていた。
カルロとシーマの息子らしい。
いろいろと驚いたが、まぁそういう事もあるんだろう。
「カルロの腕は確かだが、何事においても過信はするなよ。今やミトラの力は、俺の商売にとってなくてはならないものだ。曲者などに付け入るスキを与えるな」
まぁ、ジルベルトの興味はそっちだよな。
ジルベルトとの取引に基づき、ミトラは最近はジルベルトの新しい事業を手伝っているようだ。
話を聞く限りは、かなり順調に莫大な金を稼ぎ出しているようだった。
「恐れ入ります、お兄様」
ミトラが優雅にお辞儀をした。
その後、ジルベルトは現在確認されている『黒い翼』と思われる被害の詳細を幾つか俺達に伝えてきた。
その中で俺が最も気になったのは……
「パーティーブレイカー?」
そう、呼ばれている女盗賊の存在だった。
「ああ、詳細は全くもって不明だが……狙われたパーティーは内部に不和を仕組まれた上で壊滅させられてしまうらしい」
そして、価値のある装備品などを盗まれた上、モンスターの巣窟などに誘い出されて放り出されるらしい。
「それで一党破壊者か……」
壊滅する前後のパーティーを目撃した者たちからは「見たことのない女が混じっていた」という目撃証言が複数寄せられていた。
にもかかわらず、なんとか生き残ったパーティーメンバーたちは、口をそろえて「そんな女には覚えがない」というらしいのだ。
「おそらくは魔眼の類、だろうな」
俺がそう指摘すると、ジルベルトが「ほう?」と興味深そうにつぶやいた。
「『忘却の魔眼』……以前皇都の大図書館で見たスキル名鑑に、そんなスキルが載っていた」
それは、視線を合わせた相手にある種の暗示をかけ、自らに関する記憶を消し去るというものだった。
それは、呪いの一種だとされている。
周りの人間に対してのみならず、所持者自らにとっても悲劇となりかねない。
「前にアルバス様が調べてくださった悲劇の詩の中にも、確かそんな詩がありましたよね?」
吟遊詩人のシュメリアが声を上げた。
そして、ジルベルトに一瞥されて慌ててミトラの後ろに隠れていた。
「続けてくれ、シュメリア」
ジルベルトにそう言われ、シュメリアはおずおずと話を続けた。
「『アスタムの孤児』という詩です。その詩の主人公の貴族の少女は、ある日突然に家族や屋敷の使用人達から忘れられてしまい、そのまま屋敷を追い出されてしまうんです」
そのまま街を彷徨い歩き、親切な相手から悪意のある相手まで、様々な相手と出会いながら成長し……
やがて少女は自分を捨てた家族に復讐をする。という話だった。
「なるほど、その『忘却の魔眼』が発現してしまったががゆえに、周囲の人間の記憶から自分が消えてしまったということか」
「その辺は詳しく語られる話ではなかったのですが……」
相手が力づくで来るのであれば、ロロイがいれば大抵のことには対処できるだろう。
だが、相手がそういった搦め手で来ると、対策をしていないと付け入られてしまう可能性があった。
「この話が聞けて良かった。さっそく、明日にでも『魔眼封じ』もしくは『呪い除け』のスキルが付いた武具を用意しよう」
「ほう、それで防げるのか?」
「たぶん、ある程度はな」
「なるほど、やはりお前に話して正解だったな。パーティーブレイカーへの対策があることが知れてよかった」
そしてそんな打ち合わせを続けている最中、なにやら外が少し騒がしくなり始めた。
「外が騒がしいな」
度々言い争いをするような声が聞こえてくる。
「ちょっと見てくるのです」
そう言って出て行ったロロイは、すぐさま外から大声で叫んできた。
「アルバース! アルバスにお客さんなのでーす! 東の冒険者ギルドのニコルなのでーす‼︎」