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32 賞品選定会①

闘技大会の賞品の選定会は、キルケット南部地区の貴族院の会館で行われることになっていた。

ここは中央地区へと続く内門と隣接しており、貴族たちにとっては半分中央地区(自分達の領域)のような場所なのだろう。


そして俺は今、その会場にいた。


今ここには、貴族や、賞品を披露する銀等級の商人。そして、会場を警護する中央地区の自警団に加え、東西南北の各冒険者ギルドの銅等級以上の冒険者がいる。

そのため、かなりの大人数となっている。


俺の事業に参加している銅等級の冒険者も、ちらほらと混じっていた。


自警団は銀色の甲冑で身を包んで会場をぐるりと取り囲み、ドレスや豪華な衣装で飾り付けた貴族達は会場の中央で華やかに談笑していた。

そちらは、さながら舞踏会のような雰囲気だ。


俺や他の銀等級商人は、場違いな雰囲気を味わいながらも、一段高くなった段の脇で自分たちの出番を待っていた。


そしておそらく、俺たち以上の場違い感を味わっていたのは冒険者たちだろう。

特にドレスコードなどもなく呼ばれ、来てみると会場にいるのは豪華絢爛な衣装をまとった貴族たちばかりというわけだ。

そのまま野外にモンスター退治に出かけられるような服装では、気後れしてしまうのは当然だった。


俺は、何とか腰から引き離れたロロイにも、それなりの衣装を着させて横に控えさせていた。

見ようによっては『商人とその妻』なんかに見えなくもないのかな。


「ジルベルト卿が到着したぞ‼」


どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。


「隣の女性は……妹君ではないな。まさか奥方か? いったいどこの名家のご令嬢だ?」


ジルベルト・ウォーレンは、30代の後半になる現在に至るまで、一度も妻を迎えたことがないのだそうだ。

そのジルベルトが今日のこの場に親族や護衛以外の女性を伴って現れたという事で、それが貴族たちの間ではかなりの話題となっているようだった。


だが、今の俺はそちらの方には構っていられない。

遅れてきたジルベルトが会場内に到着すれば、さっそく賞品のお披露目会と冒険者たちによる選定会がスタートするのだ。


そして。

予定より少し遅れて、各銀等級の商人が用意した自慢の逸品たちのお披露目会が始まったのだった。



→→→→→




お披露目の順番は、銀等級の位を得た順番だった。

つまり、俺の順番は最後だ。


各商人達が、名のある武器やレアなスキル付きの武具などを次々に披露し冒険者や貴族たちからの喝采を浴びている。


そんな中で、俺はマルセラという商人が披露していた品がかなり印象的だった。

それは、特殊な形状に削られた4つの封霊石だった。

そしてそれは、うすぼんやりと光りを放つキズナ石だった。


「私はこのキズナ石を賞品といたします。この、私自身のマナを封じ込めた特殊な形状のキズナ石を、闘技大会から一カ月以内に私の店に持ち込んでくだされば、100万マナ分のお好きな武具と交換いたします。私の店は古今東西あらゆるものを取り揃えておりますゆえ、きっとお望みのものが見つかることでしょう」


そう言ってマルセラは、現在の自分の店に取り揃えている目玉となるような武具を次々と挙げ始めた。


要は、そのキズナ石はマルセラの店だけで使える100万マナ分の引換券だという話なのだった。

ちなみに、一番手が100万マナ、二番手以降は50万マナ、30万マナ、10万マナと、それぞれ形状の違うキズナ石が用意されているようだった。


どんなに有用なスキル付きの武具を賞品としても、属性や戦術に合わないなどして上手く扱えない者は必ずいる。

それを解消し、なおかつ自分の武具の店を大々的に宣伝する手段として、マルセラという商人はこういう方法をとったのだった。

そして、一見するとその提供する商品の総額は190万マナだが。

実際には、武具の仕入れの値段は売値よりも安いのだろうから、マルセラが提供する金額はもっと少なくなるはずなのだ。

これは、かなりうまいやり方のように思える。

そして実際にも、この案は冒険者や貴族たちからかなりの好評を得ていた。


そして、ついに俺が俺の用意した賞品を披露する番になった。

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