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22 貴族院議会

そしてあっという間に、1週間が過ぎ……

俺とシュメリアが貴族院の議会に呼び出された当日となった。


その日。

俺はシュメリアと共にキルケットの中央地区へと向かっていた。


例によってキルケットの中央地区には護衛を連れて入ることができないのだが……

門までの護衛として、ロロイが付いてきてくれていた。


「旦那様。今更ですが、本当によろしいのでしょうか? 私みたいなのが、貴族達の前で唄うなんて……」


シュメリアは、俺から少し遅れながら、そんなことを言い出した。


貴族院(あっち)の方から話をして来たんだから、何も問題はないだろう」


「ですが。庶民の中の庶民みたいな私なんかが……」


「貴族達がその庶民の唄を聴きたいと言ってきているのだから、堂々と聴かせてやればいいさ」


「は……はい」


今回貴族院へと呼び出されたのは、俺とシュメリアの2人だ。


俺はもちろん銀等級のギルド商人として。

そしてシュメリアは吟遊詩人として、以前オークションの余興要員として呼ばれたアマランシア同様、貴族達の余興のために呼び出されていたのだった。


「シュメリアーファイトなのでーす!」


ロロイの見送りを受け、シュメリアと2人でキルケットの内門をくぐった。



→→→→→



内門を抜けた先の景色は、半年前にオークションで来た時とほとんど変わっていないようだった。


たが、以前はすぐに目に入ってきたエルフ奴隷の姿が、今回はどこにも見えない。

俺は改めて、あの晩にアマランシア達ががやり遂げたことの影響の大きさを感じたのだった。


そのまま封書に同封されていた地図を頼りに貴族院の中央庁舎へとたどり着くと、受付へと案内された。

そして受付にて身分の確認を済ませた後、案内されたのはだだっ広い部屋だった。


シュメリアは俺とは違う部屋に案内されていった。

おそらくはそこで出番を待つのだろう。


俺が通された部屋は、コの字型に並んだ一段高い席がある処刑場のような場所だった。

一段高い場所には椅子が備え付けてあったが、俺が通された真ん中部分には何もない。


おそらくはその一段高い場所が貴族達の席で。

俺たち庶民の商人は一段低くなった真ん中の部分で立ったまま参加させられるのだろう。


そして徐々に人が集まりだし、議会が始まった。


しばらくの間は、そこで貴族たちの市況報告(自慢話)を長々と聞かされた。


初めの議題は各冒険者ギルドからの収益について。

北部と西部は増額、そして南部と東部は減額だそうだ。

貴族達の話にもチラリと出てきたが、東部地区のギルドはバージェスの言っていたルードキマイラのせいで冒険者が減り、依頼の消化率が悪いようだった。


そして、幾つかの議題を経て、議題は『オークションにおける防衛強化』になったのだった。



→→→→→



「私は、前回のオークションにおける襲撃事件を非常に重く受け止めている」


ゆっくりとそう話し始めたのは、一段と高い場所にいる大貴族だ。


右手側にジルベルト・ウォーレン卿、左手側に別の偉そうな貴族を従えたその大貴族が、おそらくはキルケットナンバーワンの貴族、トンベリ・キルケット卿だろう。

そして段の高さから考えると、おそらくはその左手側の神経質そうな貴族が、第三位のクドドリン卿だろうと思われた。


キルケット卿は、白いひげを蓄えた小柄な老人だった。

だが、その小柄な体からは言い知れぬ存在感と威圧感が放たれている。


キルケット内に莫大な土地を保有し、その自警団組織をまとめ上げる、この城塞都市キルケットの実質的な支配者だ。

中央地区の自警団に至っては、自警とは名ばかりと思えるほど。

軍組織とも呼べるほどに統制のとれた組織を形作っているらしい。


「例年盗賊どもによる被害が絶えない中、今年は何としても奴らを根絶やしにしたいと考えている。そのためには、我々の戦力強化が欠かせない課題となっていることは、各自承知のことだと思う」


キルケット卿の話を聞きながら、俺の隣にいるマーカスギルド長が全力で首を縦に振っている。

その隣にいるマルセラという商人は、冷静な目でキルケット卿を見据えていた。


『黒い翼』と『白い牙』

昨年のオークション時に起きた、その二つの盗賊団による襲撃について。

黒い翼による被害は何とか防ぐことができた。

だが白い牙には、中央地区にいたエルフ奴隷のほぼすべてを解放されてしまっていた。


「前回の顛末については、自警団組織を預かる者として非常に考えさせられるものであった」


また、黒い翼による被害が抑えられたことも、実際のところはキルケット自警団の働きによるものではなかったらしい。


あのオークションの晩、中央地区の西門付近で白い牙と黒い翼が戦闘になり。

その結果、黒い翼のメンバーは白い牙のメンバーによって倒された。


そして自警団が駆け付けた時には、黒い翼のメンバーのほとんどが、雷電の大魔術により全身をしびれさせ。完全に戦闘不能の状態になって倒れていたらしい。


つまり自警団は、白い牙との小競り合いによって倒された後の黒い翼のメンバーを拘束したに過ぎないのだった。


雷電の大魔術……

白い牙の頭目であるアマランシアが、おそらく俺の売った『古代の魔導書(失われた雷電魔術)』を使用したのだろう。


キルケット卿は、さらに話を続けた。


「そこで先日、私はある決定を下した。半年後のオークションに向け、キルケットにて闘技大会を開催することとしたのだ。そこでより強い戦士を集め、オークションの防衛強化を行う事とする」


闘技大会を開催して腕のいい人材を集め、そのままオークションの警備をさせようという話。

つまりは、ジルベルトが言っていた通りだ。


「マーカス、マルセラ、リオル……」


キルケット卿は、その場に集まっている西大陸商人ギルドに所属する12名の銀等級の商人の名前を、次々に読み上げはじめた。


「……サーバン、そしてアルバス。今回、お前達には大会の運営に携わると共に、その集客の目玉となる大会賞品の提供をしてもらいたい」


運営までとは聞いていなかったが、他はほぼ聞いていた通りだ。


各商人から集めた賞品については。

3週間後にお披露目の会を行い、その時に招待された冒険者から支持率の高かった4名の賞品を、その順に上位の品として採用する予定らしい。


つまりは残り8名のものは不採用だ。

そして、その不採用となった賞品を出した8人が闘技大会の運営を無償で手伝わされることになるらしい。

なかなかふざけた議案だ。


しかし、期限は3週間後か。

俺が思っていたよりも、かなり期間が短かかった。


横を見やると、明らかに渋い顔をしている商人が数名いる。

その傍ら、ギルド長のマーカスや、その隣のマルセラといった一部の商人はずいぶんと落ち着いているように見えた。


おそらくは俺と同じなのだろう。

つまりは繋がりのある貴族から事前に話を聞かされていて、すでになんらかの下準備を進めているということだ。

もしかしたら、もうその準備は完了しているのかもしれない。


考えはまとまったが、それを形にするにはまだまだ時間がいりそうな俺としては、少しだけ焦りを感じる場面だった。


だがとにかく3週間。

なんとかするしかない。


そして、この議会はまだまだ続くらしい。

西大陸商人ギルドのギルド長として、毎月この議会に出席しているマーカスによると……

これから一旦休憩の時間を挟み、もう2時間ほどは続くだろうとのことだった。


「クドドリン卿の計らいで、今日はあと数分で余興の時間があるからな。いつもよりは多少はましだ」


「……クドドリン卿の?」


俺がそう聞き返すと、マーカスは少し『しまった』という顔をして、強引に話を打ち切った。


そして、マーカスの予告通り。

数分後に議会の中断が宣言され、シュメリアによる余興の時間となった。

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